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真心文庫
耳に届いたひとつの便り
同時刻

賢人の宮殿 統率の間


聖獣学園生徒会長テルミ・アフロディーテはいつも座る監視カメラの映像スクリーンの席ではなく、生徒会の為に作られた椅子の中でも更に上質なものに腰掛けていた。

代わりに彼の特等席には銀が腰かけている。


理由は

「会長。まだ左目の方は御見えになっていませんの…?」

心配そうに会長の顔を見、一旦事務作業を止めるカンナ。
会長は右のモノクルがかけてあるのとは反対側の、包帯を付けられた瞳に触れた。
そして純粋な笑顔をカンナに向ける。

「気遣い感謝する。これでも良くはなっているんだ。そろそろ視覚も回復に向かうだろう。」

「ならばよろしいのですけど…。御無理は仕事にも支障を来しますわ。」

「肝に銘じておこう。」

会長がカンナを安心させるように暖かく微笑むと、カンナはほんのり頬を染め上げた。
だが、直ぐに頭を横に振り作業に没頭しはじめる。

会長も、目を通していた 来月中に行われる二泊三日の旅行の行き先を絞るための資料を再び見始めた。

その時、目の前に何かが置かれ、コトンという音が会長の耳に響いた。

見ると、それは紅茶の入ったカップだ。温かそうな湯気が立ち上るが、その匂いに会長の嗅覚には反応を示さない。

「…長…召…」(会長、よろしければ召し上がって下さい)

美鈴だ。

「あら。いい香りですわね」

「…謝」(ありがとうございます)

カンナは言うが、やはり何度匂いを確認しても会長はそれを感じることが出来なかった。
だが会長は淹れてくれた美鈴に笑顔を向け、カップを取った。少し熱いがなんとか持てる。

「頂こう。」

最近まで食物を喉に通すという習慣がなかった会長の身体は、最初食べ物を受け入れなかったが今では流動食と飲料なら受け付けるようになった。

ただ問題なのは


「…味…感…」(味は感じられますか?)

テルミは頭を横に振り、美鈴に申し訳なさそうにはにかむ。

「すまない…美鈴。折角淹れてくれたのに…」

「…構…」(構いません。早く良くなって下さいね)

「ありがとう。努力する」

美鈴は空になったカップをさげ、ぺこりと頭をさげてから間の外にある給水の間に向かっていった。



その時だった



「会長。来ましたよ、お目当てのお客様方が」

銀が会長に微笑み、伝えた知らせ。それを聞いた瞬間会長の顔色が変わった。

本当に嬉しそうな笑顔に

だが今度ははしゃぎもせず銀に言う。

「銀。T-35の地点で捕まえようとするように警備部隊に伝えてくれ。」

「そうくるかと思って既に指示は送ってあります。」

「お見事」

そして会長は嬉しそうな顔のまま、カンナの方を見た。すると、彼女は目を閉じながらシーバーを片手に言った。

「手筈は済んでおりますわ。行きたければお行きなさい。但し業務が残っていることはお忘れなきように。ね、会長?」

会長は少し笑い、モノクルを置いたあと、椅子から立ち上がろうとした。だが、片目のせいか、バランスを崩す。
それに気づいたαは会長を支え、立たせた。

「ありがとうα。では行こうか。あの夜と同じ場所へ。」

「御意」


αに支えられながら歩き始め呟いた。




「陽月達を…迎えに。」


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