03
学園へ見学へ行った日を境に、急かされるように編入の準備を始めた。

もうアイツらとは会わない。

そう強く決めた俺は今までの友人達の連絡先を全て消し、挨拶することもなく、新しい土地へ思いを馳せて編入試験の勉強に打ち込んだ。

そして叔父さんの計らいにより(しかし試験は公平に)急ピッチで手続きを進めてくれ、GWが明けた頃には晴れて新生活を迎える事が出来ていた。


「よ、よろしく…!」


まず、叔父さんに言われ通された部屋は広い会議室だった。

友人は居らず、親元を離れた事もない世間知らずな俺の為に、生徒会、そして風紀委員会の人達に声を掛けてくれたそうだ。

部屋の中をズラリと見渡すと端から端まで美形揃いで目眩がした。


「じ、事情があってこんな格好してるけど…」


一方の俺はと言うと、美形達の綺麗な顔が歪むほど不恰好な変装をしていた。

伸ばせる限りわざと放置した天然無造作ヘアーに分厚い伊達眼鏡。

本来ならマスクもしたい所だが、流石に暑苦しいので我慢している。

せっかく手に入れた新しい環境だ。

この女顔の所為で偏見を持たれるのは二度と御免だった。


「慣れるまではこのままで過ごしたいんだ…!だ、だだだから、協力して欲しいっ…です!」


同年代の人と話すこと自体数ヶ月ぶりなのに何のオマケか沢山の美形に囲まれ、まともに口が回らない。

緊張でカッと体が熱くなってジンワリと嫌な汗も浮かんだ。


「大丈夫、俺らに出来ることがあれば協力するからね。」


上がりまくる俺を見かねて助け舟を出してくれたのは、後に仲良くなる青柳大聖だった。

ニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべ、だから安心してね。と近付いてくる。

一見チャラそうだが、それよりも優しそうな印象の方が上回り、『あぁ、無条件に愛されそうな人だ…』と羨ましく思った。





役職持ちのメンバーへ挨拶し終わった後、他にも紹介したい人物が居ると言われ、要の後を着いて歩いた。

いつまで経っても学内の全てが新鮮で、ついキョロキョロと辺りを見回しながら歩いてしまう。

すると不意に、顔に衝撃がきた。

どうやら要の背中に思い切りぶつかってしまったようで、同時に目的地に着いた事を察した。


「おい…大丈夫かよ…」

「…ッテテ……ゴメン、大丈夫、」

「学校なら嫌でも通う事になるんだから、ちゃんと前見て歩け…。」


気持ちは分かるがちゃんとしろ、と顔に書いた要が、苦笑いで注意してくる。

その顔を見て段々恥ずかしくなってきた俺は反射的に、元々髪の毛で隠している目元を更に隠すよう俯いて、小さな声で再び謝った。


「で、今から紹介する奴だが…俺の親衛隊の隊長をしている天野彼方だ。まぁ仲良くする必要はこれっぽっちもないが、これからの学園生活を守る為には挨拶していて損はない奴だから…」

「親衛隊…?何その裏ボスみたいなの。」

「……ムカつくが強ち間違いじゃねぇな。とりあえず先に事情説明してくるから、俺が呼ぶまでココで待機な。」


どこか悔しそう表情で鼻で笑うのを横目に、天野がどんなに強い奴なのかと俺はドキドキしながら名前を呼ばれるのを待った。

それにしても…俺に紹介すると言っておきながら、要の態度は全身でその天野彼方という奴が嫌いだと物語っていた。

要にそこまで思わせるほど厄介な性格の持ち主なのかと、余計に気が気では無くなる。


「行こう。」


2分ほど経ち、要が部屋から顔を出して呼びに来た。

中には高級そうなソファが机を挟んで2つあり、奥の方に綺麗な顔をした"天野彼方"が、俺たちは目の前のソファに並んで腰掛けた。

ジィっと俺を見つめてくる天野彼方の目が本当に綺麗で、裏ボス的なマッチョを想像していた俺は少し焦りながら、始めが肝心だと元気良く自己紹介をした。


「田代祥平です!クラスは違うけど同じ学年だから宜しくな!」

「…天野彼方です。」


あぁ、神様…と拝みたくなるほどの美声が返ってきて、思わず胸に突き刺さるものがあった。

これは裏ボスに違いないと確信した時、入学前の出来事を思い出した。


「…ぁ、」

「はい?」

「いや、何でもないです…と言うか彼方ってスゲェ綺麗だな!超イケメン!」


思い出した…!!この人、俺が泣いてた時に声掛けてくれた優しい人だ!!

と、本当は声に出したいほど感動したが、必要最低限、素顔を晒す気が毛頭ない俺は、ひとまずノリで誤魔化して笑った。


「俺とどっちが格好良いんだ?」


突然、要が笑いながら質問してきた。


「えっ…えっ!?」

「俺たちにもお前ら格好良いな!って言ってただろ?」

「えっ…えー!!マジ無理!決められないし!」


要は本当にカッコイイし、生徒会長をしているのも納得できる要領の良さだと思うが、現世に舞い降りた天使の如く容姿が優れている上、知らない人にも手を差し伸べれる天野彼方は凄い人だと素直に思う。

互いに連れ合いが取れ過ぎていてマジに決めることが出来ない。


「それを決めるのがお前の今日の仕事だ。」

「何だそれ!俺の反応見て遊んでるだけだろ!」

「チッ、バレたか。」


可笑しそうに要が笑っているのを見て、俺は少し察してしまった。

コイツ…俺の反応を面白がってるのもあるけど、彼方を蚊帳の外にしたいんだなって…。

だって体も視線も俺の方に向いてるし、彼方と話す気はさらさらないって感じだ。

2人に間に一体何があったんだろう…。


「……ぁ、えっと、彼方…改めて宜しくな!」

「…はい。」


色々な事情が気になりつつも、彼方に意識を戻したら、軽く微笑みながら返事をされる。

しかし、先程あれだけ俺を見つめてきた瞳が今は下を向いて目が合う気配がない。

今の会話で何か不味いことがあったのだろうかと不安に感じてしまう。


「挨拶は済んだし一旦お開きにするか…。悪いけど天野だけに話しておきたいことがあるから、祥平は外で待っててもらって良いか?」

「あ、いや…寮の場所なら分かるし先帰ってる!今日はありがとな!」


でも…と心配そうにする要に、一度来た道を大体覚えられる程度にはキョロキョロしまくったから!と胸を張って説得し1人部屋を出た。



今日はじめての一人ぼっちに、ふぅと息を吐いた。

そして小さく笑い、つくづく思う。

新しいこの場所でも、偽りの自分を始めるんだと…俯きながら歩き出した。



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