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真心文庫
失われた記憶
ごめん・・・・

「・・・?」

ごめんな・・・絆・・・。


「なぜ答えぬのだ?」

私は目の前で黙り、俯く爽に問う。
絆が傷だらけで帰ってきた。
爽は危害を加えていない。
いや、やつに加えることは絶対に出来ない。
なぜなら、絆が愛しい存在のはずだからだ。
それに危害を加えたのならわざわざ私のところには来ない。
ならば・・・やったのはあいつらだ。

「黙っていては分からないであろう?やつらは絆に何をしたのだ?なぜ絆はボロボロなのだ?そなたなら知っているはずだ。」

「・・・・・。」

まだ黙っているか。
やつらを庇う気か?

「そなたはやつらを庇いたいようだ。そなたが答えないのなら、やつらに聞けばいい話だな。」

私が爽の横を通り、外へ出ようとしたところで腕を掴まれ止められた。
私は爽を睨む。
爽の手には強い意志の力が込められていた。
これは・・・怒りか?

「やつらに聞いたって答えなんかしねぇよ・・・自分たちの都合のいいように言い換える。俺が・・・説明する・・・。」

爽は何かに咎められるような面持ちで話し始めた。
何があったのか・・・その全てを。
その真実は私の心を深くえぐる。
絆は・・・戦ったのか。
自分の力で・・・戦ったのか・・・。
私のせいで・・・・・自分を傷つけたのか・・・・・・。
絆は自分の意思を貫くために、私が人間であるとやつらに伝えるために、どんなに傷つき痛もうと、泣かず嘆かず信じるものを貫くために戦ったのだ。
だが、絆の信じたものは、自分を傷つけてまで信じようとしたものは・・・私だったのだ。
それが過ちであることも知らず
信じたものが間違いだったと知らず
ただ、私が人であると信じたために
呪われていないと信じたために
こうなってしまったのだ・・・。

私を認めようと

受け入れようと

理解しようとして

こうなったのだ。
やはり・・・私はやつらの言う通り、ずっと昔から言われていた通り
呪われた存在なのだ。
人になどなれるわけがない。
人間にもなれず、完全な魔女にも化け物にもなれず、私は何者にもなれない。
何者にも認められないのだ。
全てを・・・認めなどされない。
なぜ私は絆を1人にさせてしまったのだ?
なぜ私は絆を行かせた?
こうなると分かっていたはずだ。
なのになぜ・・・?
だが、もう1つ分からない。

「そなたは・・・何をしていた?」

爽はその問いに肩を一瞬震わせた。
思いつめるように俯く。
爽は近くにいたはずだ。
救おうと思えば出来たはずだ。
なのに・・・それをしなかった。

「そなたもやつらとともに絆を傷つけたか?」

「違う!」

爽はその問いを強く否定した。
だが、それも全てが「違う」わけではないようだ。

「ならばもう一度聞こうではないか。そなたは何をしていた?」

爽は黙って俯く。
ゆっくりと私の腕を離す。
そして崩れるように床に膝をつき、片手で両目を覆う。

「俺は・・・・何も出来なかったんだ・・・・」

怒りと悲しみと憎しみで震える声。

「俺には・・・・何も出来なかったんだ!」

自分への怒りか。

「何も出来なかった・・・だと?」

「俺には絆を救うことなんて出来ないんだ!絆を庇うことも出来ない!笑顔にさせることも出来なくなっちまった!俺は失うものなんて何1つないはずなのに何も出来なかった!俺は・・・俺は・・・絆に1番・・・最悪なことをしたんだ・・・絆は1番・・・俺には1番・・・大切で・・・愛しくて・・・1番救わないといけないやつなのに・・・!!」

爽の頬を一筋の涙が伝う。
苦しいか?
辛いか?
悲しいか?
お前は1番よく分かっている。
絆のことを誰よりも・・・
私よりも・・・
1番よく分かっていながらなぜだ?
なぜなのだ?
お前は・・・

「なぜ救わないのだ?」

爽は私を見上げる。

「絆を理解し、守りたいと思うのならなぜ救わないのだ?何も出来なかっただと?ただの言い訳に過ぎない。そなたは何も出来なかったのではない。何もしなかったのだ。己自身がそれを1番よく分かっているはずだ。何も出来なかったのではない。何もしようとしなかったのだと。救おうと思えば救えた。戦おうと思えば戦えた。だが、そなたはそうしなかった。それは何も出来なかったのと違う。何もしなかっただけだ。
ただやつらが怖いだけだ。そなたはあの中で1番強いと分かっているはずだ。だが、何かがそれを拒む。己自身の恐れが拒む。そなたは本当に絆が救いたいのか?その程度の恐怖で絆を救うことも出来ないか。」

「俺だって悔しいんだよ!」

爽は私を睨み、言った。
だが、それは自分自身への怒り。

「そんなことは昔から分かってる!俺がただ臆病なだけだ、俺がただ戦いを避けてるだけだ、俺が何もしないだけだってことぐらいな!んなこととっくの昔に分かってるんだよ!お前に言われなくたって分かってる!だから悔しいんだ・・・その程度の恐怖で絆を見捨てちまったことが・・・絆を守れないことが・・・」

