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真心文庫
聖獣学園体育祭 −閉会−
第二種目後、最終種目前の休憩時間。
陽月は会場近くの人通りが少ない場所にある木に寄りかかっていた。
相変わらずの無表情で過ごしている。
絆に強制的に結ばれたポニーテイルが時たま吹く風に吹かれてゆれた。
心地いい風が陽月の前を通る。
静かな時・・・・のはずだったが

「テルミ会長様、頑張ってください!」

突然聞こえた黄色い声で台無しになった。
誰に向かっての言葉か分かっていたが。
陽月は声のしたほうを振り向いた。
案の定、そこに会長はいた。

「会長様のこと、全力で応援していますわ!」

「必ず優勝してくださいね!」

「アフロディーテ様が負けるわけないじゃないですか!」

「ワタクシども一同、会長様のこと、応援していますわ!」

「これテルミ会長様のために家のパティシエに一流のものを作らせましたの!もらってください!」

「こちらは最高の毛並みをしていたメリープの毛で作らせました、タオルです!使ってください!」

「絶対に呪われ魔女なんかに負けないでください!」

「そうですわ!」

「何言ってるの?魔女なんかに負けるわけないですわよ!」

「あんなものが勝てるわけないですわ!」

陽月はその全ての会話を聞いていたにも関わらず、ただ無表情でいる。
会長の様子を見てみる。
笑顔でいた。
陽月はそれを見ると機嫌はよくなさそうに立ち上がった。
そして会長や成金女子たちがいる方向とは逆方向に歩き始めた。
次第に高い位置で結んだ黒髪の後ろ姿が遠くなる。
会長はその背中を少しばかり見ていたが
すぐに女子達の頭が現れ、見えなくなってしまった。

最終種目の始まる放送が流れた。

『・・・終・・・始・・・選手・・・並』

美鈴の落ち着いた小さな声が響いた。
彼女自体の声は小さいが、アナウンスの音量が大きいのでなんとか声は聞こえる。
「最終種目が始まるので選手は並んでください」と言っているようだ。

明雄はスタート地点のところで待機している。
すると横から聞きなれた声が響いた。

「やあ、明雄くん!」

「銀?お前さっきまで落ち込んでたくせにどういう風の吹き回しだよ」

「いやぁ、なんか会長に怒られたらすっきりしたよ!と、いうことで名誉挽回のため勝たせてもらうよ!」

「へぇー。立ち直りが早いねぇ。」

そういうと明雄はヘルガーを出した。
銀はフーディンを出す。
明雄はしゃがみこむとヘルガーの頭にぽんっと手をおいた。

「スタートダッシュはよろしくな、絶対にこの銀淵めがねのめがねへし折ってやろうぜ。」

「・・・よくわからない目標だね。」

スタートはポケモンからなので二人は自分達の行く場所に向かった。

ーーー

全員が立ち位置に立ったことを確認すると美鈴がリレーの始まりを伝えた。

『位置・・・用意・・・開始・・・!』

ポケモンたちは一斉に走り出した。
ヘルガーは炎をまといながら前に駆け抜ける。
やけどしたらまずいという本能からか、みんなヘルガーを避けながら走っている。
フーディンは神秘のまもりの効果でやけどを負わないため、気にすることなく走っている。
だがヘルガーのほうが速いのでヘルガーのほうがリード。

バトンはヘルガーから明雄に渡された。一足遅れて銀へとバトンが渡る。
明雄は十分速いが、銀のほうが年上だ。体力も身長的にも違う。
鼻歌を歌いながら走る銀の横で明雄が荒い息を吐きながら全力で走る。
両者、同じぐらいの速さだ。と、いっても銀が全力なのかは定かではないが。

二人の前にみちるのキューレンとαのエンテイが待機している。
バトンが二匹の口に咥えさせられる。
エンテイが明らかに有利そうだが、みちるの事前の打ち合わせどおり
キューレンはエンテイのほうにエレキネットやエレキボールなどをトラップとして仕掛けたため
エンテイはマヒ状態なり、動きが遅くなっている。
キューレンのほうが10メートルほどリードしている。

