[携帯モード] [URL送信]

真心文庫
大切な人
聖獣学園体育祭から数日たったある日のこと。
体育祭が晴天だったのに比べて、数日経った今日は空が厚い雲で覆われ
今にも大雨が降りそうな天気だった。
そんな中、炎精組は普通どおりの授業をしていた。
陽月は窓の外、天気を見て、ほんの一瞬、肩が震えていた。
絆も今日の天気を見て少し、陽月が心配になった。

「っと、いうわけで気合のはちまきの説明はこれで終わりだ!
今日の授業はここまでにする!雲行きが怪しいからなるべく外に行かないように!
以上!解散!」

その言葉で陽月は我に返った。

「じゃあ、アタシたち、ちょっとこのあと他のクラスでコンテスト行われるらしいから
見学に行って来るわ。瀬南も来るでしょ?」

少し前までならここでうなずかなかった瀬南も華京院とのことがあって
コンテスト組とはぎこちないが、普通に会話するようにはなった。
しかも彼の好きなコンテストだ。ここで首を縦に振らない彼ではない。

そうして麗・奏・瀬南の3人が部屋を出て行った。うっちゃんもあわてたようすでクラスを飛び出した。

教室に残っているのはみちる、明雄、絆、陽月の4人。
みちるは明雄と話していた。
そしていつの間にかスコトスやストレーガも陽月の意思に関係なく勝手に出てきて緊張感を漂わせていた。
絆は陽月に声をかけた。

「陽月ちゃん・・・」

「・・・何だ?」

「今日・・・雨・・・降らないよね・・・」

「・・・。」

陽月はその言葉でまた空を見上げた。
雨が降らないと完全には言えない。

「絆・・・」

陽月窓の外を見たまま、絆を呼んだ。

「なに?」

「君・・・ここに残るか?」

「え?」

絆は陽月の言葉の意味が理解できなかった。

「君、ここは好きか?」

「うん・・・好きだよ。人も優しい人たちが多いし、色々丁寧に教えてくれるし、陽月ちゃんのこともあたしのことも、解ってくれるし。」

絆は太陽のような笑顔で答える。
陽月はそんな絆を見て思った。

やはり、このまま一緒にはいられない。

町にいたときもそうだった。
何度も絆と共にいたいと思った。
だが、その反対に絆と一緒にいてはいけないと思った。
いつだって自分のせいで他人が犠牲になってきた。
そして絆は今まで育った町を、大切な結ばれ人を犠牲にして陽月についてきた。
前に絆を傷つけ、記憶まで完全に失わせかけた。
誰が何と言おうと
姉・羽月が強く、優しい子だと言おうと
今まで誰かを犠牲にしてきたことも
誰かを死なせたことも全て変わりようのない真実だ。
魔女の血を受け継いでいることも・・・。

「絆・・・君だけ、ここに残れ。」

絆は陽月の言葉に目を見開いた。

「冗談・・・だよね?」

「これが冗談に聞こえるか?」

「だっ・・・て・・・何で?」

「私には・・・君を・・・不幸には出来ない。このまま一緒にいて、私と同じ目で見られ、今までにないものを味あわせることは出来ない。」

スコトスもストレーガも寂しそうな顔で2人を見守っていた。
その時

「そんなのひどいよ!」

絆が机をバンッ!と叩きながら怒鳴った。
話をしていたみちると明雄はその声に驚き、絆たちを振り返った。

「何で陽月ちゃん、勝手にあたしがそうなるって思うの?何であたしが不幸になるって思うの?そんなの違う。間違ってる。」

「今まであったことを思い返せばそうであろう?記憶を失いかけたことも・・・」

「でも、あたし、ちゃんと思い出した!」

「これから先、私と関わったことでさらにひどい扱いを受けることになる。今度は記憶を失うだけでは済まされないかもしれない。」

「そんなの分かんない」

「だがいいことは起こらない」

絆は全て否定しようとする陽月につい言ってしまった。

「もういい!陽月ちゃんなんか大っ嫌い!!」

陽月はその言葉に胸をえぐられるような痛みを感じた。
陽月は立ち上がり、鞄も全ておいて教室から出た。
スコトスたちは1人になる時間が必要とわかっているため、追うことをせず、代わりに絆に少し寂しそうな目を向けた。
絆はさっき言った言葉を後悔しながらも、そっぽを向いて膨れていた。

「絆ちゃん・・・。」

みちるは心配しながら席を立ち、絆のもとに駆け寄った。
明雄はその二人を見たまま立ち上がり、机に腰掛けた。

「絆ちゃん・・・陽月ちゃん追いかけないの?」

「いい・・・陽月ちゃんは・・・何言ったって聞いてくれない・・・」

絆は少し涙を浮かべていたがまだ怒っているようだ。
外ではポツポツと次第に雨が降り、ほんの数秒で大雨となった。

そんな絆を見ていた明雄だったがついに口を開いた。

「絆。」

絆は明雄に顔を向ける。

「お前はあいつのこと・・・なんもわかっちゃいねぇ。」

「へ・・・?」

「あいつにとってお前は大切な人だ。お前はそういうタイプじゃないかもしれねぇけど
その大切な人のためなら自分を犠牲にしてもかまわないっていう奴も居る。
あいつはそういうタイプだな。」

そこで一旦区切り、視線を窓のほうに向ける。
窓の向こうの暗黙が立ち込める空の上のほうを見ながら。

「これはほんの一例だが・・・、その大切な人のためなら自分の身を犠牲にしてでも
自分が不幸になろうとも、相手がそれで幸せになれるって言うんだったら全てを捨てる奴もいる。
相手を守るためなら嘘だってつくし、他の奴を傷つける。相手に嫌われようとも大切な人を優先させる。
自分が居ないほうが相手のためになるならば・・・消える奴もいる。」

絆は明雄の言葉に重みを感じ、目を見開いた。

「あいつはお前が好きだから、好きだからこそお前を突き放した。
お前のことを本当に思って居なければあんな風には言えねぇよ。
・・・嫌われるってわかって出した決断だろうが・・・あんなにはっきり
嫌いだなんて言われちまったら・・・辛いだろうぜ。」

明雄は一度目を閉じた。
そして瞼を開け、絆のほうを見る。

「お前が本当にあいつが好きならいますぐ追いかけろ。
でねぇとあいつはお前に嫌われているという生き地獄の中でいき続けることになる。
大切な人に嫌われたまま死んだとしても死にきれねぇよ。
本当に大切なら・・・・・・行けよ。結心絆。」

絆はその言葉に町にいる結ばれ人の言葉を重ねた。

「あたし・・・いって・・・!」

その時、とても近いところで雷が2,3回なり、落ちた。
絆は目を見開き、席から勢いよく立ち上がる。

「急がなきゃっ・・・・陽月ちゃんが危ない!」

絆は走り出した。
そして教室を出て、急いで外へ向かおうとする。
だが、外は予想以上の大雨で視界がはっきりしない。
スコトスたちもついてきたが同じように雨のせいでどこに陽月が行ったのか分からない。

「陽月ちゃん・・・」

絆は雨の中、入ろうとしたが強い雨だ。
目も開けていられない。
誰にもどうしようも出来ない。

「陽月ちゃんっ!!」

絆は叫んだ。

はやく大切な人の元へ・・・
手遅れになる前に。

[back][next]

20/56ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!