02
「何してる。」
天野が居たのは俺が見て見ぬフリをした先程の制裁場所だった。
何故だか割れた鉢植えがあったり、花壇の花がグチャグチャになっていた。
それを天野が片付けている。
「片付け、ですかね。」
「…天野がこれを?」
「いえ、ちょっとここで揉め事がありまして…、」
つまりあの後こうなった訳だ。
それにしても天野が片付けている理由が分からない。
「揉めてた奴らが片付ければ良い。」
「そうなんですが…逃げられました。彼らがどこの隊だったのかも思い出せませんし、僕がやった方が早いので。」
「…馬鹿だ。」
「あぁ…はい。」
苦笑いが返ってくる。
返す言葉がないのだろう。
「篠山君も手伝って下さいよ。」
「やだ。面倒。しかも汚れる。」
「…正直な人ですね。」
天野は可笑しそうに笑った。
俺は汚れない階段付近に腰を落として、片付けの様子を見守った。
「汚れなんて洗えばお終いですよ。」
「へぇ…天下の天野様がね…。」
「僕は天下なんて取った覚えはありません。平民です。」
「よく言うな…。それ教室で言うなよ、当て付けに聞こえるから。」
成績も人気も容姿もトップのくせによく言える。
聞いたのが俺で良かった。
姫路や松坂辺りが聞いたら怒りのあまり爆発して死ぬんじゃねぇの。
「了解です。松坂君が怖いですからね。」
分かっているらしい。
今の発言は俺相手だから言ったのか。
天野彼方の本性は計り知れない。
「終わりました。どうですか?汚れてます?」
「いや……でもちょっとだけ、そこ…」
「あー…下もジャージ着てくれば良かった…。」
珍しい。
敬語がなくなって、天野も少しは普通の人なんだなぁなんて思った。
独り言まで敬語だったらどうしようかと思う。
「休みあと一分。」
「行きましょう。残りは清掃員の方にお願いします。」
俺と天野は教室へ戻った。
少し緊張する。
もし天野と一緒に教室へ戻れば、きっと全員の視線を頂くだろう。
それはそれで後々面倒くさい。
変な噂とか経つのは嫌だ。
揉め事のない平和な空間で過ごしたい。
「俺は後で入る。」
「あ…はい。」
天野は奇妙そうに俺を見て、教室へ入った。
数十秒後に後ろの扉からソッと入る。
皆天野を見ているようで、幸い俺は目立たなかった。
それにしても天野は凄い。
これだけの人気者が集まる中で、何故か一番目がいく存在だ。
何故、何故って思う。
だけど理由は分かっていて、それは天野の完璧過ぎる人間性が原因だった。
みんな、天野は完璧な存在だという先入観を持っている。
だからこそ天野が少し人間らしい…普通の事をしただけでも注目したり、例えば教室では無防備に寝ちゃうような、そんな欠点を見つけたいって思ってしまう。
天野は不思議。
とても不思議。
「汚れは洗えばお終いか。」
つくづくと思う。
この学園には揉め事が多い。
でも、その揉め事と真っ直ぐに向き合う天野彼方は、もしかすると石鹸なのかもしれない…。
なんてつまらないジョーク。
だけどやっぱり思う。
汚れきったこの学園が平和に過ごせる地になることを、俺の居場所が見つかることを…
俺は密かに願ってる。
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