[携帯モード] [URL送信]

真心文庫
人恋し少年
今日から学校。

「おもしろい。」

陽月ちゃん、これって楽しみって受け取ったほうがいいのかな?


絆がまた泣いた。
だが全然悪い気はしない。
哀れんでいるのでも同情しているのでもないものだから。

「だから・・・だから・・・」

もういい、分かった。
もう泣くな。
私が泣きそうになる。
出来れば絆とは関わりたくなかった。
絆に受け入れられたくなかった。
不幸にはしたくなかった。
だが・・・絆がそう望むのなら
そばにいることを望んでくれるのなら
これが赦されることであるなら
絆に出会えてよかったと思おう。

「・・・・・、絆」

ちゃんと言えただろうか。
伝わっただろうか。
声が小さすぎたかもしれない。
初めてだな、言うのも言われるのも。
今日1日で何回言われたことだろう。

ありがとう、絆

ちゃんと言えただろうか。
しばらくして絆は泣き止んだ。

「ごめんねっ・・・あたしばっかりっ・・・」

絆は私から離れて謝った。
謝る必要はない。

「気にするな。」

絆はまた微笑み、うなずいた。

「ところでっ・・・陽月ちゃんっ・・・さっきっ・・・何てっ・・・言ってたのっ・・・?」

少ししゃくり上げながら聞いてきた。
そうか・・・声が小さすぎて聞こえなかったか。
頑張った・・・つもりだが・・・

「・・・何も言ってない。」

「え、だって、絆って、その前に何か言ってたような・・・?」

「言ってないったら言ってないのだ。」

こんな私でもこんなに言えるようになるのか。
今までのことは何だったのだ。
今日友達というものになり、そして意図も簡単に理解されてしまった。
これが友達というものなのか・・・?

「絶対言ってた!」

もうすっかり明るさを取り戻し、絆は食って掛かる。
私は木の実が置いてあるログテーブルに歩み寄った。
それに絆がついいてくる。

「何て言ったの?気になるよ」

まだ聞くか。
私はモモンの実を気づかれないように手に取った。

「陽月ちゃん、教えてy・・・」

「言ってない。」

私は持っていた木の実を絆を振り返り、口にくわえさせた。
これ以上聞かれるのもさすがに困る。
モモンの実を銜えさせられ話せなくなった絆は少し不満そうに頬を膨らませた。
モモンの実を両手で持ち、口から離す。
膨らんでいるわりにはちゃんと銜えさせられたものは味わって食べていた。
飲み込んだ後、反論してきた。

「陽月ちゃんの意地悪・・・」

「そう思いたいのなら思ってもらっても構わない。私は絶対に言ってない。」

「むぅ・・・」

絆は膨れていたがやがて何かおもしろかったのか吹き出した。

「私は変なことを言ったのか?君。」

「だって陽月ちゃんが絶対言ってないって言い張るから・・・負けず嫌いなんだなって思って、あははっ」

別に私は・・・負けず嫌いなんかじゃ・・・
でも、まあ、ある意味そうなるのか。

「もう遅いから寝よう。」

私はうなずいた。
明かりが消され、絆はベットに横になり、私は振り椅子に座った。
目を瞑り、休もうとする。

「・・・・陽月ちゃん、起きてる?」

聞かれたが私は目を瞑ったまま黙っている。

「寝ちゃったのかな?」

「何だ。」

仕方ないから返事をした。

「あのね、ありがとね、本当に。」

「・・・・」

「あたし、正直に言うとね、陽月ちゃんが初めてなの。話したこともないのに信じられるなって思った人。」

「・・・・」

「だからね、あたし・・・陽月ちゃんと友達になれて、とっても幸せって感じてるんだ。」

見ずとも分かった。
絆が本当にうれしそうにしていること。
あの太陽のような笑顔で今、笑っていること。

「ありがとう、陽月ちゃん・・・また・・・明日ね・・・おや・・・す・・・み・・・。」

しばらくすると絆の寝息が聞こえた。
私は目を開け、窓の外、夜空を見上げた。
遠くから夜のポケモンたちの鳴き声が聞こえる。

「ありがとう・・・か。」

私でも人に幸せを感じさせてやることが出来るのか?
出来ると信じてもいいのだろうか?
いや・・・ただの人間には感じさせることは出来ないだろう。
それでも、絆にだけは幸せを感じさせてやることが出来るだろうか?
絆にだけは幸せになってもらえるだろうか?
全く・・・おかしな話だ。
呪われ魔女が人の幸せを考えるなどな。
だが・・・絆の幸せだけは願ってもいいか?
絆にだけは心を開いてもいいか?
母父よ、これだけは赦してもらえますか?
例えこの1日だけでも、そう思ってもいいですか?
絆と一緒に・・・

