真心文庫
2人の距離
私はいつまでこうしていられるだろう。
「ずっと友達でいてくれる?」
私は・・・私は・・・
今日から陽月ちゃんと学校。
それまで楽しみって思えなかった学校が今はすごく楽しみになった。
陽月ちゃんに出会えたから・・・。
本当にうれしい。
それに爽くんは陽月ちゃんのことあまり興味ないみたいだからきっと何も言わないだろうし。
でも・・・やっぱり・・・
「おい、結心!てめぇ、何でそいつと一緒に来たんだよ!」
やっぱり、他の人は陽月ちゃんをあんまりよく思ってないみたい。
昨日、陽月ちゃんから噂が色々なところで広まってるから大人で知らない人はほとんどいないって聞かされた。
呪われ魔女危険・・・そんな張り紙もあるみたいで・・・。
ひどいよ、みんな。
陽月ちゃんは呪われてなんかいない。
陽月ちゃんは何も悪くないのに。
「答えなよ!」
8人みんなであたしたちを囲む。
1人があたしの机を強く叩いて聞いてくる。
まだ先生も来てないこの時間だから言いたい放題なんだよね。
ポケモンで脅してきたりもするし・・・
女の子も男の子もとても冷たい目であたしたち2人を見てる。
やっぱり怖いよ・・・手の震えが止まんない。
「私は私の意思でここに来た。絆の意思でなければ他の誰の意思でもない。言いたいことがあるのなら直接私に言ってはどうだ?遠まわしに他の人間を脅かし聞くよりもそのほうが余程手っ取り早いと思うぞ?」
陽月ちゃんがはっきり言った。
それも微笑みながら・・・。
でも、その微笑はとても冷たくてとても辛くて、とても悲しい微笑みだった。
みんな怖がって何も言い返せないみたい。
こんなこと思うの間違ってるけど・・・すごいって思う。
そのすごいって思う気持ちが強いほど陽月ちゃんに今までどれだけ辛いことがあったのか、想像できないほどのことなんだなって思う。
「の、のろ、呪われ魔女は引っ込んでろ!」
「呪われ魔女、か。ならお前らこそ引っ込んだほうがいい。これ以上、私に関われば、呪われるぞ?」
陽月ちゃん・・・そんなこと言わないで。
呪われるなんて言わないで。
そんな微笑で言わないで。
悲しいの・・・増えちゃうよ。
本気に聞こえたのかな、みんな自分たちの席に戻っちゃった。
「陽月ちゃん・・・ごめんね。」
「なぜ謝る?」
「本当はあんなこと言いたくなかったのにね。あたしが弱いから、助けるために言ってくれたんだよね。ありがとう。でも、呪われるなんて言わないで。辛いの、また増えちゃう。」
陽月ちゃんはまたあたしを不思議そうに見てる。
「私は誰かのためにやったのではない。言ったはずだ、自分の身は自分で守れ、と。あいつらは私にとっては目障りな存在だ。だから、立ち退いてもらった。それだけのことだ。」
そっか・・・そうだよね。
陽月ちゃんは自分の身は自分で守れる。
わざわざ人のためには働いたりしない。
それを分かった上で友達になったんだよね。
また自惚れてた。
陽月ちゃんがあたしには心を開いてくれてるって思ってた。
でも、違うよね。
あたしも頑張らないと。
陽月ちゃんと肩を並べて歩けるように。
「うん!」
その様子を爽くんがちょっとの間見てた気がした。
気になって爽くんを振り返る。
でも、ずっと机に伏せて寝てたみたい。
気のせいだね。
扉が開く音がした。
担任の先生が入ってきて、さっきまで話し合いしてた子たちは黙って前を向きなおした。
爽くんも机から顔を上げて眠そうにしていた。
「おはよう、みんな」
「「「「おはようございます」」」」
陽月ちゃんと爽くん以外は挨拶した。
この2人、何となく似てる。
ずっとそっぽ向いたりするところとか無言でいるところとか・・・
でも、優しいところも似てる。
この2人は一体、どっちなのかな?
優しいの?それとも誰にも興味がないだけなのかな??
