[携帯モード] [URL送信]

真心文庫
暗闇の街 双子の旅立ち
その後、巫女と月光は街を出てまた森の道を歩き始めた。

「なあ・・・」

「?」

月明かりが頼りの道をしばらく歩いていると月光がさっきの思った疑問を巫女に聞いた。

「さっき、石に帰れるように願わなかったのはなぜだ?」

「ああ、そのこと。」

巫女は微笑み答えた。

「あの街に平和でいてほしかったからよ。」

「答えになっていないが;」

「確かに願おうとは思ったわ。でも、私は知りたいの。なぜこんなことになったのか・・・なぜ私がここに来たのか、
私に何があったのか・・・全部、自分で確かめたいの。それに願っていてとしても帰れたか分からない。
叶うか分からない願いより他の願いのほうがいいと思ったのよ。もっと役に立つ、みんなが幸せになれる願いのほうが・・・。」

月光はそう言っている巫女になぜか目が離せなくなった。
月の光で横顔がはっきりと浮かび上がっている。
とても穏やかな笑顔を浮かべていた。
その視線に気づき、巫女は月光を振り向いた。
月光は慌てて前を向きなおす。
巫女はその様子がおもしろかったのかくすっと小さく笑った。
かすかに月光の顔が赤くなっている。
巫女はそれに気づかない。

しばらく無言が続いた。
夜はまだまだ長い。
少し急な坂道を上る。
上りきると2人は立ち止まった。
何と目の前には小さな砂漠が広がっていた。

「砂漠?」

「そのようだ。」

「この先を真っ直ぐ進めばいいの?」

「ああ。砂漠と言ってもここは小さい砂漠だ。歩いていればすぐに向こう側へ出る。」

巫女と月光はまた歩き出した。
砂漠は小さいらしいがやはり砂漠は砂漠で結構、向こう側までは遠いらしい。
1時間ほど歩いているが向こう側にまだつかない。

「ここ、本当に小さな砂漠なの?」

「そのはずだ。」

「1時間くらい歩き続けてる気がるすのだけど・・・」

「確かにそうだな・・・」

「もしかして迷ったとか?」

「・・・・・・・」

月光がなぜか黙ってしまった。
巫女は心配になり、もう一度聞く。

「私たちは真っ直ぐ進んでいるから問題はないわよね?」

「・・・・・・・・・・。」

月光はうつむいて考えている。
巫女はだんだん不安を膨らませていた。

「月光・・・?」

「・・・真っ直ぐ進んでいるのは間違いない。だが問題は・・・」

月光は巫女と顔を見合わせた。

「どこを真っ直ぐ進んでいるのかが分からないということだ。」

少しの沈黙がものすごく長く感じた。

「空を飛んで砂漠から抜けることは?」

「できるがボーマンダは余程のことでない限り、する気を起こさない怠けたやつだ。」

「出れなかったらここで野宿?」

「いや、出れる。心配するな。」

「そう・・・」

今は月光を信じよう。
2人はまた歩き始めた。

夜は深くなり、月明かりがよりいっそう輝いている。
ひたすら歩き続ける。
だが、いくら歩いても辿り着かない。
月明かりで大体のものは見えるが、やはりどこを見ても砂漠だ。
本当に小さな砂漠なのだろうか?

「出られないわね・・・」

「・・・・悪いな。」

「謝ることはないわ。仕方ないから、今日はもう休みましょう。また明日、明るくなったら分かるのだから。」

「・・・・・・ああ。」

その日は砂漠で野宿にすることにした。
2人は比較的砂の少ない場所を選び、眠った。
砂漠の月明かりは2人を温かく照らしていた。

朝。

巫女と月光は夜明けと共に目を覚ました。
しばらくまどろんでから再び、出口を捜すために歩き始めた。
太陽が昇ってから30分、やっと砂漠から出ることが出来た。
また森の道が続いているが・・・。

「やっと出られたな」

「ええ。ありがとう、月光」

巫女は月光に微笑む。
月光は少し照れてそっぽを向き、前へと進む。

今はまだ午前中。
2人は森の道を歩き、前へ前へと行く。

「あれ?」

「どうした?」

「あそこにあるのは・・・街?」

少し歩いていた巫女たちは立ち止まり、遠くにある黒い街らしきものを指差しながら聞いた。
月光は目を細めて見ようとするが小さくて見えなかったらしく、眼鏡を取り出し、見てみた。

