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真心文庫
二人の少女
みちるはこれまでになく全速力で賢人の宮殿に向かって走っていた。
あっちでもこっちでもここまで楽しく走ったことは無いとさえ思う。

(新入生!新入生!!)

みちるは寮から宮殿までの長い長い道のりを走ってきたにもかかわらず
心の中で新入生という言葉を何度も何度もリピートさせていた。

「着いた!」

みちるは息を切らしながらも明るい声で言った。
目の前には白い巨大な扉。
会長の権限で話は既についているらしく、
みちるが来た瞬間に扉が音を立てずに開き始める。

(全部開くまで待ってられっか!)

みちるは全部開いていないのにもかかわらず
自分がぎりぎり通れるスペースまで開くと無理矢理入っていった。
いきなり飛び出てきたみちるに驚いて腰を抜かしている門番達には目もくれず
みちるは像をよけ、階段を駆け上がる。



「会長!!」

「やぁ、みちる。よく来たね。」

みちるは息を切らしながらも周りの状況を把握しようと顔をあげた。
目の前にいるのは4人。
いつも以上に上機嫌な会長。
そしてゴゴゴゴゴという効果音が似合いそうなほどの殺気を放つα。
そして二人の少女。
二人とも歳はみちると同じぐらいだろう。
1人はショートヘアで丸くてぱっちりした目の穏やかに困ったように笑う少女。

(わぁ・・・かわいい子。お人形さんみたい!)

みちるが心の中でにやついていると隣の少女の視線が突き刺さってきた。
みちるはそちらに顔を傾ける。
その少女は黒髪を団子に結い上げて猫のような円らな同じ黒の目を持っていた。

(わぁっ!こっちはすっごくキレイな女の子!
どうしよう!どうしよう!なんか美少女萌え的な感情になってきた!!)

みちるがこっちに来てからは珍しいオタク的な興奮状態に陥ったが
必死に心の中で落ち着こうと努力する。
そんなみちるに会長は本題を切り出した。

「こんな夜分遅くに君を呼び出したのは他でもない。
この二人が今日から炎精に仮ではあるが加わることになった。
そこで彼女達の世話を頼みたい。・・・出来るかい?」

みちるは大きくうなずいた。

「はい!わかりました!お任せください!」

「ありがとうみちる。」

会長はそう言うと二人の少女のほうに向き直った。

「では、僕はここで失礼する。困ったことがあれば彼女に聞けばいい。
初対面で不安だろうが、彼女は信頼できる人物だ。
・・・まぁ、同じく初対面の我が言葉を信ずるか信じまいかはそちら次第だが。」

「え、ええと、あり、ありがとうございました!」

ショートヘアの子が慌てて会長にお礼を言った。
団子の子は会長を少し睨んだように見たあと、なぜか分からないが後ろにある何かを睨んだ。

会長はにこりと微笑むとαをつれて向こうに歩いていった。
帰り際にαがものすごい痛い視線を刺してきた。
みちるは一瞬自分に向けられたかとおもい身震いしたが
よく見るとその視線はまっすぐ団子の子に刺さっている。
だがみちるとは違い全く動じていないらしく冷たい微笑みで返した。

(すごいな・・・あのαさんに笑い返せるなんて生徒会の人以外居ないと思ってた・・・。)

みちるはもう一度目の前の少女達を見た。
最初はかわいいとしか思わなかったが
一癖どころか二癖も三癖、それ以上もありそうな子達だ。

(ちょっとこの沈黙は辛いな・・・。
よしっひとまずショートカットの子に話しかけよう。)

みちるは自分に言い聞かせるように小さく頷き、一歩歩み寄った。
視線がみちるの方に向く。

「はじめまして、私、藍崎 みちるっていいます。どうぞよろしく!」

みちるは受けてくれるかどうかは定かではないが意を決して手を差し伸べた。
握手に応じてくれるかどうかでひとまず社交的かそうでないかぐらいはわかる。
するとショートカットの子が少し安心したように笑って言った。

「あたし、結心 絆です。少しの間、お世話になります。」

絆と名乗った子はみちるの手を取り、握手した。
ひとまずみちるは安堵する。話しやすそうな子だ。
手を叩かれたり、いかがわしいものを見るかのような目で見られたら
どうしようかと内心不安で不安でしょうがなかったが
絆の笑顔と手の暖かさに救われた。

