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真心文庫
待ちわびた訪問者
賢人の宮殿 統率の間


夜遅くにも関わらず、統率の間には生徒会の面々が
刻々と近づいている「聖獣学園体育祭」について打ち合わせをしていた。

「夜も遅いし、今日のところは解散にしますか。」

銀はそういうと生徒会のためだけに作られた上質の椅子から立ち上がった。
彼の横に座っているカンナは打ち合わせの内容を書き綴ったメモを
読み、間違いや書きそびれた内容がないかどうか確認するため読み直している。

美鈴は黙ったまま書類の束を整理している。

αはいつもどおり、席には着かず、会長の近くの壁に寄りかかっていた。
会長が帰るまで待つつもりなのだろう。

当の会長は目の前に広がるいくつもの監視カメラの映像を確認している。
会長は仕事にもかかわらず、そのことをいつも楽しんでやっていた。
みちるといい、炎精組メンバーといい、入園シーズンじゃないときに来た
訪問者は大抵逸材だからだ。

「会長、また待っているんですか?」

「ちょっと銀!会長のお仕事の邪魔はするなとあれほど言って・・・!」

「カンナ、かまわない。」

会長は少し椅子を動かし、銀のほうを向いた。
カンナは少し不満そうだが、会長の命令ならと 自身の作業に戻った。

「で、銀。何が不満なんだい?」

「別に不満と言うわけではないですが・・・。いつも来るとは限らないでしょう?
他のものに任せればいいじゃないですか。」

「ダメだ。他の人間が対応したら最大限の持て成しが出来ないだろう。
訪問者には我が手でもてなしたいんだ。」

そう言うと椅子を元のほうに戻し、監視カメラの映像をじっと見つめている。
銀は会長のそういうと時々見せる遊び心を十分承知しているので
それ以上は言わずにただ一言「楽しんでください。」と笑顔でいい、席に着いた。

「あら、銀。あなた、さっき解散すると言ってましたのにどういう風の吹き回しですの?」

「いや・・・なんだか今夜は来そうな気がするからね。」

「来るって?」

「会長の反応からするとなんだか来そうだからね。」

「・・・だから、何がと聞いているんですのよ。」

「来た!!」

いきなりの大声にαと美鈴以外の全員がびくっと肩を震わせた
二人の脳内ではその声の主が誰なのかは検討はついていたが
まさか、あの会長がこんなに嬉しそうに大きな声を出すなんて
想像もつかなかったので振り向くまで頭の中で
「会長じゃない会長じゃない」と呪文のように繰り返した。

が、

その言葉も見事に打ち消された。
会長が椅子から立ち上がり、銀のほうに駆け寄った。
二人とももう何が何だか分からない。
美鈴は黙ったまま焦る銀と目を子供のように輝かせている会長をじっと見つめている。
会長はいつも以上に上機嫌なようでなんと銀の手を掴んで握った。

「来たよ!!ああ!今夜はなんて素晴らしい夜なんだろう!」

「え?何が・・・ですか?」

さっきまで自分がその質問の対象だったのにもかかわらず
銀は分かっていながらも会長に尋ねた。

「訪問してきたんだよ、彼女たちが!」

「彼女・・・とは?」

今度はカンナがおずおずと尋ねた。
今日の会長には二人のテンションは追いつけないようだ。
だが会長はそんなこと微塵にも気にせずに答えた。
さっきよりは落ち着いているが笑顔は耐えない。

「見ればわかるさ、この後の流れはすべてここのスクリーンで確認していてくれ。
あと、銀。直ちに監視員たちに連絡し、彼女たちが入ってきたらT-35の地点で捕まえようとするように
伝えてくれ。」

「え?捕まえないんですか?」

普通ならばまだ進入さえしていない人間がどこから入り込むのか
分かることが不思議だが、会長のそういう勘は必ず当たるので
そこはあえて触れずに別の疑問を口に出したのだ。

「捕まえられるとでも?」

「は・・・はぁ・・・」

「いいや、下手に手を出して職員の命が危険にさらされたら困るからね。
最初から逃がす気で捕まえれば被害も少ないだろう。
と、いうか捕まえられたら困るんだ。すごく、すごくね。」

会長はそういうと制服を調えながらαのほうに歩み寄った。
αがようやく顔を上げた。αに限ってそんなことはないと思うが
さっきまで寝ていたかのような様子だ。

「あと、カンナ。賢人の間の扉をゆるくしといてくれたまえ。
客人に重い扉を開けさせるのは失礼だからね。」

銀もカンナも頭に疑問符しか浮かばないが
会長の言うことならと一言「了解」とだけいい、
任された仕事をこなすため、複雑な機械を操り、それと同時に無線を入れる。

会長はその様子を見届けるとαに言った。
真剣な、でも楽しそうな、そんな声で。

「行こう。α。迎え入れようじゃないか・・・。待ちわびた訪問者を・・・。」

「御意」


会長はエレベーターのほうに歩を進めながら
小さな声で呟いた。二人の客人の名を。

「陽月と絆を・・・。」

そして小さく笑った。

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