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真心文庫
本当の魔女
陽月ちゃん・・・。

「勝てると思うのか?」

何で・・・?


私の学校1日目はその日だけ何もなく終わった。
まあ、おもしろい人間がいると分かったからいいか。
日暮れの町を絆と歩く。
町の人間のどこか冷たい視線を受けながら。

「いつもあんな感じなんだ、みんな。だから気にしなくていいよ。」

絆は笑いながら言う。
なるほど・・・絆が言っていた嫌なこととはこのことか。
私にはどうでもいいことが絆には辛いのか。
これも育ち方の違いか。
まあいい。

「あっ!あそこでパン買って帰ろう!」

絆はモンジャラが店の前を掃除するパン屋に入っていった。
私は入ることはせず、外で待っていた。
絆がいなくなった今、気持ちが悪いほど冷たい視線が降り注がれる。
私はその視線たちに冷たく微笑む。
見下したように。
ほとんどは視線を逸らしたが若干恨みを込めた視線を注いできた。
見なくとも分かるほど強い視線。
こんな風に見られるようになってから一体何年経っただろか。
5年・・・いや10年か。
フッ。まだそんなに経っていないようだな。

「お待たせ!」

絆が焼きたてのパンを何個か入れた袋とともに出てきた。
私たちはまた絆の家への道を歩く。
ジグザグマやマッスグマ、エネコ、様々な野生の小ポケモンたちが自分たちの巣へ帰るために私たちの前を横切ったりしている。
完全に日が暮れる前に私たちは家に着き、中に入った。
外では夜のポケモンたちが動き回る音がする。
しばらくすると絆がさっき買ってきたパンを出した。
14個ある。

「ポケモンたちにも分けようと思って」

絆は笑った。
私のポケモンは6匹、絆も恐らく6匹。
あと2つは自分たちの分か。

「みんな、ご飯だよ!」

絆は6個のボールを一斉に投げた。
中からほぼ同時にポケモンたちが出てきた。

「イーブイとアクア、サンダースのボルト、ブースターのフレイ、リーフィアのハーブとグレイシアのアイリだよ。みんな、あたしの大好きな子たちなの」

ポケモンたちが食事をもらうために絆の周りに集まっていた。
絆はパンを1つずつ渡す。
みなおいしそうに食べていた。

「陽月ちゃんのポケモンたちは?」

私は鞄からボールを取り出そうとした。
その時、私は今までずっと、とられないように隠し持っていたあるものを見つけた。

「どうしたの?」

絆に声をかけられ気づかれないようにそれをポケットに入れると6個のボールを取り出した。

「何でもない」

私も同時にボールを投げた。
ストレーガ、アウラ、アウル、ルナ、スコトス、そしてメロエッタのルーチェ。

「す・・・すごいね・・・・」

絆は驚いている。
まあ、それもそうか。
他の人間には珍しいポケモンたちばかりだからな。

「名前、何ていうのかな?」

「ムウマージのストレーガ、エーフィのアウラ、ブラッキーのアウル、クレセリアのルナ、ダークライのスコトス、メロエッタのルーチェ」

「そうなんだ。」

絆は笑顔で私のポケモンたちにもパンを渡す。
そして私にも。

「はい。」

私は焼きたてのパンをもらい、少しうつむいてしまった。
温かい・・・・

「気分、悪いの?」

絆が私の顔をのぞこうとする。

「何でもない。気のせいだ。」

私は久しぶりに他人と囲む食事をほんの少しだけ楽しんでいた。
ルーチェは食べ終わるとさっさと自分のボールに戻ってしまった。
このルーチェだけは他のポケモンとの必要以上の接触を嫌がる。
それも私と似ているな。
食事も終わり、絆と私は着替えをした。
電気を消し、絆は布団の中へ入り、私は振り椅子に座った。

