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真心文庫
W.〜 捕獲 〜
次の日。
まるで嵐なんて最初からなかったかのように空は青く
澄み切っていた。
だが、そんな綺麗な空は陽月には色を持たない灰色のものにしか見えなかった。
八雲と空海は・・・亡くなった。
今日は2人の葬式だ。
陽月はまだ笑顔がある2人と撮った写真を持って、たたずんでいた。
2人の知り合いや知り合いの連れてきたポケモンたちが陽月を見て話をしている。

<雷に打たれたんですって>

<全身水浸しだったそうよ>

<何でもあの子を庇って、らしい>

<あの子?誰の子?>

<白夜さんの娘よ>

<えー?じゃあ、自分の子供を庇って亡くなられたの?>

<みたいよ>

<あの子、前の災害の時にも問題起こさなかった?>

<ああ、あの崖崩れのやつだろ?何人もの人やポケモンに怪我を負わせたやつ>

<何でもあの子が近くを通ったら雨も降ってなかったのに突然崩れ始めたそうよ>

<やだ、怖いわ>

<白夜家って魔術師の家系らしいわ>

<魔女ってことか?>

<そうそう>

<まだ小さいのに怖いわねぇ>

<あの子が生まれた日、あの子のお姉さんも失踪したのよ。>

<まだ見つかってないんですって>

<もう5年になるわ>

<もう生きちゃいないだろうな>

<可哀想・・・とってもいい子だったのに>

<あの子が生まれて突然失踪なんてね>

<呪われてるのね>

<あれは人間じゃない。化け物だ>

<魔女だから呪われてるのね>

<逆だろ。呪われてるから魔女なんだよ>

<不幸になるわ。関わらないほうが身のためよ>

<呪われ魔女よ、呪われ魔女>

呪われ魔女、呪われ魔女、呪われ魔女、・・・・・・

周りの大人たちはそんな話をしている。

(魔女・・・・)

前に本で読んだことがある。
やはり白夜の家には魔女の血が入っているようだ。
だが、そんなことは今の陽月にはどうでもよかった。
そんな事実より
何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も
陽月の心を傷つけるものは
自分が母と父を殺したという事実だけだった。
もしもあの時、大人しくしていれば
何もないはずだった。
自分に向かってきた災害も
他の誰かに
それも自分の両親に
当たることはなかった。
あの時、自分に当たっていれば
何も誰も失うことはなかった。
葬式が終わり、陽月は家への道をトボトボ歩いていた。
誰も待っていない家の中に入り、電気も点けずに部屋の隅で身体を丸めて座る。
外に出していたスコトスたちも後悔しているように
目を瞑っている。
もしも指示されずにボールから出て
ポケモンである自分たちが外にいる野生のポケモンたちを助けに行っていれば
こんなことにはならなかった、と思っているのだ。
スコトスたちは自分を責め、後悔し続けている陽月を見て、決意した。
例え指示されなくても
怒られても
嫌われてもいい。
主人の危機には誰に何を言われようと
されようと
絶対に助ける、と。
そう心に決めた。

陽月は立ち上がり、鞄を持って、中に自分にとって最低限必要になるものを中に入れ始めた。
陽月に他に身内はいない。
空海の両親は既に他界している。
八雲の両親は八雲を養子として引き取っただけで
本当の両親はもう既に彼が幼い頃に病気で亡くなっている。
陽月には血の繋がる身内はもういないのだ。
たった1人、姉を除いては・・・。
陽月は誰にも迷惑かけることのない場所に行こうとしているのだ。
そこで一生を過ごすのもいいと思いながら。

「さようなら・・・」

陽月は誰もいない家に呟いた。
スコトスたちも目を瞑り、別れを言う。
その時だった。
突然、家の扉が乱暴に開いた。

「誰?」

陽月がそう言い、見てみると何人もの大きな男たちがいた。
スコトスたちが陽月の周りに着き、男たちを警戒する。
男の1人が何も言わずに小さな陽月の腕を力強く掴み、乱暴に引っ張る。
ルナがサイコキネシスでその男の動きを止めた。
だが、次の瞬間、1人の男が背後からルナに近づき、ルナは声を上げることもなく、倒れた。

「ルナ?!」

陽月はルナの名を叫ぶ。
次にストレーガが攻撃しようとする。
だが、また同じように男が近づくと音もなく倒れた。
よく見るとその男が持っているのは電気をバチバチといわせながら放つ、機械だった。
スコトスがその機械を壊そうと近づくと後ろからサマヨールが現れ、スコトスの動きを止める。
動きの止まったスコトスに男は近づき、その機械をスコトスに当てた。
スコトスも音もなく倒れる。
そして今度はアウラやアウル。
最後にルーチェ。
みんな音もなく倒れる。

「みんなっ・・・!」

陽月は叫ぶ。
だが、男たちは陽月をただ恐ろしいものを醜いものを哀れなものを汚らわしいものを見るような目で見下す。
ポケモンたちは乱暴に男たちが持ってきていた檻の中へ押し込められる。

「ダメっ!乱暴にしないで!」

陽月が男の手から逃れ、ポケモンたちに駆け寄ろうとしたとき
陽月の身体に一瞬、目の前が真っ暗になるほどの激痛がはしった。
男の1人が強く、憎しみのこもった蹴りで
陽月を蹴り飛ばしたのだ。
意識が朦朧としている。
目の前がかすんでいる。

「っ・・・・!!!!」

その痛みは到底、5つの少女が耐えられる痛みではない。
陽月は目の前がかすむ中、檻に乱暴に入れられるポケモンたちを見ていた。

「捕獲完了」

男の1人がそう言ったのを聞いて
陽月の意識は遠のいた。

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