[携帯モード] [URL送信]

真心文庫
2人の生活
せいぜいここを楽しませてもらおう。

「うん!明日、楽しみだね!」

ああ、興味深い。


明日から陽月ちゃんと学校だ・・・・
何だかとっても・・・とっても・・・
とっても楽しみなの!
あたし、夢が叶ったみたい。
友達と学校に通えるってうれしい!
ありがとう。
本当にありがとう、陽月ちゃん。
あたしのわがまま、聞いてくれて。
きっと今が一番幸せな時期なのかな??
あたしは陽月ちゃんの手を引きながら、笑顔で歩いてた。

「絆・・・君は何がそんなに楽しいのだ?」

「?」

陽月ちゃんの言ってることがいまいちよく分からなかった。
あれ?もしかしてあたし、また変なことしちゃった?

「ずっと笑っているが何かあったのか?」

あ、そっか。
あたし、ずっと笑ってたから変に見えちゃったのかな?

「あ、えっと、そんなに変に笑ってた?あたし」

「そうではない。ただ・・・私には笑えるところがなかったのだ。」

え、もしかして、喜んでるのはあたしだけ?
陽月ちゃんにはただの迷惑なのかな・・・。

「あたし、陽月ちゃんと学校に通えるから・・・それでうれしくて笑ってただけで・・・ごめんね、陽月ちゃんはあたしがお願いしたから行くことになったんだよね。自己中だなぁ・・・。嫌なら嫌って言ってくれればあたし、無理には言わないから。本当にごめんね。」

何やってるんだろ、あたし。
陽月ちゃんの気持ちも聞かないで勝手に1人で決めて、しかも今日友達になったばっかりなのにずごく馴れ馴れしいよね。
嫌われちゃったかな?

「私はあの学校に少し興味がある。それにこれは私の意思で決めたことだ。断りたかったらいつでも断ることは出来た。私は私の意思でここにいる。君の心配など無用だ。」

陽月ちゃん・・・
そっか。また自惚れてた。
陽月ちゃんは陽月ちゃんであたしがとやかく言う必要はなくて
陽月ちゃんは自分の意思でここに来て、あたしと関わったんだ。
ちょっと言い方はきついけど本当に優しいな、陽月ちゃん。
誰よりも何よりも優しい。

「うん!明日、楽しみだね!」

陽月ちゃんは小さくだけどちゃんとうなずいてくれた。
明日は本当に楽しみ。
陽月ちゃんと一緒に登校できるんだ。
あ、いつの間にかあたしたちは家についていた。
小さな野生のポケモンたちがあたしたちを不思議そうに見ていた。
そろそろ夜だ。
ホーホーやヨルノズクの鳴き声が遠くでかすかに聞こえた。
あたしたちは家の中に入って明かりを点ける。

「あたしはいつもここで寝てるの。陽月ちゃんはどこがいいかな?」

あたしは自分のいつも使ってる1人用の小さなベットを指差す。
そして陽月ちゃんにどこがいいのか聞いてみる。

「あたしはどこでも寝れるからよかったらベット使って。これでも寝心地はいいんだよ。」

危ない危ない。
何で気づかなかったんだろ。
ベット、譲ればいいのに。
もう少しでまた自己中なわがままになるところだった。
でも陽月ちゃんはずっと窓の近くにある振り椅子を見て動かない。

「陽月ちゃん・・・?」

「私はあれで休む。」

「椅子で?」

陽月ちゃんはうなずいた。

「ダメだよ!風邪引いちゃうよ?」

「どこでも好きな場所ではダメか?」

「え、いや、好きな場所はダメじゃないけど・・・座って寝るのはあんまりよくないよ?」

「構わない。私はいつでも出られるようにしておく。」

出られるように?
どういうことかな?