「街・・・のようだな。」

「そんなに小さく見えるの?」

「ああ。お前は視力がいいようだな。」

「そう?とにかく、行って見ましょう。」

「そうだな。」

2人はまた歩き始めた。

着いた場所は本当に街だった。
だが、その街の印象は一言で言うと「暗い」。
朝で太陽も昼に近いというのにその街だけやけに暗い。
廃墟のようだが、石造りの建物はそれほど古くない。
だが、街の人間の姿は1人も見かけない。
いるのはヘルガーやヤミカラス、ヨマワル、カゲボウズといった暗闇を好みそうなポケモンたちだ。

「人気がないわね・・・。」

「廃墟ではなさそうだが・・・街の人間は多分、建物の中にいる。」

「このポケモンたちがいるからかしら?」

「そうかもな。見る限り、全部野生だ。」

「一体、どうしてこんなことに・・・」

その時。

突然、少年の悲鳴と思われるものが聞こえた。

うわああ!

「何っ?!」

「あっちだ!」

巫女と月光は悲鳴の方向へ走る。

そこは路地裏だった。
行き止まりの壁に寄りかかるようにいる紙の束を持った少女と少女を守ろうとする少年の姿があった。
そしてその手前には3匹のヘルガー。
怖い顔をして2人を襲おうとしている。
少年はモンスターボールを片手に少女を守ろうとする。

「く、来るな!」

「だったら大人しく食いもんよこしな」

真ん中にいたボスと思われるヘルガーが偉そうに言う。

「俺たちに食いもんはねぇ!さっさとどっか行け!」

「クククッ・・・そう簡単に見逃すかよ」

左のヘルガーが少年にゆっくり近づく。
少年はボールを握り締めながら、動けずにいる。

「行くぜ!」

ボスヘルガーの言葉で3匹は少年たちに襲い掛かろうとした。
少年は目を硬く瞑り、少女を抱え込むようにした。
だが、聞こえてきたのはヘルガーたちの苦しむ声だった。
少年たちは目を開ける。
ヘルガーたちは壁に叩きつけられたようだ。

「うぐっ・・・!」

「3匹で何もいない人間を襲うのは感心しませんね。」

「早くここから立ち去るほうが利口だと思うが?」

少年と少女が見たのはキルリアとグラエナ。
そして路地裏の出口に立つ、少し年上と思われる女性と男性。
どうやらキルリアとグラエナはあの2人のポケモンらしい。

ヘルガーたちはたった1発喰らっただけでこの2匹は自分達よりも上だと分かったのか、壁を駆け上がり、逃げて行った。
少年と少女は立ち上がり、お礼を言おうとその2人に近づいた。
近くで見ると男性も女性もまだ若く、自分達と大して変わらない歳なのだと分かった。
キルリアは女性の元へ、グラエナは男性の元へ戻った。

