[携帯モード] [URL送信]

真心文庫
おかえり
真っ白な宮殿の中に入った3人。
穢れ1つついていない、眩しい宮殿の中に入ったとたん、陽月は少しだけ目を細めた。
だが構わず2人走り続ける。
ルーチェは陽月の肩にしがみついて、振り落とされないようにしていた。

像をよけ、

階段を駆け上がり、

長い回廊にたどり着く。

そして、再び出会った。

陽月は目の前にいた人物を確認するのに少し時間がかかった。
だが、すぐに誰なのか、分かった。

金の長髪、白い肌、すらりとした完璧な体型。
その人物も陽月に気がつくとニコリと微笑んだ。
だが、普段と違うのは その整った顔だちの中、左の瞳に包帯がかかっているところ
そしてそんな彼の横にいる闇と称される仮面とマントを羽織った存在に身体を支えられていること。

その人物 テルミ・アフロディーテは走ってくる陽月に向かって腕を広げた。
陽月は勢いのまま広げられたテルミの腕の中に飛び込んだ。
そんな陽月に優しい優しい、とても嬉しそうな声でテルミは言った。

「廊下は走ってはいけないよ。陽月?ふふふっ」

陽月は驚き目を見開く。
そして恐る恐る顔を上げた。
4ヶ月ぶりに感じたその温もりはとても心地よかった。

「テルミ・・・?」

「他に誰がいるというんだい?」

陽月は目を見開いたまま、テルミの左目の包帯に気づいた。
そしてそっとその目を触れる。

「・・・・怪我でもしたのか?」

それを聞いたテルミはふっと目を細めた。どこか悲しげな顔で。

「・・・見えないんだ」

陽月はその答えにさらに目を見開いた。
だが、あえて訊くことはせずに一言。

「・・・そうか。」

その声は少し寂しそうだったが、すぐに小さく微笑んだ。

そんな彼女を愛しそうに見つめながらテルミは陽月の頬にそっと口づけをした。
陽月は驚き、目を見開き、顔を赤くさせる。
そんな姿を見たテルミはクスリと笑った後、この4ヵ月間ずっと言いたかった言葉を陽月の耳に届けた。


「おかえり」

陽月はその言葉にさらに目を見開きながらも、笑顔を見せた。

「ただいま」

そんないい雰囲気の2人の間にはさまれていたルーチェが、陽月をテルミから遠ざけた。
そしてテルミに頬を膨らまし、ルーチェは陽月に抱きついている。
そんなルーチェにテルミは笑いかける。

「ひさしぶりなのだから大目に見てはくれないか?ふふっ」

ルーチェはそれにそっぽを向く。

一方、ほったらかしになっていた絆は一連の動きを爽に見せないよう、目隠ししていた。
そしてルーチェが遠ざけてくれたのを確認して、爽の目隠しをはずす。

「・・・今、何で目隠し?」

「まあ、そこは気にしないの。」

絆はそう言うと、改めて爽と一緒にテルミの元に向かった。
そして絆は微笑んだ。

「お久しぶりです、会長さん。」

「ひさしぶり、絆。元気だったかい?」

「はい!元気にしてましたよ。あ、あとで渡すものもあるのであとでいいですか?」

「かまわないよ。・・・それで、隣は?」

テルミは初めて見る少年のほうを見る。
少年は、今にも寝てしまいそうな勢いだ。

「あ、こっちは醐大 爽くん。あたしのふるさとで一緒だった子で、幼馴染なんです。」

絆は微笑みながら爽が寝ないように肩を揺らしている。
爽は改めて頭を振り、寝ないように頑張り、会長に爽やかに笑いかけた。

「あ、俺、醐大 爽です・・・はじめましt・・・・」

そこで爽は倒れた。
テルミは挨拶の途中にもかかわらず倒れた爽の姿に少し驚いた。

「・・・彼、どうしたんだい」

絆は慌てて倒れた爽を起こし、爽の耳元で大声で言った。

「起きろー!」

爽は突然の大声に驚き、すぐに立ち上がった。
そして眠そうにあくびをする。
少々苦笑いだ。

「さーせん・・・俺、居眠り体質なもんで・・・;」

爽は自ら説明した。

「まあ、体質なら仕方ない。申し遅れたが、我が名はテルミ・アフロディーテ。
この聖獣学園の生徒会長を務めている。よろしく。」

「へーあんたが絆たちが話してた・・・。よろしく。」

「ああ、よろしく。あ、伝え忘れたが実は教育方針ががらりと変わってね、
新入園生には入園試験を執り行わなくてはならないんだ。
以前に仮入学していた陽月と絆は構わないが、爽。君は受けなくてはね。」

