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真心文庫
[.〜 覚醒 〜
あれから1年が過ぎた。
陽月は6つになり、今もまだ拷問と罰を受けている。
日に日に激しく、強く、過酷なものに変わるのは相変わらずでポケモンたちにしていた分の痛みも全て陽月が受けることになった。
だが、陽月は一切声を出さない。
いや、出さないのではなく、陽月は声を失ってしまったのだ。
もう何も話すことも叫びを上げることも出来ない。
もう「出たい」とも思っていない。
ただもう、自分がどうなろうとどうでもいいように拷問を受けても何も叫びも上げない。
それもあって倉島はさらに強く、強くと拷問と罰の威力を上げているのだ。
だが、どんなに威力を強めたところで陽月は痛みと苦痛を感じるが絶対に声を出せない。
だが、それはたった1つの光に救われた。

暗い闇の牢獄の中にいた陽月はいつもと同じように1回のたった1つのパンの食事をした後、膝を抱えた。
そしてふと考える時がある。



―   私  は  、  だ   ぁ  れ  ?   ―



陽月は自分が誰なのか分からなくなっていた。
名前も思い出せない。
何も分からない。
だが、すぐに考え直す。

化け物である堕ちた自分に存在は必要ない

と。
そして何も感じないように、何も考えないように、何も期待しないようにまたさらに膝を抱えた。

その時。

明かりがあるはずのない闇の牢獄の中に小さな光が現れた。
陽月はふと顔を上げてみた。
そこに光があったことに目を見開き、驚く。
まさか幻影でも見ているのか、と思う。
ずっと光を見続ける。
光は陽月の前でずっと動かずに止まっている。

「・・・・」

声を出せない陽月は光を見つめる。
光は陽月に近づき、陽月の凍えた身体を温めるように温かな気を包み込むように当てた。

「・・・・温かい。」

そう言って、陽月は自分で驚いた。
これまで何度も声を出そうとしていたが出せずにいたのに今、光に当たり、声が出るようになった。
陽月は光を見つめる。
光は陽月の額に触れる。
そして頭に直接、言葉を発した。

< 陽月、ごめんなさい。 >

「ひづ・・・き・・・?」

陽月は光に問うようにその名前を繰り返した。

< そう。あなたは陽月。白夜 陽月。 >

「私は・・・陽月・・・」

< 陽月、ごめんなさい。もう行きます。 >

光はそれを最後に消えた。
陽月も数秒、ぼんやりしていたがすぐに瞬きをし、考えた。

「私は・・・白夜・・・陽月・・・」

陽月は自分の名前を思い出した。
そして光を再び捜すように辺りを見渡す。
だが、闇の中で輝く光はもうどこにもいなかった。
代わりに牢獄の扉が開かれた。

入ってきたのは倉島だ。
いつもの笑みで陽月の鎖を解き、拷問の開始を知らせる。
いつものように枷をつけて外に抵抗もしていない陽月を引っ張り出す。
そこまでは同じだった。
だが、違うのは今度は電撃椅子ではなく、十字架の貼り付け台だということ。
陽月は貼り付け台にかなり強く手と足を縛り付けられ、動けないようにされる。
そして陽月を貼り付けた台を立てる。
そんな陽月の目の前に出されたのは陽月の衰弱し、弱りきったポケモンたち。
陽月は目を見開いて驚き、倉島に言った。

「手を出さないと約束したはずだ!」

もう陽月は5つの頃のようには話さない。
1度、声と言葉を失い、変わってしまったのだ。

「お前やっと声出したなぁ、待ちくたびれたぜぇ?」

倉島が陽月の問いに答えず、笑いながらそう言った。

「私がどんな罰も受けると約束すればポケモンたちに危害を加えないと言ったはずだ!」

陽月は倉島を怒りに満ちた目で睨む。
倉島はその目を見て、喜びに満ちたような歪んだ笑みを見せた。

「その目だぁ!魔女の覚醒は近い・・・ポケモンたちをたっぷり痛めないとなぁ、おい!!」

倉島がそういうと周りにいた人間たちが電撃を流す機械と火炎放射器を取り出した。
そしてポケモンたちに近づき、その機械たちを6匹に向ける。
ポケモンたちはなす術も抵抗する力もなく、ただ人間たちを睨みつける。

