真心文庫
本音を出せる相手
テルミにその場を立ち去るように言われたαは独り、樹海の中を歩いていた。
主人の体調は気にかかるところだが、大丈夫だと言い切られてはαは何も出来ない。
だからこそここをこうやって歩いているわけだが。
小さい頃からとてもしっかりしていた主人だが、子供なのだから無理せずに
頼っても良さそうなところを、あえて気を張ってなんとか自分でやろうとしていた。
おかげでとてもしっかりとした男になったわけだが、子供らしさというものは彼にはあまりなかった。
色々と何も出来なかったαに社会常識や一般教養を教えてくれた主人だが
それを返す場はあまりない。だからこそ自分に出来ることをと、殺したり食ったりとしているわけだが
たまにやりすぎると注意されてしまう。ということで、αはしっかりとした主人を
しっかりとしてることゆえ、危なっかしくも感じていた。
もちろん口になど出さないが。
αは彼にしてはゆっくりゆっくり(と、いっても普通の人間の普通に歩く早さだが)歩いていた。
そしてとくに行くあてもなく、気晴らしに玩具を弄りに行こうかと考え始めたとき、
目の前に少し広い空間が広がった。
何度も何度も来た事がある二組の椅子とテーブル置いてあるのどかな場所。
だが今日はいつもとは明らかに違っているところがあった。
1つの椅子に、白銀の長髪に黒いドレスを着た、西洋の肖像画からそのまま出てきたような美しい女性が座って、
のんびり優雅に紅茶を飲んでいた。
女性はαに気がつくと、笑った。
「そなたが最初の客だ。」
「何故此処に」
「妾と陽月はとある出来事によって分離し、妾は妾として自由に動けるようになった。」
αはそれを聞きながら、近くの木に体重を少しかけた。
そして仮面の奥にある目で女性をとらえる。
女性、もとい白夜の魔女・ミレニアムは紅茶を飲み、口を離すと、笑みを浮かべたまま言った。
「そこにおらんでこっちに来るがよい。席なら1つ空いている。」
「悪いが断る」
「連れぬ男だ。フフフッ。」
ミレニアムは紅茶をテーブルに置いて笑った。まるで最初から断られることは分かっていたようだ。
αは紅茶を置く動作を目で追いながらも、体は動かすことなく木にもたれかかったままだ。
「ところで・・・そなたこそ何をしておる。」
αはしばらく黙った後、静かに言った
「主に去れと命じられた」
「ほう・・・。あの者がの・・・。先ほど妾も会った。随分元気そうであった。」
それをきき、αはぽつりとこう言った
「我に頼ってくれぬ」
ミレニアムは少しαに目を向けた。
だが、そんなαにミレニアムは冗談なのか、本気なのか分からないが言った。
「妾は頼るがな。フフフッ。」
αはそんなミレニアムを見る。そして一言
「馬鹿なことを」
ミレニアムは顔から笑みを消し、目を瞑った。
「信じぬのなら、それも良いか・・・。妾も陽月には頼られぬ。似たようなものだ。」
そして再び紅茶を持ち、口をつけた。
αはそんなミレニアムを見ていたが、似たようなものだ と言われ
少し気が緩んだのか、珍しく自分から話しだした。話すと言っても一言一言だが。
「幼子のときもそうだ」
ミレニアムは目を薄っすらと開け、αを見た。
「主は頼らぬのだ」
ミレニアムは口から紅茶を離すと、また薄っすらと笑った。
「・・・妾は思うときがある。なぜ頼られぬのか、なぜ頼らぬのか、妾のいる意味はなんなのか・・・とな。
だが、考えていても仕方が無い。向こうが頼ってこぬのだからな。だから、今の妾に出来ることをする。
向こうが本当に必要としてくれるときを待つだけだ、とな。
そなたの主も同じではないか?αよ。今はまだそなたに頼る時期ではないということだ。
そなたの主がそなたを頼りたいと思うときまで待てばよい。向こうが来ない限り、こちらは何も出来ぬのだから。」
ミレニアムはそう言うと、αに視線を向け、笑う。
αはその視線に視線を返し、言った。
「ならば待つ。主の恩義に叶う日まで」
ミレニアムはもう何も言わず、静かに目を瞑っていた。
口元は笑っている。
「また暇なときにでも来るがよい。妾は大概ここにおる。」
αは少し頷いた後、場を立ち去るため歩き出した。
そしてミレニアムの横を通るとき、小さい声ながらも確かにこういった。
「お前も暇ならば来い」
「近いうちに様子を見に行こう。フフフッ」
ミレニアムはαが立ち去ったあと静かに紅茶を飲んでいた。
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