#08
「シド様。珈琲をお持ちしました。」
自室で書類を片付けている所へアレンが淹れたばかりの珈琲を持ってきた。
いつもすまないと一言返したシドにアレンは優しく微笑んだ。
「いえ、これが私の仕事なので。」
「……言い方を変えた方がいいか…、有り難う。」
シドの言葉にアレンは嬉しそうに微笑んでから部屋を出ていこうと後ろへ下がる。
「あっ…」
「どうした。」
そのまま出て行くかと思ったが何かを思い出したようなアレンの声。
すかさずシドは反応し書類から目を離すとアレンに向き合う。
アレンは珍しく口をパクパクさせ言おうか言わないか考えている様で、本当に珍しいものを見たとシドはアレンが話し出すのを待つ事にした。
そんなシドの優しさに瞬時に気付いたアレンは時間を取らせてはいけないとようやく口を開いた。
「…シド様、最近雇ったネモアという少年なのですが‥、」
「ネモアがどうした。何か問題でもあったか。」
「問題は御座いません。しかし…彼の様な素性の知れぬ者を…子供と言えども危ないのでは、」
アレンは言いにくそうに発言した。
つまりアレンは『ネモアは危険人物』と言う可能性を言ったのである。
全てはシドを想ってこその発言。
シドはアレンのそんな想いを理解し一つ溜め息を吐いた。
「そんな事を言っていたらキリがない。使用人であるお前が俺の命を狙っている可能性も十分ありうるからな。」
「っ…私はそんなこと、」
「誰だって相手の素性は分からないものだ。今更そんな事を言って何になる。」
シドはアレンの目を見て言うと、また書類に目を向け始めた。
それでも部屋を出て行かないアレン。
だからといってシドは無理矢理追い出す様な事はしなかった。
「彼に……新しい服を、」
「嗚呼、あんな見窄らしい格好で居られたら不潔だろ。」
「……、」
アレンはそれ以上何も言わなかった。
最後に「御用があればいつでもお呼び下さい」とお決まりの台詞を残して出て行く。
相変わらず書類に目を向けていたシドは、アレンがその時どんな表情をしていたのか知る由もなかった。
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