03
放課後、天野から電話がきた。
驚いて少し緊張気味にそれに出る。
「はい。」
『ぁ…天野です。あの…今朝は何か用事があったんでしょうか?ずっと気掛かりでして…。』
「あぁ…、」
それは花壇での事だろう。
思えば俺は今までに自分から天野に話しかけた事なんてなかった。
自分でも意外なんだから、天野はもっと気掛かりだろう。
「別に。気紛れ。」
『…なんだ、珍しいですね。』
ハハ、と渇いた笑い声。
苦笑いを浮かべる天野の顔が脳内に映る。
そうだな、きっと苦笑いしてる。
「まぁ、突然ジャージなんか着て出て行ったから…好奇心が芽生えた。」
『ふふ、本当に珍しい。』
「天野だけには言われなくないな…、お前も十分珍しかった。」
『そう言えば、そうですかね?』
今度は可笑しそうな笑い声。
電話越しの天野の声は新鮮で、やっぱり綺麗だった。
それに…こんなに話した事は今までにない。
親衛隊関係で連絡先を知ってはいたが、電話がかかってくるなんて始めてだった。
『何だか今日は珍しいことばかりですね。』
「…だな。」
『篠山君とこんなに話すのは初めてな気がします。』
「あぁ…俺も思った。」
俺は思わず笑ってしまう。
そして、頭の隅で思う。
もうこの電話は終わりなんだって…。
用件は済んだ訳だし、ダラダラと続ける理由なんてない。
だけど一瞬思ってしまった。
終わらせたくない、天野と少しでも長く話していたい…。
『では篠山君、また明日。』
「天野。」
『…はい?』
何も考えず無意識に呼び止めてしまった。
頭が真っ白になる。
こんな事をするなんて…俺は馬鹿か。
「……、」
『どうしました…?』
「…天野、また、話そう。」
言えることはこれだけだった。
考えもせず思うがままに言う。
少しの無言が不安で、緊張感が高ぶった。
『はい、是非。』
「…じゃあな。」
『はい。また。』
電話を切った途端、急激にドキドキしてきた。
はじめての経験をした時の感覚に近い。
最後…天野は笑って嬉しそうに返事をしてくれた。
頭の中には笑った天野の顔。
何だか早く本人に会いたくなってきた。
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