「あ・・・あの・・・」

少年は2人に声をかける。

「ありがとう・・・ございました。」

「怪我はない?」

女性のほうが少年と少女に微笑みながら尋ねる。

「ない・・・です・・・」

少女のほうが答える。

「そう。よかった。」

「俺、慎吾。この街で暮らしてる。こっちは心愛。俺の妹。」

「・・・どうも。」

慎吾は明るい元気な声でそう自己紹介した。
心愛は少し警戒しながらもそう言う。
どうやら心愛は口数が少ない子のようだ。

「私は巫女。」

「月光だ。」

巫女と月光も2人に自己紹介する。

「キルリアです。」

「俺はグラエナ。」

キルリアとグラエナも一応、名乗った。

「さっき、目瞑ってて分からなかったけど、何したの?」

慎吾が巫女と月光に聞いた。
どうやら戦い方とかに興味があるみたいだ。

「グラエナが悪の波動、キルリアがマジカルリーフを使っただけだ。」

月光が答えた。

「え?それだけ?」

「ええ。どうして?」

慎吾は少し驚いた。
それだけでまさか3匹を追い返すとは・・・。
慎吾はうれしそうに言う。

「兄ちゃんたち、旅の人?」

「ああ、そうだが?」

「もしかして、さっき来たの?」

巫女と月光はうなずく。

「泊まる場所は?」

「ないけど・・・」

「なら、俺たちのところに泊まっていけば?」

慎吾の言葉に心愛は目を見開いて、少し険しい顔をした。

「な、そうしろよ。」

「・・・・何言ってんの?」

心愛が厳しい口調で問う。

「何だよ、何が不満なんだ?」

「だって・・・・・助けてもらったのは感謝するけど・・・・知らない人たちだし・・・。」

「だからって、そんな言い方しなたっていいだろ?」

「・・・・・。」

心愛は黙ってしまった。
慎吾はため息をつき、巫女たちに言った。

「ごめんな。こいつ、人見知り激しくて・・・」

「いいのよ。2人は何歳なの?」

「俺たちは13だよ。」

「たち?」

月光が疑問を持った。

「ああ。俺たちは双子なんだ。あんま似てねぇけど。」

慎吾は笑って言った。
心愛は慎吾の後ろで警戒している。
巫女はそんな2人に優しい笑顔を向けた。

「そう。仲がいいのね。」

「俺らにはもう身寄りがねぇからな。2人で暮らしていくしかねぇんだ。」

「ご両親は?」

「いない。どっちも病気で亡くなった。」

慎吾は寂しそうに言う。
心愛もそれを聞いて寂しそうにしていた。
巫女は少し胸を痛めた。
そう言えば今、元の世界にいる母と父はどうしているだろうか、と疑問が浮かんだのだ。

「どうやって生活を?」

月光が素直に疑問に思ったことを口にする。
慎吾はあまり声の大きさを少し落として言った。

「街から支援してもらってるんだ。でも、見ての通り街はこんな状態だ。朝は石造りの家にいて、夜にやっと出てこれるようになる。
ほら、さっきのヘルガーたちや他のポケモンがいただろ?あいつらが突然食いもん探して半年くらい前に来たんだよ。そしたら大暴れ。
お陰で活発的に活動する朝には人は出られなくなっちまってな。
夜、ここは賑やかになる。俺たちは支援してもらってるが、後はもうそんなに長く続かないんだ。」

慎吾は自分たちの事情とともに街の事情も話してくれた。
どうやら半年もこの街はあのポケモンたちに悩まされているようだ。
慎吾は気を取り直したように明るく言った。

「ね、本当に泊まるところがないなら俺たちのところに来いよ!
大したことはできねぇけど、お礼はちゃんとしたいんだ。」

慎吾はそう言うと後ろにいた心愛を軽くひじで突いた。
心愛は少し不機嫌そうにしたがやがて諦めたようにため息をついた。

「・・・・・・いいよ。」

慎吾はうれしそうに笑った。
巫女と月光も顔を見合わせた。

「よかったわね。」

巫女は月光に微笑んだ。
月光は少し目を見開いたが、すぐに目を逸らして答えた。

「そうだな。」

心愛はそんな2人を少し不思議そうに眺めていた。
慎吾と心愛は巫女と月光を自分達の住む家へと案内してくれた。
その間、キルリアはグラエナの上に乗り、周りを警戒しながら護衛するように巫女の隣を歩いていた。
やはり大通りらしき道もひっそりしていて殺風景に見える。
今歩いているのは慎吾、心愛、巫女、月光、キルリアを乗せたグラエナだけだ。
あとは警戒するようにしている野生のポケモンたち。

「ここだ!」

慎吾と心愛は立ち止まった。
そこにあったのは他と比べて小さな石造りの家。
1番端っこの目立たないところにある。

「ちょっと待ってくれ・・・」

慎吾は自分のポケットを探る。
だが、はっとなって自分のあちこちを探す。
どうやら探し物が見つからないようだ。
心愛がそんな慎吾に呆れ、自分の短パンのポケットから家の鍵だと思われるものを取り出した。
どうやら慎吾は自分の鍵を探していたらしい。

