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真心文庫
ようこそ学校へ
この時、あたしには分かるはずなかった。

「騒がしいな。」

分かるはず・・・


絆の生まれ育った村に着いた。
村というより、町と言ったところか。
大きさは村と言っても不思議ではないが・・・。

「騒がしいな。」

これが私の第一印象だ。
今まで色々な場所を見てきたがここまで騒がしいところはない。
世間で言う賑やかというやつか。
まあ、休むところがあるだけましだな。
それに・・・初めて手を繋がれた。
それだけでもいいか。

「あはは、陽月ちゃん、賑やかなところ苦手そうだからね。」

絆が笑う。
私は・・・そう見えるのか?
そんなに怖い顔でもしているのだろうか・・・。

「私の存在はそんなに怖く見えるのか?」

「え?全然!何で?」

「・・・・・・騒がしいところが・・・苦手そうだと言うから・・・」

「ああ、それね。全然、怖く見えるとかじゃないよ。ただ静かなところのほうが好きそうに見えるから・・・ごめんね、嫌なこと、言っちゃったかな?」

「・・・別に。その賑やかというものは事実、あまり体験したことがないだけだ。だから・・・どうでもよい。」

絆が私を不思議そうに見つめている。
私の顔に何かついてるのか?
あまり人に見られるのは慣れていないのだ。
何かあるなら言ってくれないだろうか。

「私の顔に何かついてるのか?」

「ううん。ただ、かわいいなって思っただけ。」

絆はまた太陽のように笑う。
私の頬が少し熱を持ったことが分かった。
言われることがほとんど慣れないことで大変だ。
どう反応したらいいか分からないではないか。
全く・・・絆は・・・

「ほら、こっちだよ!あたしの家!」

また手を握られ、案内された。
予想できないひだまりだな。
連れて行かれたのは町から少し離れたさっきの森よりも小さな森の中だった。
そこには1軒の小さな家があった。
ここが絆の家か。

「ここがあたしの住んでる場所。大きくないけど2人でいるのには十分だよ。」

「2人?」

まだ1人住んでいたのか。

「そう。あたしと陽月ちゃんの2人」

絆はただ純粋にニッコリと笑う。
私が数の中に?

「私・・・か?」

「うん。あたしと陽月ちゃんはしばらく一緒に暮らすの。」

この2の中に?
私が?
私が入ったのか?

「さあ、入ろう。陽月ちゃん、これからしばらく、よろしくね。」

私の心の中を知らず、絆は笑う。
そうか・・・そうなのか・・・
私が入ったのか・・・
初めて・・・数の中に・・・
この私が・・・入ったのだ・・・。
絆は・・・私を・・・入れてくれたのか・・・・。
絆に手を引かれ、私は家の中へ入る。
あまり大きいとは言えないが少人数で住むには十分だな。

「あんまりものとかないけど、あたしは住みやすいよ。だから、陽月ちゃんも安心してゆっくりしていいからね。」

私は小さくうなずいた。
それに満足して絆も微笑み、うなずく。

「じゃあ、次は・・・・そう言えば、陽月ちゃん、学校に行かないとね。」

「学校だと?」

「うん。だって、あたしも行かないといけないし、多分、お昼とか学校の時間に1人でいると何か言われると思うし。だから、今日行ってみよ!心配しなくても試験とかそういうのもないし、クラスも1つしかない小さな学校だから・・・・ね。あたしと一緒に行こ?・・・・ダメかな?」

すがるように見つめる絆の視線が痛い。
どんなに目をそらしてもずっと見つめられていることは分かる。
試しに少し様子を見てみる。
・・・・・。
やはりずっと見つめているか。
全く・・・仕方ない。
私はため息をついた。

「行けば・・・いいのだろう。」

「うん!」

絆は本当にうれしそうにする。
本当に予想できない者だ。
まあ、私がどんなに避けたくなるようなことをしても全く効かなかったのだからそう簡単にいくわけもないか。

「じゃ、早速学校で転校生だって言いに行こう!」

絆はまた私の手を引き、家を出て町にある小さな学校へ連れて行った。
学校は他の建物と比べると少し横に長めの建物だが縦幅は他の家と同じくらいの大きさだ。
玄関前には木の実の畑がある。