「おやすみ・・・」

絆はそれだけ言うとすぐに眠りに落ちた。
安らかな寝息が聞こえる。
私はまた夜空を見上げた。
今日は満月だ。
私は着替える時に気づかれないように身に着けた隠していたあるもの・・・半透明の小さなクリスタルがついたペンダントを首から取りはずし、月にかざした。

「・・・・・・・・」

色を持たなかった半透明のクリスタルが月の光を受けて様々な色に変わった。

「姉様・・・・・・」

これは未だ見たことのない姉からの贈り物。
年は15ほど違うと聞いた。
私が物心ついたときから姉様はいなかった。
もう独立していたらしい。
写真でも見たことがなかった姉様。
姉様が母様にまだ生まれて間もない私へ渡すように言い残し、出て行ったそうだ。
私はその話を聞かされ以来、ずっと肌身離さず持っている。
私のただ1つ・・・唯一無二の大切なもの。
誰にも渡してはいけない。
私は密かに期待しているのかもしれない。
まだ見ぬ姉にこれを持っていれば会えると。
私はペンダントをまた首につけ直し、眠りに落ちた。

次の日。
着替えて準備を終え、絆とともに学校へ向かった。
いつもと変わらず冷たい視線だな。
学校に着き、教室に入る。

席へ向かおうとしたら絆へまたあの8人が絡んできた。

「おめぇさ、無駄な正義感ふり蒔いてんじゃねぇよ。」

絆は黙っている。
爽も黙って何も言わない。
私は傍観者気分で見ていた。

「魔女とつるんで町の人間を脅してんのか?それともなんだ?自分は魔女だって仲間に出来ますっつってんのか?あ゛あ?」

どうやらこいつがリーダー格のようだ。
全く・・・なぜ私ではなく絆に言う必要があるのだ。
面倒だな。

「あんたさぁ、弱いよね。」

・・・。

「ポケモンでも自分のことでも何でも弱いな。」

・・・・・・。

「自分は悲劇のヒロイン?そう思ってんの?」

・・・・・・・・。

「いっつも笑顔で・・・気持ち悪い。」

・・・・・・・・・・・・・。

「自分じゃ何もできねぇから魔女なんてつけてんだろ?魔女さえいればお前は傷つけられないもんな。あ、でも、お前魔女が近くにいたって弱いな。俺たちを追い返すこともできやしない。」

「ほんとっ・・・・弱虫で弱い。」

「呪われ魔女と付き合ってたって俺たちには・・・」

「いい加減にしてよ!!」

絆が叫んだ。
全員、動きが止まった。
何だ、この感情は・・・

「あたしを何て言ったって構わない!でも陽月ちゃんは魔女なんかじゃない!呪われてなんかない!陽月ちゃんはすごく優しいの!ずっとずっと優しいの!陽月ちゃんは・・・陽月ちゃんは私の友達なの!!」

絆・・・そうか・・・
私をそんなに思ってくれるのか・・・
こんな私を思ってくれるのか・・・
私の胸が痛いほど熱いぞ。
泣きたいほどな・・・。
絆、私は決めた。
あなたと歩もう。
これがあなたという私の友に出来る精一杯のことだ。

「うるせぇよ!ニドキング!」

リーダー格が我に戻りポケモンを出した。
そして絆を襲おうとする。
絆は抵抗せず目を瞑った。
なるほどな・・・・

「なっ・・・!」

リーダー格の動きが止まった。
そうだろうな。

「陽月ちゃん・・・・?」

いつまで経っても自分に襲い掛かってこないことに気づき、絆は目を開けた。
私は今までよりも冷たい微笑みで8人を見下した。
その場にいた人間全員が驚いて声を出せずにいる。
そう、なぜなら・・・・