「あ、悪ぃ悪ぃ」

「・・・・・・・・・・・もう。」

心愛は家の鍵を開け、扉を開けた。
そして巫女たちを振り返った。

「・・・・・・・どうぞ。」

心愛は無愛想に手で入るように合図した。
巫女と月光は開けてもらった扉から中に入る。
中は両脇の壁側にベットが1つずつ、その真ん中に少し大きめの机が1つ、そしてその机を囲むよう4つの椅子が並べられていた。
その奥にはキッチンと思われる小さな調理場があった。
壁は白っぽい灰色、床には丸い赤の絨毯、あとは2人分のものがいくつかあるだけだった。

「あんまものないけど、ま、ゆっくりしてくれよ。」

慎吾は心愛と共に後から入ると扉を閉め、明かりを点けた。

「自分ちだと思ってくつろいでくれ!」

慎吾はとても軽いノリでそう言った。
心愛はそんな兄にため息をついた。
そして右側のベットへ歩み寄り、そこに自分の荷物を置くと今度は台所のほうへ向かった。
慎吾も左側のベットに向かい、自分の荷物を置く。

「こっちが俺でそっちが心愛のベットなんだ。今日は巫女が心愛の使って、月光が俺の使えよ。」

慎吾は仮にも年上の巫女と月光を呼び捨てにし、笑った。
だが、2人は特に気にすることもなく、巫女が言った。

「ありがとう。でも、私はいいわ。」

「俺も構わない。寝る場所なら自分たちで確保する。」

「え?・・・そっか。まあ、寝心地悪ぃと思ったら、すぐ言ってくれよ。」

慎吾はそう言うと椅子に腰掛けた。

「座ってゆっくりしてくれよ。ここには俺たち以外、誰もいねぇから。」

巫女と月光は言われた通り椅子に座った。
月光は慎吾の隣、巫女は月光と向かいあっている。
2人とも荷物を床に置いた。
台所から心愛が何かしている音がする。
巫女は立ち上がり、台所に向かった。

「ちょっと手伝ってくるわ。」

暖簾をくぐり、台所に入って行った。
慎吾は巫女がいなくなると月光に聞いた。

「な、巫女って月光の女なん?」

いきなりの質問に頬杖をついて休んでいた月光が少しこけた。

「違う」

「へー・・・んじゃ、片想いか。」

さらなる質問に月光はさらにこけそうになった。

「何でそこにいくんだ?」

「だって・・・月光、巫女のこと見てるとき結構ソワソワしてんじゃん。」

慎吾が探りを入れるような笑みで月光に聞く。
月光は知らずほんのかすかに頬を赤くしながら言った。

「気のせいだ。俺はあいつのことをどうとも想ってない。」

「ふ〜ん・・・つまんねぇ」

慎吾はつまんなそうに机に顔を伏せた。
その態度が気に入らなかったのか月光が慎吾の首を腕で閉める。

「うっ・・・く・・・苦しい・・・」

「余計なことを言うな」

「だっ・・・だって・・・そう見えたんだ・・・・」

慎吾は苦しそうにしているが笑みを浮かべて口が減らない。
月光は慎吾を離し、今度は慎吾の頬を引っ張った。

「どの口が言うんだ?」

「うぐっ・・・こっ・・・このくひっ・・・」

引っ張られてるにも関わらず慎吾は笑いながら答えた。
しばらく月光は慎吾をいじめ、慎吾はそのいじめを遊びだと勘違いし、笑って楽しんでいた。
月光のほうは本気だったが・・・・。
その頃、台所に巫女が入ってきたことに心愛は気がついた。

「・・・・・・・・何か?」

「手伝おうと思って。」

心愛は隣に来た巫女を少し不審なものをみるような目で見ていた。
巫女は心愛と共に洗い物の手伝いをした。

「いつもあなたが?」

「・・・・うん。」

心愛は無愛想に答える。

「ご飯の用意とかは?」

「・・・あたし。たまに街の人にもらってる・・・。」

「そう・・・」

少しの間、沈黙が続いた。
そして心愛が口を開いた。

「・・・・・・何でそんなこと聞くの?」

巫女は心愛を見て、少しだけ目を見開いた。
だがすぐに微笑み、その問いに答えた。

「偉いなって思ったから。」

「え?」

今度は心愛が目を見開き、巫女を見た。

「だって2人でずっと頑張ってきて、本当は色々言いたいこととか我慢してることあるのに弱音も何も言わずにずっと頑張ってきて、今度は何か街の人たちに何かしてあげたいなって思ってるから。」

