#16
あれから松戸を保健室へ運んだ加持は、松戸が眠るベッドの横に添えられたパイプ椅子に座っていた。
布団を頭から被っている松戸を目の前に、表情は勿論、寝ているのか寝ていないのかさえ分からない。
それでも加持はそこを離れずに松戸の傍にいた。
加持が現場を目撃した時、松戸は抵抗などしていなかった。
松戸が想像よりも軽かった事も衝撃的だったが、無抵抗ゆえに出来た傷痕も痛々しくて見ていられなかった。
「松戸、」
「………、」
何か声を掛けたい。
そう感じる一方で掛ける言葉が見つからなかった。
どう見ても大丈夫ではないのに、また大丈夫かと言ってしまいそうになる。
こんな風になかなか思うようにいかない自分が、加持はもどかしくて仕方がなかった。
「…大丈夫、なので…帰っても良いですよ…」
加持の心情を読みとったようなタイミングで松戸のくぐもった声が聞こえた。
「大丈夫って…、」
「……こういうの…、慣れているので…、心配しないで下さい……」
加持はふと、昼間の会話を思い出した。
松戸が苛められているのだと嘉藤から聞いた時、加持は特に何も感じなかった。
あれだけ外見が凄ければそういった対象になるのも頷けると、何気なく納得しただけであった。
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