真心文庫
新しい村へ
しばらくして泣き止んだ絆は涙を拭い、微笑んだ。
「もう大丈夫。ね、これからあたしの住んでる村に来る?」
絆の・・・村?
今日は今までの中で一番いい日。
今泣いてるのだってうれしいからだよ。
だって陽月ちゃんと友達になれたの!
陽月ちゃん、ちょっと言うこときつかったりするけど本当はとっても優しいと思う。
だって、あたしの話、ちゃんと聞いてくれた。
あたしのこと分かってくれたの。
今まで適当に同情されて、それが一番辛かった。
誰もちゃんとあたしのこと分かろうとしてくれなかった。
でも、陽月ちゃんはちゃんと分かってくれた。
可哀想とか、悲しいねとかっていう言葉じゃなくて、ちゃんとはっきりあたしがどう思ってるのかって聞いてくれたの。
ちょっと怒ったような感じだったけど・・・
でもでも、本当にあたしは救われた。
多分、あたしは可哀想とか言われ続けて自分は可哀想なんだって自惚れてたんだと思う。
そんなの自分の不幸を喜んでるだけだよね。
なぜ疑わないのか、なぜ恨まないのか、なぜ憎まないのか・・・聞かれて分かった。
本当のあたしはもっと強くなくちゃいけない。
誰かを疑ったり、恨んだり、憎んだり、そんなの絶対にしたくない。
だから笑顔で生きようって頑張ってきてたんだ。
それを自分の不幸に自惚れて忘れるところだった。
陽月ちゃんが思い出させてくれた。
ありがとう、陽月ちゃん。
でも・・・それって陽月ちゃんがあたしと似たようなことがあったってこと・・・だよね。
あたしは陽月ちゃんに救われて、友達になれて、すごくうれしいけど・・・
陽月ちゃんは誰かに自分のこと、分かってもらえたのかな?
もしも誰もいないなら、あたしが分かってあげたい。
陽月ちゃんをあたしが分かってあげるの。
他の誰でもない、あたしが。
それに・・・誰かと約束したような気がする。
いつだろう・・・とても最近のような気がする。
村で?違う。この森だと思う。
でもこの森だとしたらこの森のどこだろう?
・・・・ここ?
ここだとしたら陽月ちゃんと?
ううん。だって昨日は陽月ちゃんとそんなに話してないし、約束できるような仲じゃなかったし・・・
あれ?何だろう・・・誰としたのかな?
・・・・・・今度思い出せると思うからいいや。
まずは陽月ちゃんのこと、もっとよく知らないと。
あたしは泣き止んで涙を拭って、もう大丈夫って微笑んだ。
「もう大丈夫。ね、これからあたしの住んでる村に来る?」
陽月ちゃん、ちょっと驚いてる。
やっぱりダメかな。
「・・・何かあるのか?」
「え?ううん、違うの。この森を抜けるとあるんだけどね、いい人たちばっかりなんだよ。
それに陽月ちゃん、ずっとここにいるわけにもいかないでしょ?だから、しばらくあたしのところにいない?」
陽月ちゃん、うんって言ってくれるかな。
でも、言ってくれないよね。
だってさっき友達になったばっかりでまだお互い知らないことばっかりだし。
あたし、ちょっと恥ずかしいな。
「・・・・・ちょうど困っていたところだ。案内してもらおう。」
え?え、本当?
「いいの?」
「誘ったのはどちらだ?」
「いや、あたしだけど・・・今日、友達になったばかりで・・・それで・・・ダメかと思った。」
「今日なったばかりだとダメなのか?」
「そうじゃないよ。あたし、すごくうれしい!案内するね!」
陽月ちゃん、ちょっと呆れたようにあたしのこと見てる。
こっちのほうが恥ずかしかった。
でも・・・よかった。
そういえば、昨日より陽月ちゃん、優しい顔になった気がする。
気のせいかな?
気のせいじゃないといいな。
あたしたちは立ち上がって森の中を歩く。
陽月ちゃんはあたしの後ろでついてきてる。
ちょっとドキドキするな。
あ、そろそろ森を抜けられる。
「こっちだよ!」
あたしは陽月ちゃんの手を掴んで走った。
森を抜けるとそこにあたしの住む村があった。
働いてる人たちの声、子供が笑う声、お昼を知らせる鐘の音、広場に集まるポケモンやポケモントレーナーたち、
バトルをする人たち、ここは賑やかで明るいあたしの生まれ育った村。
「ここだよ!」
陽月ちゃんはどう思うのかな?
どんな顔をしてるのか見てみる。
あれ?怒ってる・・・?わけじゃないよね。
でもうれしそうではないよね。
とても冷静でまるでこれから起こることが分かるみたいな顔・・・。
この時、あたしは分かるわけがなかった。
これから起ころうとしていること。
そして、陽月ちゃんがどうしてこんなことになったのか・・・
陽月ちゃんにとっての新しい村がこれから何をするかなんて・・・。
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