「母様、父様・・・」

今度は安らかに眠っている絆に目を向ける。
何も疑わない、負の感情を知らないその純粋な横顔に私は言った。
両親がいなくなってから二度と口にすることのないと思っていた言葉。

「おやすみなさい」

私はまた目を閉じた。
夢を見た。
視界がいつの間にか眩しい光に包まれて・・・

『あなたはどうする?』

「何か用か」

『あなたはどうする?』

「何者だ。」

『我はアイリア。道標へ導く者・・・人ならざる存在・・・』

「・・・・」

『あなたならどうするか?』

「何のことだ」

『あの少女とともにいるか、それとも決められた死の運命を辿るか?』

「・・・・」

『あの子はあなたとともにいることを望んだ。あなたの全てを受け入れ、あなたを理解し、向き合うことを・・・』

「何が言いたい。」

『あなたはどうしたい?あの子とともにいるか?それとも元の運命を選ぶか?』

「・・・・・」

『ひだまりの少女を望むか、呪われ魔女としてを生きるか、あなたはいずれは決めなくてはならない。』

「お前はなぜ、私に聞く?」

『それが我の役目だからだ。2つの心が通じ、同じものを望みたいと願ったときに我は現れる。あなたとあの子の心が繋がったこの瞬間、あなたは選ぶ権利を得た。我の役目はあなたの選んだ道への道標へ導くこと。あなたの選ぶ道へ我らは悔いのないように誘うのだ。』

「我ら?」

『ハクリュー』

「リュー」

『ミュウ』

「ミュー」

『アンノーン』

「ノーン」

『セレビィ』

「ビィ」

『ビクティニ』

「ビー」

『シェイミ』

「ミィー」

『我らがあなたたちを導くのだ。』

「なるほどな。」

『さあ、選べ。あなたの辿りたい道を。ひだまりの少女と歩むか変わらぬ運命を選ぶか。』

「・・・・私は・・・私はどちらも選ばない。」

『何?』

「私は私の決める道を歩む。絆は絆、私は私のだ。選択肢が2つしかない道など私は選ばない。私はどちらも選ばない。この先に何があるか分からないからだ。」

『・・・・』

「だが・・・もしも選ぶのなら・・・私は・・・」

『あなたは?』

「私は絆とともにいることを選ぼう。」

『そうか・・・。ならば導こう。あなたが少女とともにいられる道標へ。』

それで夢は終わった。
不思議と私はその夢で何があったのか覚えていない。
目が覚めるともうすでに朝だった。

「おはよう、陽月ちゃん。今日から学校だよ。」

絆の明るい笑顔で私は完全に目を覚ました。
そうか、もう今日だったな。

「準備したら、はやく行こっ!」

私はうなずいた。
絆は私に学校の制服を貸してくれた。
もっとも制服というよりは町の者だと証明するための衣装なのだが。
つまり町衣装だな。
昨日もらった髪留めで同じように私は髪を留めた。

「似合ってるよ!これで大丈夫」

絆は笑顔でそう言ってくれた。
私たちは学校へ向かった。
強くは感じないが町の人間が私を見る視線が冷たいことは分かった。
早速噂が広まったのか。
私たちは学校に着いた。
そして2人で教室に入る。
絆は少し震えていた。
教室にいた人間の目が私だけでなく絆にも冷たく降り注がれている。
絆は笑顔を絶やさない。

「座ろう。」

私たちは席に着いた。
唯一視線を向けなかったのは絆の隣にいた少年だ。

「おはよう、爽くん。」

絆は笑顔で挨拶する。
爽と呼ばれた少年は目を合わせずに返した。

「おはよう・・・」

「紹介するね。醐大 爽くん。」

ずっと不機嫌そうだな。
だが、うむ・・・興味深い。

「爽くん、この子は白夜 陽月ちゃん。今日から新しく来たの。」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・」

爽は何も言わずに私を横目で見た。
私は冷たく爽に微笑んだ。
それが気に食わなかったのか爽はもう私を見ようとはしなかった。
ほう、私を哀れむでも恐れるでもない人間か。

「おもしろい。」

そうつぶやいた私を絆は不思議そうに見つめていた。
爽は今度はそんな絆を横目で見る。
だが私のときよりは穏やかだ。
なるほど・・・そう言うことか。
爽とやら、私は楽しませてもらおう。
絆を恋し少年よ。
人恋し少年よ。

[back][next]

8/20ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!