[携帯モード] [URL送信]

真心文庫
決意、行動、そして想い
夜があけ、紅の館では処置が大変だということでみちるは救護の間に運び込まれた。
深夜に呼び出されたにもかかわらず、知希は寝ずに付きっきりでみちるの脚を診ていた。

「これは酷いな・・・。派手に両足の骨が破損している。
頑張っても全治数年はかかるか・・・。下手すればこのままずっと・・・かもしれないけど」

知希は静かに、そう告げた。そして、固定するための器具を手際よく取り替える。
その後ろには、炎精の4人が静かに見守っていた。

「みちるちゃん・・・痛みはどう?」

絆はかける言葉が見つからず、具合を訊いてみた。
みちるは、苦しそうにしながらもなんとか声を絞り出した。

「駄目・・・痛い・・・すごく・・・、っ!!」

また、大きな痛みが襲ってきたらしく歯を食いしばるが、一向に痛みは引かない。
それどころか徐々に悪化している。

絆はそんなみちるを見て、みちるの隣に駆け寄り、手を握ってあげることしか出来なかった。
そしてとても心配そうに、悔しそうにみちるの手を握り続けた。

そのとき、救護の間の扉を開ける音が大きく響いた。

「姉ちゃん・・・!!」

瀬南は彼らしくない大きな声を出してみちるのほうに来た。
そして姉の顔を覗き込む。みちるは、瀬南の顔を確認すると弱弱しく微笑んだ。

「せ、な・・・痛い・・・痛いよ・・・」

「ッ・・・・!!!」

瀬南は歯軋りすると、ベッドのシーツに爪を立てた。
そして、遅れて息を荒くさせながら明雄と爽があらわれた。
爽はいつもならこの早い時間に起きるはずがないのだが、無線で絆が焦って何か言葉になっていないことを言っているのを聞くと
すぐに起き上がり、一緒に駆けつけてきたのだ。

明雄はベッドで横になり、知希に治療をうけているみちるを見、目を見開いた。

「・・・・み、ち・・・る・・・・」

爽も同じように痛みで苦しそうなみちるを見て、目を見開く。
その隣で、みちるの手を握りながら、とても心配そうにしている絆に歩み寄った。

「絆・・・」

絆は名前を呼ばれて爽を振り返った。
そして今にも泣きそうな悲しそうな表情をしている。

「爽・・・くん・・・」

爽はそんな絆の頭を撫で、訊いた。

「何があったんだ?」

「分かんない・・・・もう・・・・分かんないよ・・・・」

絆はとうとう泣き出した。
爽はそんな絆を安心させるように頭を撫で、笑ってあげる。

「泣くな。お前が泣いたら終わりだぞ。藍崎は痛いのに頑張ってんだ。お前は泣くんじゃねぇよ。」

絆はその言葉を聞くと、慌てて涙を拭い、頷いた。

しばらく、呆然とその様子をみていた明雄だったが、黙って知希の横に来るとみちるをみた。

「・・・・・・。」

「あき・・・お?」

「・・・みちる」

みちるは、明雄の表情を見、ついに耐え切れなくなった。
そして、目から大粒の涙をベッドシーツの上に落とした。
みちるは、もう何も言うことが出来ず手で顔を覆いながら声を上げて泣いた。

「うっ、う・・・あ、あああっ・・・うわあぁん!!」

「ッ・・・・・・・・・」

明雄は顔を覆っているみちるの腕を優しく握った。
みちるは、泣きじゃくりながらも明雄と視線を合わす。
そんな思い人をみた明雄は、一言言った。

「仇は俺が討つ」

その言葉には、みちるもわからないほどの力がこもっていた。
明雄自身もわからないほど、その力は強く、大きかった。

その様子をずっと見守っていた陽月が、静かに言った。

「・・・あとでミレニアムに治療のほうを頼もう。完全かどうかは分からないが、治すことは出来る。
それまで、少し待っていてくれないか?みちる。」

みちるは泣きながらも、小さく頷いた。
そんな皆をみていた知希も口を開く。

「誰かはわからないけど、その人が来るまでみちるちゃんは責任持って診てるよ」

陽月はそれに小さく頷いた。
そして、みちるから手を離した明雄も、

「・・・頼む。」

と一言言った。

そして、そのとき間の扉が開く音がした。

海月だ。

「みちるがここにいるって聞いたから来た。・・・あと、伝えることがあってね」

海月はかなり不機嫌な表情だが、みちるの姿を遠目で見、さらに機嫌を悪くさせる。
そして、間にいる全員に聞こえる声で言った。



「テルミ様がさらわれた。」



その言葉に陽月は目を見開いた。
そして、さっきハチの言っていた言葉を思い出した。



『ナナに勝ったんっすよねぇ。それはこちらとしたら困るんっすよ!ナナを助けにこられちゃあねえ』



この「ナナ」と呼ばれていた人物。
ナナというのはテルミが人間になるまでの番号ではなかっただろうか?
陽月はそれに気づくと、胸の中で計り知れないほどの怒りと、危険を感じた。

「・・・・・・・テルミが・・・危ない・・・」

陽月は俯き、震える声で小さく呟いた。
それを聞いた一同は直感した

みちるを襲った存在とテルミを連れ去った存在は同じなのではないか

と。

海月は、泣いている奏や落ち込んでいる瀬南などに強い口調で怒鳴った。

「あんたら!泣いてたり、落ち込んでてもみちるは治らないし、テルミ様は戻ってこない!!
とっとと泣き止んで顔上げな!!!」

それをきき、奏は涙を拭い 瀬南は顔を上げた。

海月は、全員の顔を見た後、強い口調で言った。

「うちはテルミ様を助け、みちるの仇を討つ。その気があって
実力がある奴は乗り込むよな?」

と。

その言葉を聞いて、明雄は立ち上がる。

「ったりめぇだ。」

そして、涙を拭った奏も立ち上がる。

「私は、みちるちゃんを助けられませんでした。そして会長様も・・・。
大切な仲間を傷つけ、たくさんの人を悲しませた方々を赦すつもりはありません。
・・・私も力になります。」

陽月は顔を上げた。
その目はどこか悲しげで、恐怖を感じさせるほど冷たかった。
それは既に行くことを決めている と言いたげな目だった。

絆はそんな陽月の目を見て、とても悲しそうな顔をした。

「(今の陽月ちゃんは・・・初めて会った頃の・・・)」

絆はこのままでは何かが危ないと思ったのか、爽に言った。

「爽くん・・・あたしは何も出来ないし、みちるちゃんも助けられなかったから・・・。
だから、あたしの代わりにお願い。」

爽は真剣そのものの目を向けてきた絆を見て、頷いた。
そして、絆はもう1つ、爽に頼んだ。

「あと爽くん・・・。もしも、陽月ちゃんが・・・自分を壊すようなことすることがあったら、止めてあげて・・・。
きっと後に辛くなるのは、陽月ちゃんだから。」

爽はそれに笑って、頷いた。

「ああ。任せろ。」

意志を同じくした5人は立ち上がった。
それぞれ、考えは違っても目的は同じだ。

海月は4人の強い目を見届け、みちるの横にいる知希に言った。

「みちるは頼んだ。」

知希も力強く頷いた。

「そっちもがんばれよ」

「あたりまえだから。・・・絶対に潰す。」

海月はそういい、知希に背を向けた。



それぞれの思いを胸に、戦いは始まった。

[back][next]

18/130ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!