もう分かんないや。
「え、えっと、今日からこのクラスで一緒に過ごすことになった子を紹介する。ま、前に来なさい。」
先生の様子が少しおかしい。
まるで陽月ちゃんを怖がってるみたい。
そんなに陽月ちゃんは怖い存在なの?
みんなには怖いの?
全然怖くないのに。
ただ人と関わるのが怖いからいつも自分を呪われてるって言い続けてただけなのに。
どうして誰も分かってあげようとしないの?
噂だけで決めちゃうの?
陽月ちゃんはそんなに怖いことでもしたのかな?
陽月ちゃんは黙って教卓の前に立った。
先生は少し距離をとるように立っていた。
「自己紹介、お、お願いできるかな?」
陽月ちゃんは先生をあの冷たい微笑みで見下したように笑っていた。
それに先生は目を逸らした。
「私は呪われ魔女。他に呼び方などない。どうせ言ったところで名前を呼ばないだろう?ならこれだけで十分だ。」
陽月ちゃんはそれだけ言うとまた席に戻ってきた。
先生も他の人も陽月ちゃんと目を合わせようとしない。
「じゃあ、授業を始める。」
先生は何もなかったみたいに教科書を開いて黒板にチョークでポケモンのタイプ別、どのタイプのポケモンがどのタイプのポケモンに弱いのか強いのかを書き出した。
あたしはノートを取り始める。
他のみんなはノート取る人、寝る人、小声で話し始める人、色々いた。
爽くんはいつものように寝てて、陽月ちゃんは何もしないでずっと窓の外を見ていた。
あたしはため息をついて仕方ないから授業に集中した。
その時、どこかから丸められた紙があたしの机に乗っかって、あたしはそれを広げた。
“呪われ魔女の仲間 出て行け 関わると呪われる”
そんなことが書かれてた。
さすがにあたしもこれには我慢できなかった。
でも何も力のないあたしにはどうにもできない。
とにかく、誰がやったのか見ないと・・・
「あっ・・・・」
いたっ!
こっち見て笑ってる。
あの「呪われ魔女は引っ込んでろ」って叫んだ人。
名前は高石くん。
クラスのリーダーみたいでみんなの中でも強いほう。
爽くん以外のみんなと戦って負けたことがない。
あたしの一番怖い人。
ちなみにみんな15歳で1クラスしかないから今まで違うクラスになったことなんてない。
みんな一緒に学んできた。
でも、みんなあたしのこと、嫌いみたい。
いつの間にか時間になって先生が休み時間にしていいって言った。
あたしは急いで陽月ちゃんを連れてあたしのお気に入りの裏庭花壇に向かった。
陽月ちゃんはいきなりのことで少し不思議そうにしてる。
花壇についてあたしは早速自分のポケモン、シャワーズのアクアを出した。
「アクア!」
アクアは出てくると首を振って背筋を伸ばした。
そしてあたしに気づくと飛びついてきた。
「シャー♪」
とってもうれしそうにしてくれる。
陽月ちゃんはまだ不思議そうにあたしを見てる。
「ここね、あたしのお気に入りの場所なの。いつもここに来て、ポケモンたちと遊んでるの。」
あたしはアクアを地上に降ろした。
「アクア、水鉄砲!」
アクアはいつものように花壇の花たちや畑の木の実たちに水をかける。
そう、ここの世話をしてるのはあたしたちなの。
「ねえ、陽月ちゃん。1つ聞いていいかな?」
「ん?」
「ずっと友達でいてくれる?」
陽月ちゃんは少し驚いていた。
それもそうだよね。
いきなりこんなこと言えば誰だって驚くよ。
でも、今それが聞きたい。
陽月ちゃんはずっとあたしを見つめてる。
あたしも陽月ちゃんをずっと見つめる。
「私は・・・」
言いかけて休み時間が終わったみたい。
先生がみんなに声をかけるの聞こえた。
「戻ろっか。」
ちょっと残念。
あたしはアクアをボールに戻してから陽月ちゃんと一緒に戻った。
あたしたちの距離・・・今、どれくらいなのかな?
ちゃんと縮めることできるかな?
いつか・・・きっといつか変わるといいな。
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