「・・・どうして?」

「あそこにいた理由・・・本当は誰かに何か届け物したかったのでしょう?」

心愛は目を見開いた。
その通りだったからだ。

「何で・・・それ・・・」

「だって、ずっと手紙の束、持っていたでしょう?こんなポケモンたちが朝にうろついてるところで兄妹2人って危ないわ。なのにあなたたちは外にいた。それも自分の家から遠い場所まで。あの場所に手紙を届けられるような施設があるとは思えないし、開いてるとも思えない。そんな困った状況だったから、あなたたちが代わりに届けようとしたのでしょう?その手紙たちを。」

「う・・・ん・・・」

心愛は巫女を驚いた様子で見ていた。
まさかあの短時間の間にそこまで見られているとは思っていなかった。
短時間の間に・・・理解されるとは思っていなかった。

「よく・・・見てるんだね・・・」

心愛は驚きを隠せない様子で巫女に言った。
巫女はそんな心愛に優しい微笑みを向ける。

「あなたたちが寂しそうに見えたから・・・」

「え?」

「何となく・・・ね。寂しそうに見えたのよ。そしたら、ちゃんとよく見てあげないとって思って。」

心愛はとても優しい、温かな気持ちを感じた。
今まで慎吾と2人だけで大丈夫と思っていたが気づいたのだ。
本当は誰かに甘えたかったのだと。
誰かに見てほしかったのだと。
そう思ったら、心愛の頬を涙が伝う。
巫女はそんな心愛を優しく、姉のように抱きしめた。

「よく頑張ってきたわね。偉いわ。何かあるなら私が聴くから。だから、泣いていいのよ。我慢しないで。」

心愛はそれを聞くと巫女の胸に顔をうずめて静かに泣いた。
巫女はそんな心愛の頭を優しく撫でた。
少しすると心愛は落ち着き、泣き止んだようだ。
そして涙を手で拭い、少し顔を赤くさせながら、巫女に言った。

「・・・・・・・・・ありがと。」

巫女はそんな心愛に微笑んだ。

「いいえ。」

「・・・・あたし・・・心愛・・・改めてよろしく・・・。」

心愛は改めて今度は自分の言葉で自己紹介した。
巫女も同じように笑顔で言った。

「私は巫女。改めてよろしくね、心愛。」

巫女は心愛に手を差し延べる。
心愛は少し躊躇いがちにその手を取り、握手した。
空はもう既に夕方。
巫女と心愛は夕食の準備を2人で楽しく始めた。
一方、巫女たちのいるキッチンの外では未だに月光が慎吾をいじめている。
慎吾はそれをいじめではなく遊びだと思い、笑っていた。

「あっはっはっは!月光やめろよ!!くすぐってぇー!!」

「うるさい!黙れ!」

「やめっ!マジでやめ!あはははっ!!やめてくれー!」

「2度と変なこと言うな!」

「いやっ、変なこと言ってねぇーって、あははははっ!!!」

慎吾は久しぶりに大笑いをしていた。
そして月光もいつの間にか楽しんでいた。
楽しそうにじゃれ合っている。
その時、巫女と心愛が作った夕食を持って出てきた。
2人がじゃれ合っているのを巫女が困ったように笑いながら見た。

「何やっているのかしら?」

「さあ。でも・・・慎吾、久しぶりに大笑いしてる。」

心愛はそう言って、兄である慎吾を見る。
ほんの少しだが微笑んだ気がした。
巫女はそんな心愛に密かに微笑んだ。
テーブルに近づき、ご飯を置く。

「いつまでやってるの?夕食、出来たわよ。」

巫女がそう言うと月光と慎吾が動きを止めた。
後から心愛も食事の皿をテーブルに置く。

「全く・・・ほんと子供なんだから・・・」

心愛は小さな声で呟いた。

「うるせぇよ。でも、サンキューな。」

慎吾は笑った。
心愛は俯いたが嫌そうではない。
月光は身体を元の位置に戻し、座った。

「・・・誰が作った?」

月光は皿にのっている料理を見て言った。
それは数少ない材料で作られているのに綺麗に盛り付けられていて、おいしそうな匂いを放っている。
心愛はその問いに少し嬉しそうに答えた。