「入試かー・・・苦手なやつきたな・・・まあ、いいや。さっさと終わらせて、寝かせてくれ・・・」

爽は本当に眠たそうにあくびをする。
余程眠りたいのだろう。

テルミは少し苦笑し、絆のほうを見る。そして言う。

「絆。入園試験は炎精で行ってもらう。彼を案内してもらってもいいかい?」

「はい、分かりました。爽くん、いいかな?」

「あー行こう・・・。とりあえず、ポケモンバトル・・・なのか?入試って」

テルミはその問いに微笑みながら答える。

「もちろん。でないと面白みが無いからね ふふふっ」

「そりゃ好都合だな。あいつより厄介なことはないか・・・あの白夜のいいn」

爽が笑いながら何かを言おうとしたところで、絆が動いた。
次の瞬間、爽の腹に激痛。

「ぐはっ・・・!」

爽は痛そうに腹を抑えてうずくまる。
絆は微笑みながら、爽に言った。

「そーうーくーんー?黙ろうか。ね?」

絆は微笑んでいるが殺意がある。
爽は黙って何度も頷いた。

そんな二人のやり取りを不思議そうに見るテルミ。
そして小声で尋ねる。

「彼女達はいつもこういう感じなのかい?・・・僕の知る絆にしては少々雰囲気が違うようだが」

陽月は少しの間、爽を哀れな感じで見ていたが、すぐに少し笑って、テルミの言葉に答えた。

「あれが・・・絆なのだ。」

「・・・そうか。」

納得はしていないが、男の前だと態度が変わるのだろうと考えあえてそれ以上は聞かないでおいた。

爽は起き上がり、顔を上げた。
さっきとは別人と思えるほど今は眠気の去った顔をして、楽しそうに笑っていた。

「んじゃ、絆。案内頼む。」

絆は微笑み、爽を案内する。

「こっちだよ。じゃあ、会長さん、αさん、またあとで。」

絆は爽を連れて歩き出した。
陽月もそれについていこうとする。
だが、テルミの声に呼び止められる。

「陽月!」

陽月は立ち止まり、テルミを振り返った。
絆はその様子を察して、先に2人で炎精組へと向かった。

「・・・?」

「話をしたいんだが、時間をもらってもいいだろうか」

陽月は頭に疑問符しか浮かばなかったが、テルミの目のことを思い出し、黙って頷いた。
テルミはにこりと笑うと、αに言った。

「そういうわけだ、α。席をはずしてはくれないか」

普段ならば一歩下がって一礼してから下がるαだが、今日は動かない。
なぜなら、こう話している間にもテルミの体重のほとんどはαにかかっている。
テルミの体のことを考えると、さすがのαも素直に指示には従えないのだ。

そんな彼の気持ちを感じたテルミは、微笑みながらそっとαの体から離れた。

「大丈夫だ。心配しないでくれ。」

少しふらつく主人の足元に不快感を覚えながらもαは一言「御意」とだけいい、二人の前から立ち去った。

陽月は一応、テルミを支えるように隣に立った。

「・・・αがいないなら、私が支える。」

「感謝する。・・・本当に僕は、いろいろな人に迷惑かけてばかりだ」

「誰もが人に迷惑をかけていかなければ生きられないのだから、仕方ない。君は、人を頼ろうとしないのだから、誰も迷惑とは思わない。」

陽月は無表情ながらもそう言った。
テルミはその言葉を聞き、自分自身に嘲笑する。

「いや、でもきっと迷惑だろう。目も耳も鼻も思うように働かず、せっかく人が作ってくれたものに味も感じれずに
隣で話し相手になってくれた存在の体温すら感じられなかった。何も出来ないなど・・・幼子以下だ」

陽月はそんなテルミを無表情に見ている。

「・・・あとで全ての経緯を聞こう。私と絆が去った後、何があったのか・・・。」

「ああ。僕もききたいことが山ほどある。・・・ここではなんだから
他の場所に行かないか?君にぜひ会わせたい人がいるんだ」

陽月はそれに微笑み、頷いた。


その微笑みを確認したテルミは、優しく陽月の手を引いた。


[back][next]

4/130ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!