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真心文庫
T.〜 平穏 〜
とても穏やかな海風の吹く、昼の晴れた沿岸近くの丘の上。
そこには1軒、とても大きいとは言えないが他の家と比べると大きく立派な家が建っていた。
家の後ろ側には広い中庭があり、海を見渡せる丘の頂上には大きな木がある。
その木の下に長い黒髪のとてもかわいらしい少女が少女のポケモンと思われるポケモンたちと一緒に
安らかに眠っていた。
穢れも罪も何も知らない、その寝顔は小さな少女にはピッタリで
とてもかわいらしく、見た者の誰もが思わず微笑みをこぼしてしまうほどだった。
少女はまだ5つほどと思われる。
そんな少女の元へ、1人同じように黒い髪を持つ、優しい目をした女性が近づいた。

「陽月」

女性はそう、眠っている少女に優しく声をかけた。
陽月と呼ばれた少女はゆっくりと目を覚まし、自分を呼んだ人間の顔を見ると
とても愛くるしい、明るく、光のような笑顔を向けた。

「母様!」

陽月は元気に女性に言った。
女性・陽月の母、白夜 空海(そらみ)はそんな陽月に優しく微笑んだ。
一緒に眠っていたポケモンたちも目を覚ます。

「よく眠れましたか?」

「はい!」

「そう。」

空海は笑顔で答える陽月を微笑ましく見た。

「そろそろ中にお入り。あなたの好きなお茶菓子、用意していますから。ほら、あなたたちも。」

陽月はポケモンたちと一緒に起き上がる。

「行こ、みんな!」

陽月はポケモンたちを振り返り、そう言うと空海と一緒に歩き出そうとした。
その時、エーフィのアウラとブラッキーのアウルが陽月を押し倒して走り出す。

「大丈夫?」

空海は少し心配そうに陽月に聞いた。
だが陽月はすぐに立ち上がり、笑った。

「大丈夫!」

そして前のほうで楽しそうに待つアウラとアウルに歩み寄る。

「走ろう?」

陽月がそういうと2匹はうれしそうに鳴き、走り出した。
陽月も楽しそうに2匹と走り出す。
空海もそんな陽月の姿を見て、思わず笑みがこぼれた。
そしてゆっくりと家の中へと歩み始める。

陽月たちは家に入り、暖かな色をした明かりの下にある、ログテーブルの席についた。
ダークライのスコトスは陽月の左隣、ムウマージのストレーガは陽月の右隣、アウラとアウルは足元、クレセリアのルナは後ろ、メロエッタのルーチェは陽月の膝の上に座っていた。
この家の中もなかなか大きく、クレセリアのルナでさえ入ってしまうほどだった。
陽月はポケモンに囲まれながら、空海の作ったお茶菓子を紅茶と一緒に幼い子供にしては行儀よく食べた。

「どう?おいしい?」

空海がそう聞くと陽月は満面の笑みで答えた。

「うん!おいしいよ!」

「よかった。」

空海は陽月の頭を撫でて微笑んだ。
ポケモン用のお茶菓子もポケモンたちは気に入ったらしく
おいしそうに頬張っている。
スコトスでさえ、黙々とだが、口に含むことを止めない。
みんな穏やかにお茶の時間を楽しんでいた。
その時、2階のほうから誰かが降りてくる音がした。
陽月は一旦お茶を飲むのをやめて、そちらに目を向ける。
降りて来たのは陽月の父・八雲だ。
八雲は爽やかな笑顔と共に降りてきて、陽月を見つけると明るい笑顔をした。

「いっぱい遊んできたか?」

陽月はその問いにも元気いっぱいに答える。

「はいっ!」

八雲はその姿を見ると本当に嬉しそうな顔で陽月に近づく。
陽月も嬉しそうにしている。
八雲が来るとスコトスは素早く席から離れ、後ろに立つようにした。

「いや、スコトス、いいよ。僕は陽月と一緒に座るから。」

八雲がそう言った。
そしてまだ小さい娘を抱き上げ、陽月の座っていた席に座り、陽月を自分の膝に座らせた。
アウラとアウルが邪魔にならないようにルナの背に飛び乗った。
ストレーガも食べ終わったため、後ろでのんびり浮遊していた。
陽月はその間、ルーチェを落とさないようにしっかり抱きかかえていた。
スコトスはまた自分のいた席につく。
そして幼い主人を見てみた。
陽月は笑顔でスコトスを見ている。
スコトスはそれに満足したように目を瞑り、穏やかな表情になった。
周りで見ていたルナたちはそんな姿をとても穏やかに見守っていた。
少しして空海が八雲のためのお茶菓子を持って台所から出てきた。
それを紅茶と一緒に八雲に出す。

「ありがとう」

「いいえ。」

海空も八雲も笑顔だ。
陽月はそんな2人を見ると同じように自然と笑顔になった。
しばらく、他愛のない話や冗談を3人は話していた。
そんなありふれた時間。
他愛のないもの。
平穏な日々が続きますようにと
何も知らなくてもよかった幼い少女は
ずっとずっと
願い続けていたのでした―。

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