「やめるのだ!ポケモンたちは関係ない!!」

「心配いらねぇよ。お前が覚醒さえすれば後で一緒に受けてもらうからよぉ、アッハハハハ」

倉島がそういうと人間たちに指示を出す。

「始めろぉ」

そういうと一斉に電気と炎を出した。
ポケモンたちはそれを受けて苦痛の鳴き声を上げる。
それを聞いて陽月の目は怒りの限界を超えた目になり、黒い瞳は様々な色に変わり始める。

魔女が覚醒する。

突然、辺りに黄金色の小さな光がどこかから降り始めた。
それに倉島や人間たちが気がつき、ポケモンたちへの攻撃を止め、光を見る。
そして突然、辺りに何かの振動が陽月を中心に起こり、爆発を起こした。
倉島は顔を少しの間覆っていた。
そして、覆うのを止め、陽月を見てみる。
だが、そこに貼り付けられていたのは陽月ではなかった。

「フフフフッ・・・」

貼り付けられていた人物は笑った。
そして顔を上げる。
その目は様々な色に変わっている。
表情は笑っていた。
だが、目は怒りに燃えている。

「か、覚醒だぁ・・・」

倉島は驚きと喜びの混じった声で呟いた。

美しい白銀の長い髪
輝く様々な色に変わる虹色の瞳
貴族が着るような黒い綺麗なドレス
その姿は西洋の肖像画のからそのまま出てきたような美しい女性だった。
そしてその周りには黄金に輝く光を持っている。

「愚かな人間たちだな」

女性はそういうとまるでそこには最初から何もなかったかのように意図も簡単に貼り付け台から優雅に降りてきた。
周りにいた人間たちは全員息を呑む。
倉島は興奮気味に言った。

「覚醒だぁ、覚醒したぞぉ・・・これだぁ、これを待っていたぁ、あの化け物はやはり魔女だったぁ!!」

女性は「化け物」という言葉を聞き、怒りの目をさらに強めた。
そして手から黄金色に輝く光を出し、ポケモンたちに与えた。
ポケモンたちの体力と傷が回復する。
そしてポケモンたちは起き上がった。
だが、その目は赤く輝いている。
そして主人でないはずの女性を守るようにして倉島や人間たちの前に立ちふさがる。

「貴様らに問う。」

女性はそう言うと黄金色の光の玉を何個も片手から自由自在に作り出す。

「妾が簡単に捕まるとでも思うか?」

そして向けられただけで寒気を感じるような冷たい笑いを浮かべて作り出した光を宙へ投げる。

「力だぁ、その力があればおれは成功する!!」

倉島は女性の言葉が耳に入っていないらしく、そう言うと強力な電撃を放つ機械を女性に向けた。
女性はその笑顔のまま、倉島に言う。

「人間風情の作ったもので妾を捕まえようなど・・・
笑わせるわ!」

女性はそう言うと宙に投げた光をスコトスに当てる。
スコトスはそれに当たると目を見開き、シャドーボールを1回に何発も強力なものを撃った。
どうやらあの光は力を与える光のようだ。
その光を女性はポケモンたち全員に当てる。
ポケモンたちの力は増し、強力な攻撃をする。
人間たちはそれに当たり倒れる者たちと何とか避け、ポケモンを出す者たちがいた。
敵のポケモンが攻撃する前に威力を増した攻撃をする陽月のポケモンたちが全員を打ちのめす。
さすがに倉島もそれに驚いたらしく、少し恐怖の表情を見せた。

「炎だぁ!炎を放てぇ!!」

倉島は周りにいた人間たちに指示をする。
人間たちは急いで機械を構え、女性とポケモンたちに炎を放った。
辺りは火の海と化す。
だが、そんな中を女性とポケモンたちは平然としていた。
炎に囲まれているのに全く燃えていない。