「陽月ちゃん・・・何で・・・?」

なぜなら・・・

「マジ・・・かよ・・・」

この私が・・・

「フフフフッ・・・笑えるぞ」

私が受けたからだ。
ニドキングの拳は私が自ら受けた。
ニドキングも驚き、後ずさる。
少し・・・痛みはあるな・・・

「そなたたちのその行動・・・妾に対する挑戦とみなした。」

私は笑う。
見下したようにやつらを笑う。
もしもこれが私のためでなく

「ま、魔女だ・・・」

もしもこれが他人のためで

「本物の・・・」

そしてその他人が絆のためで

「魔女だ!」

絆を傷つけようとしたことに対しての感情なら
これを怒りと呼ぶのだろうな。

「妾は魔女・・・そなたたちの恐れる呪われ魔女だ」

これが本当の魔女。
私の血に混じる魔女。

「ば、化け物だ・・・!」

「化け物?フッ、そなたたちにとってはそうなるだろうな。」

そう言って笑う私を見て恐れを抱いたのか何も言い返さなくなった。

「案ずるでない。妾は寛大であるぞ?今ならそなたたちを見逃してやろう。」

残酷に笑いバカにする私を見てリーダー格が怒ったようだ。

「なっ、何が見逃してやるだ!化け物に見逃してもらうほど俺はバカじゃねぇ!」

「ほう。ならば妾に勝てるか?」

「な、何?」

「勝てると思うのか?」

「何のことだよ!」

「ポケモンバトルに決まっておろう。勝てると思うのか?」

「はっ。俺は最強だ!化け物に負けねぇよ!」

そうか・・・ならば楽しませてもらおう。
私たちは場所を移り、学校の外に出た。

「するのだな?」

「当たり前だ!」

「手持ちは?」

「3匹だ。」

「ならば、妾は1匹で戦おう。」

「けっ、あとで泣いたって知らねぇぞ。」

私が泣く?寝言は寝て言え。

「始めようではないか。」

「いけっ!ニドキング!」

「ルナ」

私の鞄からルナが出てきた。

「大地の力!」

「未来予知」

ニドキングが大地の力でルナに攻撃しようとする。
ルナには効果がなかったがな。
ルナの未来予知。
ニドキングはまともに喰らい、効果抜群な上、急所に当たり、即瀕死。

「なっ・・・」

「さっきの威勢のよさはどうした?」

私に勝つのだろう?
絆は私の後ろでバトルを見守っている。

「ちっ・・・戻れニドキング!いけっ!ペンドラー!」

ペンドラーか。
エスパーの弱点の1つ。
だが、ルナには勝てない。

「ハードローラー!」

「よけろ。」

ハードローラーで向かってきたがルナの素早さは他とは比べ物にならない。
気づけばルナはどこにもいない。
ペンドラーは的を失い、辺りを見渡す。
遅い・・・

「サイコショック」

ペンドラーの真上にいたルナはサイコショックを当てた。
まともに喰らい、ペンドラーは瀕死。

「どうする?まだ続けるか?それともこれで終わるか?」

「ちっ・・・・・」

哀れだな。

「が、ガマゲロゲ!」

終わったな。

「サイコキネシス」

私は出てきてすぐのガマゲロゲにルナのサイコキネシスを当て、ガマゲロゲは出てきただけで終わり、瀕死。
リーダー格は渋々ポケモンをボールに戻した。
私の勝ちだ。

「今後は大人しくするのだな。」

これが本当の魔女だ。
冷酷非道、相手が誰でどんな人間であってもどうなろうと知ったことではない。
それが私という魔女の戦い方。
だが・・・今回は特別だ。
絆のために私は戦ったのだ。
誰のためでもない。
自分の身は自分で守る。
人間を見てきて私が独自に学んだことだ。
なのに気づいてしまうとあっけないな。
私は絆が好きなようだ。
初めてだぞ?他人などに好意を寄せるなどな。
絆に私は心を赦そう。
この私の新たな大切なもの。
絆という友には心を赦そうではないか。
どんなに非道な魔女にだってあっていいではないか。
大切なもの。
本当の魔女にだって、大切にするという気持ちはあるのだからな。

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