「こっちだよ。」

絆は私を玄関先に案内し、中へ入る。

「入って。」

言われるままに私は学校内へと入った。
廊下を歩こうとしたところで絆が立ち止まった。

「そうだ・・・陽月ちゃんにこれ。」

絆が私に渡したのは髪留めだった。

「陽月ちゃんの髪、長いから何かあったとき大変でしょ?だから、これ。よかったら、使って。」

人から何かをもらうのも初めて・・・か。
いや、絆の場合は木の実を昨日もらったから、これが2回目ということになるな。
私は絆の差し出してきた髪留めを受け取った。
素早く腰まである黒髪を小さく団子型に1つにまとめ、髪留めで留めた。
これでいいか。

「あ、印象変わった。さっきより、お姉さんみたい。」

絆が言う。
絆の口から出る言葉は1つ1つが新鮮で知ってはいたがかけられることのないと思った言葉ばかりだ。
ありがとうも大丈夫も1人じゃないも・・・言われた言葉1つ1つが言われ慣れない言葉たち。
悪い気分にさせない言葉たち。

「行こっか」

私は小さくうなずき、絆は私の手を引く。
連れて行かれたのは大人が3人いる部屋だった。
1人は男、あと2人は女だ。
扉が開く音が聞こえ、大人たちは振り向いた。
そこにいるのが絆だと分かるとみな穏やかな顔をしていた。

「結心か。どうした?ん?」

男の教師だと思われる人間が私の存在に気づき、少し険しい顔になる。
後ろにいる女2人はまさか、という目で驚きながら私を見ている。

「えっと、この子、最近こっちに来た子で、その、今少し事情があってあたしのとこにいるんです。それで家に1人でいるのもきっと退屈だと思うのでこの学校に通わないかってことになって・・・あの、ダメですか?」

大人たちは少し考え始める。

「ちょっと待ってくれ。」

男教師は2人の女教師たちと話し合いを始めた。
それもそうだろうな。
大人の中で、それも町に勤める公務員が私の噂を聞かないわけがない。
しばらくして話がまとまったのか男教師が戻ってきた。

「ああ、いいよ。入学を許可する。」

男は笑顔だった。
それに絆も笑顔で返す。
だが、私には分かる。

「早速、名前と年齢は?」

私に向けるその笑顔。
どうした?
引きつっているぞ?
私は笑い出しそうなのを堪える。

「彼女は白夜 陽月ちゃん。歳は・・・えっと・・・」

「15だ。」

絆が私の名前を言い、私は年だけ伝えた。

「これから君が入ることになるクラスに案内する。」

男は引きつった笑顔のまま私をクラスへと案内する。
絆もその後に続く。
数少ない扉のうち1つの前で男教師は立ち止まった。

「ここだ。」

扉を開けるとそこには11個ほどの机と椅子が置いてあった。

「あたしの席はここだよ。」

絆は教室の中に入り、4列あるうち窓際から2番目の列の一番後ろの席の前に立つ。

「あたしの隣、こっちの窓際の席ね、空いてるからここにしよ。」

「そうだな。じゃあ、君は明日から結心の隣、窓際の一番後ろの席に座ってもらう。」

私は黙ってうなずく。
男教師は私の顔色をうかがおうと私に気づかれないように様子を見てきた。
とっくに気づいているがな。
私はその顔に冷たい笑顔を向けた。
それを怖がったのかすぐに向こうから目を逸らしてきた。
顔が青いな。
そんなに怖いか。
私の存在が。
呪われ魔女の存在が。

「も、もう君たちは帰りなさい。先生もすることがあるんだ。」

早くその場から立ち去りたいのか教師はそう言い出した。
絆は元気にうなずき、私の手を取った。

「じゃあ、先生、また明日!」

私たちは学校を出た。
学校を出た後でもあの大人たちが私を怯える目で見送っている視線を感じた。
やはりどこへ行っても私は嫌われ者か。
いや・・・どこへ行ってもということでもないな。
この世も捨てたものではない。
今度は期待を裏切らないでもらいたいものだ。
この世界、まだ楽しませてもらう。
絆のような人間が一体どれだけいるのだろうな。
学校か・・・おもしろい。
どんな人間がいるのか・・・な。

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あきゅろす。
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