「絆・・・すごく素敵な名前だね。絆ちゃんって呼んでもいい?」

「はい。どうぞ好きなように」

「そんな気ぃつかわなくていいよ。自然に話してくれると嬉しいな。
あと、私のことはみちるでいいよ絆ちゃん」

「ああ、は・・・うん、分かった。これからよろしくね、みちるちゃん。」

みちるは思わず心の中でほっとため息をついた。
絆が敬語を使った時点で奏とかぶるかもしれないと
思って 敬語キャラは一人で十分だって・・・! と
内心思っていたので安心した。
第一段階はクリアだ。

(早く二人と普通に話せるようになりたいな・・・。)

みちるはそういうともう一人の子のほうを向いた。
オーラというかなんというか
この子には近づいたらどう反応されるかまったくわからない感じがする。
だがみちるは思い切って言ってみた。
考えて悩みながら躊躇するよりも心を開いて思いっきりぶつかるほうがいい。
まあ、どう返されるかは検討もつかないわけだが。

「はじめまして、お名前聞いてもいい?」

今度はあえて握手は求めないことにした。
なんだか求めてはいけない気さえする。

「・・・・・・・・・・・・。」

(うわぁぁぁ・・・・・
いっちばんキツイパターンきたー・・・!!無言とか辛すぎるって!)

絆が隣で何か小さなジェスチャーしている。
きっと名乗れと言いたいのだろう。
陽月はそれにもそっぽを向いている。
なぜかそれが名前を名乗りたくないと言うよりも、名乗っても無駄だと思っているような感じだった。
絆が小さくため息をつき、笑顔でみちるに言った。

「ごめんね、みちるちゃん。この子は白夜 陽月ちゃん。
ちょっと色々あって、口数が少ないんだ。
気を悪くさせちゃったならあたしが代わりに謝る。」

「あ、そういうことならいいんだ!
謝らないで、嫌われて無いだけまだいいし。
口数って面ならうちのバカな弟も酷いもんだからさ。」

みちるは自分でそう言ったが正直なところ
陽月の口数が少ないと瀬南の口数が少ないとでは根本的に違うと思う。
瀬南が「名乗ったところでなんの意味があるわけ?」というのとは
なんだか別の感情がそれを拒んでいる。そんな気がした。

(・・・というか本当に私陽月ちゃんに嫌われてないのかなぁ・・・?)

内心不安がりながらもみちるは普段どおりに笑顔で言った。
相手の自分に対する態度だけで人への態度を変えるのはあまり好かない。
みちるはまだ声さえ聞いてない陽月に対しても仲良くなりたいと思った。

「かっこいい名前だね。陽月ちゃんって呼んでもいいかな?」

言ってから思うのもどうかと思うが 返事が返ってくることは期待はしないでおいた。

「・・・・・・勝手にすればいい。」

みちるはおもわず「あ・・・」と無意識に声をもらした。
答えてくれた喜びとその思った以上にきれいな声に心の中が満たされた。

(嬉しい・・・。)

みちるは思わずうれし涙が出そうになったが、初対面の人の前で初対面の人間が
涙をこぼしたらさすがにまずい雰囲気になりそうなので
いそいで涙をこすり、身体を階段のほうに向けた。
顔は陽月たちのほうを向けた。

「じゃあ絆ちゃん、陽月ちゃん、いまから寮のほうに案内するね。
聞きたいことがあったら遠慮せずに聞いてね!」

「うん、ありがとう。行こっか、陽月ちゃん。」

絆は笑顔でそう言った。
途中、陽月は後ろを振り返る。
そこにはいつの間にかエーフィとブラッキーの姿があった。
2匹は迷わず陽月のほうへ向かい、陽月が2匹の頭を撫でて何かを呟くとバックの中に2匹を戻した。
きっと中にボールがあるのだろう。
陽月は前を振り返った。

みちるは二人ともいける状態なのを確認するとある場所に向かうため階段に足を踏み込んだ。

奏と麗の待つ紅花の館へ。

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