「・・・ね、陽月ちゃん。陽月ちゃんは何であそこにいたのかな?湖の近く。あの場所はここからは意外と遠いし、他の場所から来たならなお更遠い場所だよ?なのに何で?」

陽月ちゃんは黙ってる。
聞いちゃいけないかもしれない。
でもあたしは陽月ちゃんのこともっとよく解ってあげたい。
ちゃんと受け入れてあげたい。
向き合わないと。
しばらくして陽月ちゃんは口を開いた。

「私は人から忌み嫌われ、恐れられ、憎まれてきた。」

陽月ちゃんは自分の過去を話してくれた。
生まれた場所の嵐で両親が亡くなったこと、呪われ魔女と恐れられてきたこと、ずっと嫌われ疎まれ憎まれ恨まれ続けてきたこと、その度に村を移ってそこから‘逃亡し続けてた’こと。
そっか・・・だからなんだ・・・
だから陽月ちゃんは人を信じることが出来なくなったんだ。
あたしが来たときも嫌がってたんだ。
笑顔を忘れちゃったんだ。
楽しいこともうれしいことも分からなくなちゃったんだ。
自分を責めるしか出来なくなちゃったんだ。
陽月ちゃんは誰も疑ったり、恨んだり、不幸にしたくないから
自分のせいで誰かを不幸にしたくないから
人と関わるのが怖くなって
みんなに嫌われるように自分を追い詰めてたんだ。
陽月ちゃんは優しい。
すごくすごく優しい。
優しすぎた。
悲しいぐらい優しすぎたんだ。
涙が出てくるくらい
優しいんだ。

「絆、君、なぜ泣いてるのだ?」

陽月ちゃんに言われてはじめて泣いてることが分かった。

「私が哀れか?悲しいほど哀れに見えたか?悪いが私は同情されたくなどない。同情されるくらいならいっそ・・・」

あたしは陽月ちゃんを抱きしめた。
可哀想なんかじゃない。
哀れなんかじゃない。
同情なんてしない。
だって陽月ちゃんはずっと

「違うの・・・」

ずっと

「陽月ちゃんは全然哀れじゃない。」

いつだってずっと

「陽月ちゃんが優しいから・・・強くて優しい子だから・・・」

ずっと

「全部・・・全部受け入れて・・・」

ずっと・・・・・

「みんなを赦し続けてるから」

辛いのも苦しいのも我慢して
泣くのも我慢して
誰も責めずに
頑張ってきたから

「自分は何やってるんだろうって思って」

陽月ちゃんのほうが何倍も
あたしの何倍も苦労して
頑張ってきたから
その強さが
その優しさが
痛いくらいに温かすぎて

「陽月ちゃんはいっぱい我慢して頑張ってきたのに」

あたしは何もしてあげることができないことが

「あたしには何も出来なくて!」

悔しくて。
もう涙を止めることが出来なかった。
今日、泣くのは2回目かな。
涙もろいのかな。
恥ずかしい。
本当に泣きたいのは陽月ちゃんなのにあたしばっかり泣いて・・・
自己中もいい加減にしてほしい。

「泣きたいときは泣いていいんだよ。辛かったら辛いって言っていいんだよ。苦しかったら苦しいって言って。あたしが一緒に泣いてあげるから、辛かったら一緒に辛いの分けて、苦しかったら一緒に苦しいのも分けて。あたしがいるから。」

だからもう・・・

「近くにあたしがいるから」

もう・・・

「1人じゃないから」

1人に馴れないで。
我慢するのに馴れないで。

「だから・・・だから・・・」

もうダメ。
泣いてばかりでもう言葉が出ない。
陽月ちゃんの手があたしの背中に触れた。
あたしの耳元で何かを言う。

「・・・・・、絆」

小さくて前の言葉が聞き取れなかった。
何て言ったのかな。
分かんない。
分かんないけど、きっと何かを言ってくれた。
きっと・・・
こうしてあたしたちの2人の生活が始まった。
正確にはあたしと陽月ちゃんとポケモンたちの。
これからどうなるのかな?

[back][next]

7/20ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!