「そなたは何かを失うのが怖いのか?それを失うのが怖いのか?」

「俺には失うものなんざ・・・!」

「ならばなぜ戦わない?」

私は爽に問う。
爽は目を見開き、俯く。

「失うものがないのならなぜ戦わない?なぜ救わない?ないのなら救えるはずだ。そなたは失うものがないのにも関わらず、救えなかった。なぜか分かるか?」

「・・・・・・・・。」

答えは簡単だ。

「失うものがあるからだ。」

「失うもの・・・・?」

「そなたには失うものがあるからだ。だから救えない。失いたくないために救うことが出来ない。絆には失うものがいくつもある。にも関わらず、私という間違った存在を認めようとし、今こうなっている。分かるか?」

「・・・・・・・。」

「絆は失うものがあろうと、例えそれが大きすぎるものであろうと、何であろうと信じようとしたのだ。信じてはいけないものまでも信じようとした。絆は戦ったのだ。強く、温かい、ひだまりの少女は・・・。」

私は絆を振り返る。
今は安らかな寝息を立てて眠っている。
私をそれを確認すると知らず、心が安らいだ。
私の中のものが静まる。
魔女の血が静まり、私はどうやら元に戻ったようだ。

「お前には・・・失うものがあるのか・・・?」

爽から私に問う。

「私には失うものがない。失うものがないから何をしようと関係がないのだ。だが、絆のことは別だ。絆は初めて私を友と呼んだ。この少女だけは、何があろうと失ってはいけないのだ。」

「それは・・・俺だって同じだ・・・」

爽の呟きが静まり返った部屋に響く。

「人恋し少年よ。お前は絆を救えるか?」

「俺には・・・」

「出来る出来ないの問題ではない。救えるか救えないかを聞いている。」

「俺は・・・・」

その時だった。
スコトスが私に近づく。
そして絆を指差す。
私は絆を見てみた。

「ん・・・・・・・・・・。」

気がついたようだ。
私と爽は絆に寄る。
絆はゆっくりと目を覚ました。

「爽・・・・くん・・・・?」

絆は爽を見つけ、言った。
爽は絆の手を握り、うなずいた。
絆は体を起こし、少し痛むのか頭の後ろを押さえた。

「何で・・・あたし・・・」

「説明はあとでする。今日はゆっくり休め。」

「う・・・ん・・・・あれ?」

絆は私を見つけた。

「目を覚ましたか、絆。」

「・・・?」

絆は私を見て首を傾げる。
何だ・・・この嫌な気分は・・・。

「絆・・・?」

爽は不安になったのか絆の名を呼ぶ。
絆は不思議そうに私を見て、言った。

「あなたは?」

私は・・・何も言えなくなった。
嘘であってほしい・・・・

「私が・・・分からないのか?」

「・・・・・どこかで会いましたか?」

どうやら冗談ではないらしい。
嘘だ・・・
絶対に嘘だ・・・・
絆・・・私を忘れたのか?

「絆、お前、分からないのか?こいつのことが分からないのか?」

絆は何かを思い出そうとすると頭を抱え、苦しそうにする。
だが必死に思い出そうとしている。
私はそれを見て分かった。
私は・・・絆の記憶からいなくなった・・・。

「絆、思い出せ!こいつはお前の友達だ!思い出すんだ、絆!」

爽が必死に絆に思い出させようとする。

「うっ・・・・ごめんね・・・・分からない・・・・ねえ、今日って何日?」

「22日だが・・・どうした?」

「22日・・・?え、今日って1日じゃないの?」

1日は・・・3週間前・・・
私が絆と出会ったのは1週間前・・・
絆はこの3週間の間の記憶を・・・失ったか・・・

「お前・・・本当に分かんないのか?」

「うん・・・・気づいたらここにいて・・・爽くんがいて・・・そこの子がいたから・・・・」

絆には私を知らない時間の記憶しかない。
私の記憶は全て失っている・・・
私は・・・・どうすればいい・・・・?
私を友と呼んでくれた・・・絆がいなくなったら・・・どうすればいいのだ?

「ね、あなたの名前、何ていうの?」

絆があの時と同じように・・・初めて会った時と同じように太陽のような笑顔で聞いてきた。

「私・・・は・・・」

思うように声が出ない。
いつの間にか誰かと一緒にいることが当たり前になっていたようだ。
1人のなり方が・・・・分からない・・・・

「・・・・魔女・・・」

「魔女?それってあだ名か何かかな?」

「似たような・・・ものだ・・・」

「・・・そっか。よろしくね、魔女さん。」

絆は少し寂しそうな笑顔を私に向けた。
なぜか私は・・・
心を持たない呪われ魔女は・・・
その笑顔に胸を痛めた・・・。
絆の記憶が失われた。
私のせいで失われた。
全て・・・私の存在のせいで・・・
絆の記憶を失った・・・。
私が絆と関わらなければ
あの時、関わりたいと思わなければ
私が呪われた化け物でいなければ・・・
こんなことにならなかったはずだった・・・・。

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あきゅろす。
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