03
「天野クンは…良いよね?」
「青柳様…?」
青柳様が可笑しい。
こんな姿を見たことがなくて、かなり戸惑う。
「何だって持ってる。賢い頭も綺麗な容姿も人望も…。自信だって満々で、毎日余裕あって楽しいでしょ?」
「…いえ。そんな事ありませんよ。嫌な事だって辛い事だって悩み事だってあります。」
「っ…俺よりはないだろ…!そんなんだから周りに嫌われるんだよ。この間の事件だって本当は下の奴ら…この子らに嵌められたくせに。」
「っ……!」
僕は驚きで震えた。
青柳様が怖くなる。
だって今、今言ったことは…僕達が主犯だって知っているということだ…。
全部バレてる。
僕達が天野を嵌めたって知られてる……!
「僕が、嫌いなんですか?」
ショックで動けない僕と同じように天野も悲しそうにそう言った。
僕が待ちに待った悲しそうな顔。
だけどそれ以上にショックが大きくて何も感じなかった。
「っ…ごめん、でも。今は天野クンの顔見たくない。」
「分かりました…。」
どうしようどうしよう。
青柳様の顔が全く見れない。
ただただ…怖い。
「姫路クンも腕離してよ…。」
「あおやぎさま…?」
「嫌だったんだよね、君。いつも嫌な事しか言わないし、本当は俺のこと嫌いなんじゃないの?」
「そんな事ありません!僕は青柳様がずっと好きでした…!」
「ごめん、受け取れない…。もう離してよ。君と一緒に居て良い事なんて一つも無かった。」
酷い言いようだった。
良い事が無かったなんて…ずっと、ずっと、本当はそう思ってたの…?
僕は涙が出てきてしゃがみ込んだ。
涙と震えが止まらない。
言葉だって出ない。
一番好きな人だった。
一目惚れで、一途に想ってきたのに…酷い、本当に酷い。
なんで、なんで、なんで?
ずっと優しかったじゃないか。
それを突然、八つ当たりみたいに僕にこんなこと…。
「ビックリした。…どうした、この子具合悪そうだが。」
泣きながら顔を上げる。
城本様が扉から顔を覗かせて、心配そうに僕を見ていた。
それで思い出す。
ここは城本様の部屋の真ん前だって。
気が紛れるようにそんな事を考えて、それでもどんどん悲しみがやってきた。
嫌われた、嫌われてた。
「うっぅ、」
「姫路じゃないか…大聖どうした。何かあったか?」
城本様は戸惑いを隠せない声で部屋から出てきた。
「ここの連中はみんな下品なんだよ。」
「大聖、どういう意味だ?」
「分からないかな?ヤるヤらないとか、そんな話ばっかりだ。文也クンだってそう。」
「おい、俺はそんな下世話な話した覚えないぞ。それに…噂の事なら分かってる。大聖が誰とでも寝るなんてデマだって知ってるし、それは前にも話したろ?」
僕は驚きに顔を上げた。
デマ…?
そんなの嘘だ。
だって青柳様は誰とでも寝るって皆言ってる。
誰にでも優しくて誰とでも寝るのは周知の事実じゃないか。
それに実際、うちの隊には青柳様と寝たって人は何人も居た。
「文也クンだけ知ってても意味ないじゃん!それに人のこと言えないっ…!俺にあんな事言っといて天野クンと出来てる癖に、そんなことっ…!」
「はぁ?!待て待て、天野と俺は何でもないぞ!」
「……え?ちょっと、僕と城本君ってどうすればそんな勘違いを!可笑しいですよそれ、むしろ説明して下さい!」
「っ…言い訳なんて、」
「どうしました?何か揉め事ですか?」
次から次へとこんがらがってくる。
次は副会長の椿様が部屋から出てきた。
思い返せばここは役員専用の階だった。
「……。」
しばらく誰も、何も言わなかった。
「とりあえず城本の部屋に入ろう。」
一番冷静らしい、篠山君がそう言う。
その流れで僕らは篠本様の部屋に誘導された。
でも僕は動けなくて、篠山君に支えられながらゆっくりと歩いた。
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