「それ、巫女さんが作ったんですよ。」

「うっまそー!!」

慎吾が食いついてきた。
巫女は困ったように笑った。

「口に合うか分からないけれど」

巫女はそう言うと月光の向かい側の席に座る。
巫女の隣、慎吾の向かい側に心愛が座った。

「いっただっきまーす!!」

慎吾はそう言うとそれを食べる分だけ自分の皿に盛り付け、豪快に食べ始めた。
一気に口に頬張り、飲み込む。
すると目を輝かせて言った。

「めっちゃうめー!!!」

巫女はそれに安心したようにため息をついた。

「・・・・・がっつくと飲み込めないよ。」

「だってうめーもん!心愛、お前も食えって!」

我が物顔でそう言ってきた慎吾に不機嫌な表情を浮かべながらも心愛は巫女の作った料理を口に含む。
すると少し目を見開いて思わず言った。

「おいしい・・・・・・」

「だろ?月光も食ってみろって!」

「・・・・慎吾が作ったわけじゃないのに・・・・」

慎吾はその言葉にぐさっとなったが苦笑いで言った。

「い、いいじゃねぇか、別に・・・な?」

心愛はため息をつき、食事を続ける。
月光はそんな2人の様子を見てため息をついたが、言われたように巫女の作った料理を食べてみた。
月光も少し目を見開いて驚いたが、すぐに表情を戻す。

「・・・・・・いいんじゃないか?」

巫女は微笑んだ。
その時、月光のベルトについていたモンスターボールから勝手に料理の匂いを嗅ぎつけて
ボーマンダ、ロゼリアが出てきた。
それにグラエナとグラエナの上に乗って眠そうにしていたキルリアが気がつく。
キルリアはグラエナから降りて、巫女の膝の上に乗る。
巫女は少し驚いたがすぐにキルリアに微笑んだ。
キルリアはそれに嬉しそうに微笑み返す。

「うまそーな飯の匂いがすんじゃねぇか。」

ボーマンダはいきなりの登場にも関わらず、のん気にそんなことを言った。
それを聞いてロゼリアが黒い笑いを浮かべる。

「食い意地張ったおっさんですこと」

「んだと、このガキ」

ボーマンダはロゼリアを睨む。
ロゼリアはまた笑う。

「クククッ。おっさんよりマシだと思うけど?」

「上等だゴラァ、表出ろや、クソ野郎」

「はあ?あたし野郎じゃなくてメスなんだけど?頭大丈夫?」

ロゼリアの毒舌にボーマンダはとうとう怒り出した。
人の家の中だというのに暴れようとする。

「グラエナ、殺れ」

少し殺意の入った言葉で月光がグラエナに指示をする。
グラエナはため息をつき、主人の言う通り、ボーマンダを尻尾で叩き、ロゼリアを前足で押さえた。

「まだ喧嘩するなら、月光の言う通り殺らないといけなくなるが、どうする?」

ボーマンダもロゼリアも不満そうな顔をした。
そんなポケモンたちを慎吾と心愛は驚きながら見ていた。
慎吾は少し嬉しそうな表情を見せる。

「へぇー!こいつら月光のポケモン?」

「認めたくないがそうだ。」

月光は少し疲れたような表情を見せる。
巫女はそんな月光を困ったように微笑みながら見ていた。

「俺、慎吾!よろしくな」

慎吾は月光のポケモンたちに笑って自己紹介した。

「・・・・・・・心愛。」

心愛も少し不審なものを見るように無愛想に自己紹介する。
ボーマンダはその2人を見て、笑った。

「へぇ、ガキにしちゃあ、名前名乗るって礼儀はちゃんとしてんだな、どっかのクソガキと違ってな。」

「だね。ヤクザみたいな加齢臭漂わせてるおっさんよりずっとマシだね。」

グラエナに押さえられているロゼリアも言い返すように嫌味たっぷりに言う。
ボーマンダはそんなロゼリアを睨んだ。
ロゼリアも睨み返す。
だが、後が怖いためすぐにお互いそっぽを向いた。
月光はまたため息をついた。

