07枚目

「金井ー。」


ホームルームの挨拶が終わり、いつも通り帰ろうとしたら声を掛けられた。

振り返れば何度か話した事のある小西君と他数人が後ろに居て体が固まる。


僕何かしたっけ?

何言われるの…


嫌な予感しかしなくて泣きそうになる。

小西君達は見た目に気を使っているような人達だから僕は少し苦手だった。


「昨日の掃除当番サボったろ。」

「えっ……、」


だけど言われたのはあまりにも予想外な内容で拍子抜けする。

小西君の言葉を何度か頭の中で繰り返し、ようやくピンと来た。


「あ、忘れてた…!」


しまった!

なるべく悪目立ちしないようにこういう事は何時もちゃんとしてたのに。

今回に関しては完璧に忘れていた。


「やっぱりなー!金井がサボるとか珍しいなぁって思ったんだよ!」

「そっか…ごめんね…」


僕はしょんぼりと謝った。

ただでさえ皆受験生で忙しいのに、小西君や皆に迷惑を掛けてしまった。


「そんな落ち込むなよ。代わりにゴミ捨て行ってくれたら許してやるぞ?」


笑いながらゴミ箱を指差す小西君の声は冗談を言うような口調で僕はホッとした。

これはイジメでも何でもない。

今回の事に関して悪いのは僕なんだから。


「うん、分かった。」


もし小西君が教えてくれなかったら僕の感じが悪いようになっていた。

だから普通に教えてくれて普通に対応してくれた小西君のその普通こそが凄く嬉しかった。


「教えてくれてありがと。」


僕はニコッと笑ってゴミ箱の方へ行った。

こんな小さい事だって僕にとっては幸せだから。




「あ、金井!」

「っ…なに?」


小西君にまた呼び止められて足を止める。


「この後勉強会すんだけどさ、良かったら来る?」

「え…」


今日は予想外な出来事が多いらしい。

僕はどうしようかと内心焦ってしまった。

だって僕と小西君は特別仲が良い訳でもないし、正直な所、今日初めてまともな会話をしたと言っても良いぐらいの仲だから。

それに小西君の後ろに居る数人の中には昔僕を苛めてたクラスメートかっている。

小西君はともかく、その人達はわざわざ嫌いな僕と一緒に勉強なんてしたくないだろう。


「ごめんね…今日はちょっと…」

「あーそっか。金井って頭良いから教えて欲しかったんだけどな。」

「本当にごめんね…?」

「良いって、じゃあまた誘うわ!また明日!」


そう言って小西君達は教室を出て行く。

小西君以外の人も僕に手を振ったり挨拶をしてくれて、僕は驚きながらも小さく手を振った。


凄く緊張した…。


声が震えるかと思うくらいの緊張感だった。

ただの会話なのに…

だけど今思い出せばニヤけてくるような内容だったのも事実。

小西君が僕に誘いをかけてくれた時、皆もっと嫌な顔をするかと思った。

なのにコッチが拍子抜けするくらい普通で、逆に何を考えているのか不思議に思えるくらい普通だった。

そう言う僕の態度も向こうからしてみれば普通なのかもしれないけれど。


実は罠だったりして…。


微かに疑いを掛けてみた所で、そんな雰囲気は一ミリも見当たらない。

彼らの中で僕の存在はやはりその程度なのか…考え出したらきりがない。




「また誘う、か…」


嬉しいけど少し怖い。

期待と不安に挟まれている感じだ。

もし今度誘われたらどう返せば良いだろうと、真剣に悩みながら僕はゴミ箱に手を伸ばした。




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