「どうやら貴様らは妾を見くびったようだ。魔女に貴様らのような外道の炎が利くと思ったか?」

女性はそう言うと今度はその炎を利用した光の玉を片手で意図も簡単に作り出す。

「1つ言っておこう」

女性はそう言うと炎の玉を倉島や人間たちに向ける。

「陽月を侮辱するということは・・・」

女性は冷たい怒りの笑顔で言った。

「妾を侮辱するのと同じことだぞ?」

そしてその炎の玉を一斉に倉島へ人間たちへ放った。
ポケモンたちも怒りの思いを込めて技を放つ。
人間たちは怖くなりその場から逃げ出す。
倉島も同じように逃げ出した。
実験場が爆発する。

しばらくして炎が消えた。
実験場は悲惨なことになっている。
女性はポケモンたちに優雅に歩み寄る。

「ご苦労だったな」

そう言って笑った。
ポケモンたちも目を覚ましたらしく、もう力はいつもの自分たちの力に戻っている。
だが、傷と体力は回復したようだ。

「さて・・・」

女性はそう言うと手から黄金色の光を作り出す。
そしてそれを宙に浮かばせた。
するとどこからか、別の光が現れた。
白く輝く、牢獄の中にいたときに陽月が見た光だ。
光は眩しく輝き、姿を現した。
温かな色をした黒髪に黄金色の瞳をした女性だ。

「アイリア」

女性は光から現れた女性にそう言った。
アイリアと呼ばれた女性は辺りを見渡す。

「ミレニアム」

アイリアは自分を呼んだ女性に言った。
ミレニアムはアイリアを見る。

「相変わらず、怒りの加減が分かっていない」

「仕方なかろう。妾は怒りを持つように生み出されたのだから。」

『陽月は・・・陽月は無事ですか?』

アイリアの中から別の声が聞こえた。
ミレニアムはその声に返す。

「案ずるな。そなたのお陰で自分が誰なのか思いだしたぞ」

『そうですか・・・』

声は安心したように言う。

「しばらく安らかにしていろ。妾が覚醒したということは陽月はいつでも妾を呼ぶことが出来る。何かあれば妾が手助けしよう。」

ミレニアムは声を安心させるように言う。
声はそれに安心したのかもう何も言わない。

「しかし・・・長い年月が過ぎたものだ」

アイリアに戻り、アイリアは呟いた。

「千年は実に退屈であった。退屈は魔女を殺す。」

ミレニアムも肯定するように言った。

「お父様が我らを転生し、我らは様々な時を様々な白夜の者たちの中へ輪廻を続けた。だが、2人の血の繋がる少女はなかなか現れない。
やっと見つけたこの世界、気づけば千年も経っていた。」

「妾の名が千年を意味するからな。それが原因なら、退屈の原因は妾ということになるな。フフフッ」

ミレニアムは笑う。
アイリアも微笑む。

「これから先、陽月はどうなる?」

アイリアはミレニアムに問う。

「分からぬ。だが、いい扱いはしないだろうな。白夜は元々魔術師の家系。妾や姉である光のそなたが魔女であるように白夜には魔術師の血が混じる。
陽月はこの先、噂されている 呪われ魔女 として扱われることになる。
全く・・・人間というのはつくづく厄介な生き物よ」

「あなたは陽月が気に入っているようだ」

アイリアがそう言うとミレニアムは目を瞑り、薄ら笑いを浮かべる。

「そうだな。陽月はお父様の書き記した書を読んでから、時にいるかどうかも定かではない妾に心の中で話しかけてくれる。
まだ幼いというのもあるのだろうか・・・それでも嫌われ続けていた魔女という存在に笑顔で話しかけてくれた。
嬉しそうにその日の些細なことも語りかけてくれるのだ。
妾は陽月が気に入っている。」

「そうか・・・あまり陽月に辛い思いをさせるでないぞ。羽月が悲しむ。」

「そなたも羽月が好きなようだな」

「ああ。羽月は突然現れた我を快く受け入れ、その役目を果たすためしばらく一緒にいてくれる。」

「この白夜の姉妹はとても愉快だ。」

ミレニアムは自分の胸に手を当てる。
陽月のことを感じているようだ。

「そろそろ我らは戻ろう。」

「そうだな。陽月が目覚める頃には妾の記憶はないが・・・それでも良いか。」

ミレニアムがそう言うとアイリアはまた光となり、どこかに消えた。
ミレニアムも目を瞑り、いつの間にか陽月に戻った。

魔女の覚醒・・・それが本当の始まりだったのかもしれない。

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