巫女は微笑みながら、3枚の皿に料理を乗せ、キルリアを降ろしてから立ち上がり、その皿を持ってグラエナたちの元へ歩み寄った。
そして1つボーマンダに、もう1つを押さえられているロゼリアに、最後の1つをグラエナに渡した。

「まだ食べてないのでしょう?どうぞ。」

巫女はそう言って微笑むと今度はキルリアの元へ歩み寄った。
そして、自分の皿をキルリアに渡す。

「いいの?巫女ちゃん」

「今日は頑張っていたから。それに、まだご飯食べていなかったでしょう?」

キルリアは嬉しそうに元気に頷き、料理を口に頬張った。

「んー!!すっごくおいしいです!」

キルリアは満面の笑顔で言った。

「うめぇじゃねぇか!」

「・・・・・おいしいんじゃない?」

「礼を言う。」

月光の後ろにいたボーマンダたちもそう言った。
巫女は次に自分のウェストポーチの中からボールを1つ取り出し、ポケモンを出した。
中からバシャーモが出てきた。

「何か用か?」

巫女はそんなバシャーモに同じように料理を渡す。

「まだ食べていないでしょう?」

バシャーモはそれを受け取った。
巫女はそれに微笑む。
バシャーモは料理を食べた。

「・・・・・・・悪くない。」

そう言いながらも食べ続ける。
食べ終わると月光と目が合った。
月光とバシャーモの目がなぜかバチバチと音を鳴らせながら睨み合っている。
少しして同時に目を逸らした。

「へーへー!巫女はバシャーモも持ってんだ!!」

慎吾はそんなバシャーモを目を輝かせながら見ていた。
心愛も不思議そうに見ている。
巫女は全員食べ終わったのを確認すると洗い物を回収し、台所へ戻った。
それに心愛もついていく。
2人がいなくなったところで慎吾は改めてポケモンたちを見渡した。
とても嬉しそうだ。

「すっげー!かっこいいじゃん!そうだ、いいこと考えた!」

そういうと慎吾は立ち上がった。
そしてテーブルを隅に寄せる。

「何やってるんだ?」

月光は今度は椅子を動かし始めた慎吾に聞いた。
慎吾は椅子も一緒に隅に動かした後、答える。

「ポケモン全員出して遊ぼうって思ってさ!今場所作ってんだよ。」

慎吾はそう言うと笑った。
そして自分のポケットからボールを3つ取り出し、スイッチを押した後、宙に投げた。

「出て来い、俺のポケモンども!」

そして出てきたのは真面目そうなテッカニン、見た目通り怠けているナマケロ、ポジティブそうで結構元気なプラスルだ。

「慎吾、自分の遊びに僕たちを使うのはやめてください。」

「ったく・・・面倒くせぇ。おい、慎吾、水持ってこい水」

「ねぇ慎吾!マイナンは?マイナンと遊びたい!」

口々に勝手なことを言っている。
どうやら主人である慎吾の言葉そんなに聞かないポケモンたちのようだ。
特にナマケロは自分がボスのような態度を取っている。
慎吾はそんなポケモンたちに小さくため息をつく。

「おい、慎吾、何か飲みもん持って来いっつってんだろ?」

特にナマケロは逆に慎吾をこき使っているようだ。

「しょうがねぇなー・・・」

慎吾はそんなことも知らずに言われた通り、水を持っていく。
ナマケロは寝そべったまま、もらった水を飲む。
そして一息つくと偉そうに言う。

「今度はもっと早く持ってきやがれ。」

「ったく・・・・・持ってくりゃいいんだろ?持ってくりゃ!」

慎吾は不機嫌になりながらもそう言った。
どうやら、慎吾は天然、素直、バカを兼ね備えているらしい。
月光はそんな慎吾を見て、疲れたようにため息をついた。
「ポケモンにバカにされてどうする・・・;」

「え、俺がバカ??なわけねぇだろ!!俺はこいつらのトレーナーだぞ。」

自慢げに、誇り高いと言わんばかりの自信に満ちて腕を組み、偉そうに言う慎吾。


[back]

8/8ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!