#14
「気持ちわりぃんだよッ!!」
「ッ…ー!」
加持は放課後、たまたまイジメの現場に遭遇した。
複数の生徒が空き教室で一人の生徒に暴力を振るっている。
それは明らかに一方的な暴力行為で、相手の生徒は随分と弱っていた。
「お前ら何してんだよ。」
「っ……加持か……、お前には関係ねぇだろ。」
「確かにな。…けど見ちゃったもんは仕方がねぇよ。目の前で集団リンチしてたら止めるだろ、普通はな。」
「……チッ、今日はこれくらいにしとくかッ、」
そう言ってその生徒がもう一度蹴りを入れたのを最後に、加害者の生徒達は退散していった。
「お前、大丈夫か?」
「……、」
「……おい、」
まだ教室で倒れている生徒へ向けて加持は声を掛けた。
しかし相手からの返事はない。
ピクリとも動かず横たわる生徒の姿に、うっすら焦りを感じた加持は急いで教室へ入ったが、それでも生徒は動く気配がなかった。
「……松戸?」
横たわった生徒に近付いてみれば、つい数時間前に紹介されたばかりの生徒によく似ている。
いや、似ていると云うか恐らく本人だろう。
先ほど出会ったばかりの松戸、そして今目の前に居る生徒も真っ黒な髪で顔面が覆い隠されていた。
ふと、加持の視界に床に落ちた分厚い眼鏡が入る。
やはりこの生徒は松戸なのだと確信をもって、加持はもう一度生徒に呼び掛けた。
「松戸、‥松戸!」
「………」
身体を揺らしてみても反応がない。
もしかして気を失っているのか…そう頭に過ぎった時、苦しそうな唸り声が聞こえた。
「ン゛ー…」
「松戸!大丈夫か!?」
「ん……」
「松戸!」
松戸は何とか意識を取り戻したみたいたが、苦しそうに小さく唸り体を丸め込んだ。
そして正常に頭が働かない様子で、加持の声に対する反応がイマイチ悪い。
そんな状態の松戸を無理に起こす訳にもいかず、加持はしばらく待つことにした。
"放置していく"
という無情な選択肢は、加持の中に存在しなかった。
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