みちるはキューレンを待ちながら隣の人物を見た。
隣に居るのは闇と比喩されるαの姿。
みちるよりもあきらかに大きく、あきらかに恐ろしい姿。
そしてみんなと同じように体育着を着ているはずなのだがマントと仮面で全く分からない。
唯一いつもと違うのは腕のところに鮮やかな青いはちまきが巻いてあることだけだ。

(勝てるわけ無い・・・。)

前からキューレンが現れた。みちるは少しほっとしながらバトンを受け取った。
足に自信があるみちるはかなり差を開いたと思ったが次の瞬間
闇が通り抜けた。
αは人間とは思えないスピードで駆け抜ける。低い姿勢で足がものすごいスピードで動く。
「なにあれっ、速っ!!速っっ!!!」
みちるは心の中で次に待つ陽月に謝りながらようやく見えてきたアウラに
バトンを渡そうと手を伸ばした。

バトンはみちるから陽月のエーフィのアウラに渡された。
アウラはバトンを咥えて猛スピードで陽月に向かう。
そのため先に走っていたギャロップの隣に追いついた。
会長がジーニアスから借りたギャロップ。
両者、譲ろうとしない。
陽月はアウラの到着を立って待っていた。

「そろそろ来るかな。」

「・・・・。」

隣にいた同じアンカーの会長がそう言った。
陽月はただじっとアウラの到着を待っている。
少ししてギャロップの姿が見えてきた。
その隣にはアウラもいる。
2匹とも必死に走っている。

「ギャロップ!」

会長はギャロップからバトンを受け取った。
陽月も同じタイミングでアウラからバトンを受け取った。
そして両者走り出す。

両者ともαほどではないがかなりのスピードだ。
会話を交わすことなく抜かし、抜かせれの互角の速さだ。
そしてゴール付近になったとき、あたりから黄色い声が聞こえてくる。

そして両者同時にテープを切った。

辺りがどちらが早かったかということで騒ぎ始めた。

「静粛に!!そこ!おだまりなさい!」

カンナが周りを黙らせた。そして紙を読み上げる。

「今さっきのテープカットの瞬間を映像で確認したところ、会長のほうが
0.07秒差で勝ってらしていました。と、いうことで勝者、海神組!!」

あたりから歓声が沸き起こった。
黄色い声も飛び交う。
そして黄色い声と共に陽月を愚弄する声もところどころあった。
陽月はそんな声も聞いておらず、少しの間、片手で頭を抑え、膝をついて座っていた。
脳裏に一瞬、自分の過去の映像が見えたのだ。
そこへアウラが近づき、心配そうに陽月へ寄り添う。
陽月の顔色が思わしくないことに気づき、競技を見ていた絆が陽月の元へ駆け寄った。
そして隣にしゃがむ。

「陽月ちゃん、大丈夫?顔色悪いよ?」

「・・・問題ない。」

陽月はそう言うと立ち上がり、絆と共にどこかへ去って行った。

「ふぅ・・・。」

息を吐く会長のもとにかけより、タオルや差し入れを渡そうとする女子達。
だがその瞬間会長を守るようにαが殺気を帯びながら前に立つ。
そして後ろからカンナの声が飛んできた。

「会長はお疲れですのに、なんて無礼なことを!ケルディオ!蹴り付けておしまい!」

カンナの指示に従い、ケルディオは水のまとった足で女子達をけりつけた。
女子達は背中を蹴られたのと服が汚れたことに悲鳴をあげ、着替えるために走っていった。
その背中をみてカンナはふんっと向こうを向いた。

そして女子たちの代わりに銀が飲み物とタオルを渡した。
αも今度は何も言わない。カンナも銀は咎めない。

「終わったね、聖獣学園体育祭。」

「ええ、わたくしたち海神組が炎精と十数点差で勝ちましたわ。」

「そうか・・・。」

「じゃあ、会長。このあと閉会式ですが・・・来れます?」

会長は銀の問いにうなずいた。

ーーー

こうして聖獣学園体育祭は会長の閉式の言葉によって閉められた。

生徒達の熱い熱い戦いが幕を閉じた。


結果

優勝 海神組

第二位 炎精組



聖獣学園体育祭 閉幕。

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