14枚目
(side:吉沢)
「どうしたんだよ!いきなり!」
「…前から思ってた事だし、」
小西が掴みかかってきた。
他の面子も俺を睨みつけてきたが、何も思わなかった。
「吉沢らしくない…」
「マジどうした。あんな事、普段なら言わないだろ?」
平村と手島は俺を睨みつけながらも、驚いたような表情だった。
俺らしくない?
知らねぇよ、らしくないとか。
俺は俺だ。
「アイツ、気にくわねぇだろ?澄ました顔してあんな謙遜して。何考えてるか分かんねぇ。」
アイツ、金井。
俺はアイツが嫌いだ。
中高一貫のこの学校でアイツと出会った。
アイツは昔からクラスで浮いた存在だった。
そんなアイツは俺が友達と居る時に、いつもこっちを見つめてきた。
澄ました顔で。
しかし一瞬だけ、一瞬だけ笑うのだ。
形の良い唇を弧に描き、あの綺麗な顔で笑うのだ。
最初は訳が分からなかった。
何故見られているのかも、何故笑うのかも。
だけど正直、あの頃は嬉しかった。
金井は存在感がある。
そんな奴に見られて、笑いかけられて、悪い気はしない。
俺はあの頃、金井が好きだった。
憧れていた。
しかし、アイツが言ったのだ。
『僕より吉沢君の方が綺麗な顔だよ。』
金井って綺麗な顔だよな、そう言ったクラスメートにアイツはそう返答した。
俺はこの時思ったのだ。
馬鹿にされた、と。
綺麗な顔をして、俺の方が綺麗だとクラスメート達の前で言った金井。
恥ずかしくて、許せなくて、苛立った。
それからと言うもの、金井が俺に向ける笑顔が人を馬鹿にする笑みに見えてきた。
あんなに嬉しかった笑顔が気持ち悪かった。
見られてる、いつも馬鹿にされてる。
そんな不信感が募り、俺は言ったのだ。
「アイツウザイ。」
いつも澄ましていた金井の顔が始めて崩れた。
教室を出て行く金井を見て、ようやく俺の気分が晴れた。
ただ少しだけ、胸が痛んだけど。
「お前なのか…?」
「は?」
北原が俺から小西を引き剥がし睨んできた。
「俺は中等部からこの学校に居た。お前とはずっと違うクラスだったけどな。」
「だから何だよ。」
「昔、どっかのクラスでイジメがあった記憶がある。クラスの1人が綺麗な顔した奴に馬鹿にされたのが原因だって、そんな噂だった。」
へぇ、そんな噂があったのか。
知らなかった。
「イジメ受けてるのが金井だって事はすぐ分かったよ。あの頃名前は知らなかったけど…金井は目立つから。」
「…で?馬鹿にされて、仕返しとばかりにイジメを始めた張本人が俺だと。そう言いたいわけ?」
「……や、…悪い、決めつけだったな。」
北原はハッとし、バツが悪そうに視線を逸らした。
小西は相変わらず俺を睨み続け、平村は訳が分からなさそうにしてる。
手島は顎に手を当て何かを考える素振り。
多分、中等部の頃を思い出しているのだろう。
金井と色々あった三年の頃は別のクラスだったが、手島も中等部からの付き合いだった。
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