#10
「作間。」
「ん…?なぁにッ…っ、」
加持は少し強引に作間を抱き締めた。
それも痛いくらいの抱擁で、作間は顔を歪ませる。
「かじ…くん?」
明らかに様子が可笑しい加持に、作間は不安げな声を出す。
無言で抱き締め続ける加持が心配だった。
「何処にも行くな。」
「え…、」
「何処にも行かないでくれっ…」
普段の加持では想像のつかない悲痛な声に、作間は驚く。
作間は一瞬、何が起こったのかと唖然としたが、すぐさま口を開いた。
「大丈夫だよ?僕はずっとここに居る。加持君の隣に居る。だって…加持君のこと、大好きだもん。」
加持を安心させるよう。
頭を撫でながら何度も何度も繰り返す。
大丈夫だよ
隣に居るよ
大好き
加持はそれを受け入れながら、何故か消えない不安に押し潰されそうだった。
確かに作間はここに居る。
加持の腕の中に存在するのだ。
作間の存在を確かめるように強く抱き締めてみても、この事実は変わらない。
なのにどうして。
加持の胸の中は不安と虚しさで溢れていた。
── どうか消えないで
それは心からの願い。
魂の叫び。
大丈夫、大丈夫。
作間はここに居る。
確かに存在している。
加持は今にも泣きそうな顔を見られないよう、作間の肩に顔を埋めた。
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