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真心文庫
V.〜 歯車 〜
今日は少し、小ぶりの雨が降っていた。
陽月は家の中で過ごしていた。
ポケモンたちはボールの中に入っている。
何もすることがなく、退屈そうだ。

「むぅ・・・」

陽月は椅子に座ってログテーブルに突っ伏せていた。

「フフッ。陽月、つまらない?」

「うー・・・」

空海は笑いながら陽月に問う。
陽月は少し顔を上げて退屈そうな表情を浮かべていた。

「そうね・・・じゃあ、雨に濡れないように外にある洗濯物、急いで取りに行ってくれる?小さいものしかないからすぐ終わると思うから。」

空海がそう言うと陽月は身体を起こして少し明るい表情で外に出た。

「行って来ます!」

陽月は外の小さな洗濯物をバスケットの中に入れるとすぐに帰ってきた。

「母様、出来ました。」

少し濡れた陽月は笑顔で言った。
空海はすぐに大きめのタオルを持ってきて陽月の頭にかぶせると
優しく拭いてあげた。

「はい。ありがとう。」

陽月は少し嬉しそうにはにかんで笑った。
奥のほうから八雲が紅茶のカップを持ちながら出てきた。

「お、陽月、お手伝いか?」

「うん!父様の手伝いもしますよ?」

陽月は純粋な笑顔で言った。
八雲はとても大切なものを見るような目で陽月を見た。
そして陽月を抱き上げ、微笑んだ。

「陽月がいれば十分だよ。」

「みぃー!」

陽月はいきなり抱っこされて驚き、思わずそんな声を上げた。
だが、やはりどこか嬉しそうだ。
空海はそんな様子を微笑ましく見守っている。
誰も知るわけない。
この日々たちも
すぐに消えてなくなること・・・。

それから数日後。
嵐が訪れた。
とても強い風と大雨が家々を揺らし、窓を叩く。
海は激しく波を打ち、空は黒く不気味な渦を描く。
ひどい嵐だ。
陽月は窓から外を見ていた。
窓はガタガタと音を立てている。
木々も強い風で激しく揺れている。

「陽月、窓の近くは危ないからこっちに来なさい。」

空海が陽月を手招く。
陽月はそれに従い、窓から離れた。

「しばらくは外に出ないほうが良さそうですね。」

「そうだな。」

八雲と空海はそんなことを話していた。
陽月はずっと遠くから窓の外を見ている。

「空海、茶でも淹れてくれないか?」

「はい。」

空海は八雲のための紅茶を淹れるため、台所へ入った。
八雲は椅子に座って少し眠そうにしている。

「うー・・・う?」

陽月は外にある中庭にある大きな木の下に小さなものが群がっているを見た。

「・・・?」

よく目を凝らす。

「ポケモン・・・?」

木の下で群がり怯えている野生の小さなポケモンたち。
陽月は窓の近くに歩み寄り、もっとよく見てみる。
どうやら、本当にポケモンたちのようだ。
木があるのは丘の頂上。
崖近くだ。
海にも近く、津波が来れば大変だ。
今、その海は大きく激しく崖の岩に打ち付ける。
陽月はこの時、胸騒ぎがしていた。
何かを失うような
何か大切なものが失われるような
そんな嫌な予感がした。
ポケモンたちが波や雨、風に怯えて動けないでいる。
そして後ろからは大きな波が押し寄せようとしている。
陽月は反射的に危ないと思い、外へ出た。
それに気づき八雲が声を上げる。

「陽月!?」

陽月は強い雨と風の中を必死に走り、木まで辿り着いた。

「陽月、戻ってきなさい!」

後から気づいた空海が八雲と共に家の扉の前でそう叫んでる。

(ごめんなさい。でも、もう少し待って。)

陽月は心の中でそう言った。
そして根元で怯える小さな野生のポケモンたちに手を差し延べる。

「ほら、おいで?」

だがポケモンたちは突然現れた人間に驚き、動こうとしない。
陽月はそんなポケモンたちに優しく微笑む。

「大丈夫。しばらく家にいれば安全だよ。」

そう言うと明るい笑顔を見せた。
ポケモンたちはそれに安心し、陽月にすがる。
津波がどんどん押し寄せてくる。
陽月はポケモンたちを抱えて家に走って帰ろうとした。
その時。

ゴロゴロゴロ

大きな雷の音が聞こえた。
空には不吉な黒い雲が渦を巻き、その中心に電気がはしっている。
津波も容赦なくやってくる。

「陽月!!」

八雲の声が響く。
雷と津波が同時に陽月へ向かう。
陽月はそのあまりの出来事に何も出来ず、動けなくなった。
陽月は目を瞑った。
津波が陽月とポケモンたちをぬらす。
だが、なぜか雷だけはいつまで経っても落ちてこなかった。
陽月は恐る恐る目を開ける。
そこで見たのはとんでもない光景だった。
陽月は上を見上げたまま、目を見開く。
これは嘘だと思いながら・・・

「父・・・様・・・・?母・・・様・・・・・?」

八雲と空海が陽月を守るように庇っている。
そして2人も同じように津波と雨で身体を濡らしていた。
だが、1つ違っていたことは
2人の周りに電気が帯びていたこと。

「父様・・・?母様・・・?どうしたの?」

陽月は2人に呼びかける。
嘘だ・・・

「どうして返事してくれないの?父様・・・母様・・・」

陽月が2人に触れようとしたとき、電気で拒まれた。
そして2人はゆっくりと倒れる。

「父様!母様!起きて!お願い、起きて!」

陽月は必死に呼びかける。
目に涙を溜めながら必死に呼びかける。
だが、返事は返ってこない。

「お願い・・・!お願いだから返事をして・・・!」

何度も何度も呼びかける。
嘘だと、これは夢だと思いながら何度も何度も呼びかける。

「母様・・・!父様・・・!お願いだから返事をして・・・お願いだから・・・私を叱って?
何で外に出たって言って叱って?お願いだから・・・またお話聴かせて・・・?
聴かせてよ・・・お願いだから・・・
お願いだから・・・・また・・・私に・・・」

― 笑って? ―

その願いは虚しく、誰にもどこにも届きはしない。
陽月は何をしても無駄だと悟りただ、どうしようもないことを吐き出すように
これは夢だと思いたいがために叫んだ。

「嘘だッ!!」

ポケモンたちはそんな陽月を見て
同じように泣いていた。
雨はより一層、強くなる。
歯車が動き出す。
陽月の歯車が
動き出す。

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あきゅろす。
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