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真心文庫
研究員はお父さん♪
アフロディーテ財閥 最下層 改造強化人間育成研究室跡地


樹海の奥の奥の奥にある落ち着いた雰囲気のするお屋敷に、テルミは陽月を案内した。
ここまでの距離を歩いてきたり、ポケモンの力を借りて行くのもかなり時間がかかるため
テルミのアルセウスにふしぎプレートを持たせてエスパータイプにし、テレポートで来たのだ。

じつは、このアフロディーテ財閥の屋敷の中に頂点の間と呼ばれる、所謂カノンの居た間があったり
色々と曰く付きの施設が揃ってこの屋敷に点在しており、テルミもめったなことでは近寄らない場所だった。
ちなみに、研究員たちの寝泊りの階だった場所全てが、今カトリーヌに占領されている状態だ。
薄気味悪い場所だったはずが、今ではカトリーヌの手で・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ここでは書き記せない状態になっている。

ルーチェをボールに戻した陽月は見慣れないものがたくさん置いてある研究室らしき場所を不思議そうに眺めていた。
機械類や実験台、大きなガラスケースやたくさんの薬品など、様々な研究に必要と思われるものが揃っていた。
陽月は無表情ながらも、見慣れた実験道具も多少あるため、かすかに怯えているようにも見えた。
そんな陽月にテルミは優しく微笑んだ。

「大丈夫かい、陽月。・・・正直僕もここにトラウマはあるが、今ここを管理している人は
酷い目的で実験などをするわけじゃないから安心したまえ」

「・・・・私は問題ない。」

陽月は心配して優しく微笑んでくれたテルミに同じように微笑み返した。
テルミはその表情を見て安心したようで、陽月の手を引いて巨大な機器を左折した。

その先に一人の白衣を着た男性が立っている。

男性は、物音でテルミ達がきたことに気づいたらしく、顔をこちらに向けた。優しそうな人物だ。

「テルミ、来たのか。体調はどうだ?」

テルミはそれを聞いて微笑んだ。陽月に見せる微笑みとも、他の人物に見せるのとも違う微笑みで。

「左目と味覚以外は回復しました。αや美鈴たちが助けてくれたので・・・」

「そうか、よかったな」

男性もテルミに優しい微笑みを見せた。
陽月は頭に疑問符を浮かべて2人を見ている。
そんな陽月を見た男性は、白衣を脱ぎ笑顔のまま距離を縮めた。

「こんにちは。えっと、誰かな?」

陽月は質問されて少し目を見開いたが、答えた。

「・・・白夜陽月・・・。」

「陽月・・・、あ、テルミ!もしかしてこの子か?」

それを聞いたテルミは少し顔を赤らめながらもコクンと頷いた。

「はい、この娘が陽月です。」

「そうか、君が陽月さんか!そうか!」

陽月は突然の男性の反応にさらに疑問符を浮かべて、不思議そうに首を傾げている。
テルミは、そんな陽月の反応を見て男性を紹介した。

もちろんその内容は陽月の予想の範疇を超えたものだったが


「陽月、紹介する。この人は僕の育ての親であり、父親の長門さんだ。」


陽月はそれを聞いたとたん、驚きで目を見開いた。
そしてマジマジと男性を見た。

 長門

陽月もその名前を知っている。
だが、なぜ今ここにいるのか、理解できないでいた。

「・・・・・テルミの・・・父・・・親・・・?」

「ああ、正真正銘僕とテルミは血の繋がった親子だよ」

「なぜ・・・テルミ・・・何があったのか教えてほしい・・・私たちが去ったあと、ここで何があったのか・・・」

陽月は動揺を隠せずにいる。
そんな陽月に、テルミは語り始めた。


義母カノン・アフロディーテに利用され、α除いた生徒会メンバー全員が彼女の手ごまとなったこと。

そして操られた生徒会と、全校生徒が炎精組を狙ったこと。

カノンの要求を呑み、精神が死に、カノンの完全なる人形となったこと。

炎精組と生徒会の決闘。

最終決戦でみちるが勝ち、テルミも生き返ったこと。

完璧でなくなったテルミを処分しようとしたカノンのこと。

テルミや他の試作品たちが造られた本当の事実のこと。

みちる、瀬南の父親のこと。

カノンの本当の野望のこと。

死んだと思われていた長門が生きていたこと。

そして亡くなったカノンのこと。

そしてみちるたちが『地球』に帰り、戻ってきてくれたこと。

長門の長年の研究により、人間として生まれることが出来たこと。

人間となったことによる五感を一時的に失うという副作用のこと。


それらのことを、一部長門に説明を任せたりしてテルミはすべて陽月に伝えた。
陽月は最初驚くことしか出来なかったが、説明を聞いているうちに不思議と驚きもなくなっていき、何も言うことなく全てをただ黙って聴いていた。
2人が話し終わると陽月は少し目を瞑り、また少ししてから目を開けた。

「・・・・そうか。」

陽月はたったこの一言言っただけで口を閉ざした。
テルミも、むやみに色々訊かれるよりは気が楽だったようで、ただ、静かに頷いた。

「そういうわけで、僕は今は能力も使えない人間だ。
まあ、血のお陰でポケモンとの意思疎通が出来たり、並の人間よりは体力はあるが
それ以外は本当に普通の人間だ。・・・ようやく僕の一番の望みが叶えられた。

陽月。君がいてくれたからその望みを捨てずに前に進めた。ありがとう。」

陽月は黙って首を横に振った。

「・・・それが出来たのは、君の意志だ。私ではない。君が諦めずにいたから・・・ただ・・・それだけのことだ。」

陽月はそう言うとほんの少し微笑んだ。
そして恐る恐る、テルミにそっと抱きついた。

「・・・おめでとう・・・テルミ・・・」

「・・・陽月・・・・ありがとう」

テルミもそんな陽月を優しく抱きしめ返した。

長門はそんな若い二人を微笑ましそうに見ている。

テルミはその視線に気づき、さらに顔を赤くする。

「っ・・・!父さんっ!!///」

「あはは、テルミの意外な面を見れたよ」

「なんでそんなに嬉しそうにっ・・・!」

「息子が未来の娘と仲睦まじくしてたら父親としては嬉しいものだぞ」

その発言にテルミの顔は火照り、言葉を失う。
陽月もその言葉に顔を赤くさせ、顔を隠すようにテルミの胸に顔をうずめた。

「ーッ・・・・///」

「はははははっ」



しばらく研究所には長門の楽しそうな笑い声が響いていた。

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