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真心文庫
X.〜 牢獄 〜
しばらくして陽月は目を覚ました。
陽月が今いる場所は生きているのか死んでいるのか
動いているのか動いていないのか
そもそも存在しているのかさえ分からないような
とてもとても暗い暗い闇の中だった。
中はとても冷たく、気持ちが悪いほど静かだった。
立ち上がろうとするが何かに引っ張られて立ち上がれない。
どうやら鎖で繋がれているようだ。
首、両手首、両足首に重く冷たい枷が取り付けられている。
何とか自分は生きていることは分かるくらいだ。
辺りを見渡すが真っ暗闇の中、何も見えない。

「どこ・・・?」

何となく呟いてみた。
だが、それに答える声はない。
ポケモンたちもどこにもいない。

「みんなは・・・・?」

どこを見渡してもやはり暗闇しかない。
陽月は自分の膝を抱えて、寒さを凌ぐように身体を丸めた。
その時、突然扉が開いた。
扉から漏れ出ている光に思わず目を細める。
入ってきたのは白衣を着た中年の男だった。
陽月は光に目が慣れると目を開けた。
男は陽月の前で立ち止まる。
そして、気持ちの悪い歪んだ笑みを見せた。

「呪われ魔女めが」

最初に言われた言葉だ。

「ポケモンたちは・・・どうしたの・・・?」

陽月は震えながらも聞いた。
男は穢いものを見下すように答える。

「あれならまだ無事だ。まあ、少々扱いは荒いがな」

「何で・・・こんなこと・・・?」

男はさっきよりも歪んだ笑みで答える。

「化け物であるお前に少々興味を持ってねぇ。実験に付き合ってもらおうと思っただけだ」

「実験・・・?」

「お前が本当に魔女であるか知るために実験すんだよ。幸い、お前には何もいないからなぁ、好きなように扱っていいんだってよ。
それに、そっちのほうが町の人間は助かるみたいだ。
おれが引き取るっつったら、喜んで渡してきやがった。
お前で実験が終わって始末すりゃ、おれは町の英雄ってわけだ、はっはっはっは」

男は笑う。
まだ幼い陽月には全てが分かったわけではない。
それでも分かることは
もう誰も自分を助ける人はいないということと
自分がいると人が不幸になることと
近く、消えてなくなるということだった。

「ま、せいぜい残りの時間、楽しむんだな。この牢獄の中で、くっははははは」

男はそういうと去って行った。
また扉が閉められ、辺りは真っ暗になる。
陽月は光も何もないこの牢獄で膝を抱えた。
全てが恐怖だった。
その日はそれだけで終わった。

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あきゅろす。
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