16枚目


「顔も頭も良い金井に劣等感抱いて、馬鹿にされたって勘違いして苛めたんじゃねぇの。」

「っ…るせぇ!なんも知らない癖して!」

「お前が話す気ないんだから理解出来るわけないだろ。最初から話す気ないなら終わった事蒸し返すような事すんな。それにな、少なくとも俺の知ってる金井は人を馬鹿にしない。それだけは覚えとけ。」


北原は言いたいだけ言うと、自分と金井の荷物を持って勢い良く出て行った。

それに続き小西も無言で出て行く。

部屋には手島と平村だけが残った。

高校に入ってからこの三人で居る事が多い。

当然と言うべきか、部屋の主の手島と戸惑いを隠せていない平村が残った。


「吉沢、なんつーか…、大丈夫…?」

「…悪いな…、」


平村が心配そうに眉を下げる。

俺は自然と落ち着いてきて二人に謝った。


「ごめん。」

「…おう、」

「てゆーか…俺らより金井くんに謝った方が良くない…?スゲェ傷ついた顔してたけど…、」

「……………、」


様子を伺うように発言してきた平村を無視した。

今更謝るなんて…有り得ない。





それにしても劣等感か。

確かにな。

あながち間違いではない。

俺は…ー

いつもポーカーフェイスを保つ金井が羨ましかった。

クールで綺麗で頭も良くて、あんな風になりたいって憧れてた。

金井みたいに誰もが自然と目を惹くような…目立つ存在になりたかった。



それは高校に上がってからもそう。

イジメなんてただの気休めだったんだ。

結局残ったのは『あんな事を言わなければ良かった』という後悔と憧れ。

俺が何をしたって金井には劣って、何をしてたって金井に目を奪われる。

何も変わらなかったし、何も満たされなかった。


「で、これからどうする?」

「これから…?」

「だってなぁー、いきなりこんな揉めて、クラスでやってくの辛くね?」

「平村の言う通りだな。教室でも険悪な空気だったら気ぃ使うわ。俺ら高三なのにマジ最悪。」

「……ごめん。」


心底嫌そうな顔をした手島にもう一度謝る。

二人の言う通り、高校ラストが険悪で終わるなんて嫌だ。


「よし!じゃあ謝りに行こう!」

「…は?」

「だーかーらぁー、吉沢が皆に謝れば済む話だろー?仮に吉沢が金井に劣等感抱いててスゲェ嫌いだったとしても、俺らにはぜーんぜん関係ないことだしぃー。勝手に嫌っとけば良い話じゃん?」

「だからって…!謝んねぇ!」

「いや謝るべきだな。昔何があったのか知らねぇけど、皆の前で悪口言って気分害したのお前だから。マジ子供かよ。いい加減にしろよカス。」

「………、」

「一緒に行ってやるからさー、今から三人で謝ろうって、な?」

「…俺もかよ。まぁ良いけど。」

「はぁ?三人って、」

「得策だな。ムリヤリ連れて行かないとお前行かないだろ。平村、行くぞ。」

「イェッサー。」


俺は手島と平村に腕を拘束され、引っ張っていかれた。

行きたくないし謝りたくもない。

でも、分かってる。

本当は自分が悪いってことを。

皆が怒るのは分かるし、それが正しい。

それに本当は…本当は、凄く謝りたかった。

謝りたくないって言ってるのは見せる顔がないだけで…謝れるものなら謝りたかった。

俺は自分の余りの情けなさに落ち込んで、引きずられるように廊下を歩いた。




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