#04

少女は未だ残る余韻に浸りつつ、小さな指先で自分の唇を触った。



もう。

あの感触を思い出せない。

確かに感じた悪魔の目蓋を今となっては“ここ”に感じないのだ。



少女は答えを知ってしまった。

何故なら…、悪魔の目蓋にキスをした“あの唇”はもう…ー








「アンジェじゃ、ない、」



自身から出てきたのは、とても幼い声。

絶望に満ちた、少女の声。



「ボクはもう…アンジェじゃ、ない…、」



少女は確認するように何度も云う。

思わずベッドから這い出て、最近買って貰ったばかりの三面鏡を開いた。



子供の身体、女の身体、翼のない身体。

幾ら見ようとも、見えるものは同じ。

どこか堕天使だろう。

天使でも悪魔でもない。



人間ではないか。



「ボクは、人間…?ボクは、ボクはもう、」



まざまざと突きつけられる現実。

少女は自身をボクと呼ぶほどに酷く混乱していた。



アンジェではない、人間に生まれ変わった。

つまりそれが意味するものとは…。


少女は考える。


己は人間、彼は悪魔。

人間と悪魔は住む世界が違う。

容姿も性別も変わり、もう13年は経った。

つまり、つまり、つまり、






「デェイルに…、会えない…?」



考えの行き着いた先には…



絶望しかなかった。



「デェイル…?何で、何で、どこにも居ないの…?何で…、ボクは、ボクは、堕天使になれなかったのッ…!!」



13歳の誕生日だと言うのに、少女はベッドの上で泣き続けた。

これは神が与えた罰なのだと、堕天使になれなかった自分を嘆き悲しんだ。

そして自分が犯した罪の重さを思い知った。



「デェイル、デェイル、もう二度と、アナタに会えないっ…!!デェイル、デェイルッ…!!」





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