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真心文庫
影音団の目的
午後の日差しが強くなった頃。
巫女、月光、バシャーモは森を抜けて、街へ入ろうとしていた。

「熱いな・・・」

月光はつぶやいた。
辺りがサウナのように熱くなるほど日差しで体力も消耗され、今は水も持っていない。

「本当ね・・・もうすぐ街だから心配はないと思うけど・・・。」

巫女もさすがにこの暑さには参った。
雄一この暑い中平気でいるのがバシャーモだった。
バシャーモは熱い(暑い)ものには強いのである。

「そうか?」

「お前は暑くないのか?」

「特に何も感じないが?」

「暑さに強いのね。羽毛で暑そうなのに・・・」

「炎タイプはだいたい熱いものは平気だ。そのせいだろ・・・。」

月光は結構不機嫌そうだった。
暑くてイライラしているのだろう。

「機嫌が悪そうね。」

「暑いからな・・・・」

「暑いと機嫌が悪くなるものなのか?」

「イライラするからかしら。」

バシャーモは少し不思議そうな顔をしていた。

街まであと少し。
その時巫女は石に躓き、転びそうになった。
それに月光が気がつき、巫女を支える。

「ありがとう。」

巫女は微笑む。
バシャーモはなぜか違う意味であつくなった。
巫女たちは再び歩き出しす。
街に着き、巫女は一度バシャーモをモンスターボールに入れた。

「どこかで水分を補給しよう。」

月光の提案で2人は街を歩き、水がありそうな場所を探した。
そこで巫女は色々な形や大きさのあるボトルを売っているお店を見つけた。

「あのボトル、ちょっといいかしら?」

「ん?別に構わないが、何に使うんだ?」

「ちょっとね。」

巫女はお店に入り、丁度いい大きさと形のボトルを2本選ぶ。
それを店員に渡して値段を聞いた。

「全部で1000円になります。」

「はい・・・・あれ?」

巫女は自分の財布を捜した。
だが、見つからない。

「どうした?」

「財布・・・・あ。」

「見つけたのか?」

「私・・・ここのお金持ってない・・・。」

「は?・・・ああ、そうか。違うところから来たから持ってるわけないな。」

月光は納得して自分の財布を取り出し、1000円払った。
店を出て、巫女は月光に頭を下げた。

「ごめんなさい。」

「別に構わない。」

「ここのお金、見せてくれる?」

月光は紙幣1枚を巫女に見せた。
そこにはやはり、ポケモンの絵が描かれていた。

「やっぱり・・・・」

「どうする?」

「しばらくここに留まらないといけないでしょうね。稼がないと・・・」

2人は仕事探しの前に水飲み場を探した。
そして、広場に出て水飲みスポットを発見。
2人は水を飲み、巫女がさきほど買ったボトルに水を入れ始めた。

「そのために買ったのか。」

「うん。これでしばらくはもつと思う。」

2人はしばらく広場のベンチに腰掛けていた。
よく見ると辺りにはたくさんポケモンを連れて遊んだりする人たちがいる。
子供から老人までみんなポケモンと心を通わせて一緒に過ごしていた。

「みんなポケモンが好きなのね。」

「ああ。ポケモンは相棒であり、友達であり、仲間であり、家族でもある。
それほどここではポケモンが当たり前でこいつらがいない生活は考えられないんだ。」

「でも・・・ポケモンたちはどう思ってるのかしら?裏切られるときがいつ来るかわからない・・・それでも仲間と言い切ってくれるのかしら?」

巫女はとても悲しそうな目をしていた。
まるで自分がそうであったかのように。
月光はポケモンたちを悲しそうに見守る巫女が弱々しくて頼りなく見えた。
そんな巫女の頭を月光は優しく撫でた。

「な、何?」

「自分が裏切られたことあるような言い方だな。」

「・・・・・・・。」

巫女は思い出していた。
友達と仲間だと思っていたが約束が出来なかっただけで突然突き放された。
巫女はその日から少しずつだか変わっていった。
学校ではただがむしゃらに動いて家ではなるべく明るくして自分は孤独ではないと思おうとした。
だが、きっと疲れていたのだ。

だから今、この世界に来て本当の自分を出しているのかもしれない。
今ではどちらが本当の自分なのか分からなくなっているが・・・。

巫女は急に寂しい感じがした。
そんな気持ちを察したのか月光がある提案をしてきた。

「これからポケモンコンテストでも見に行くか?」

「ポケモンコンテスト?」

「ああ。ポケモンコンテストにはそれぞれ分野があってな。美しさ、かわいさ、強さ、かっこよさ、かしこさ、たくましさの6つある。
6つのうちどれか1つに出場できるんだ。例えばかしこさのコンテストに出たかったら自分の持っているポケモンの中で一番かしこいと思うポケモンを出す。
そして出題されることをクリア出来たらポイントがもらえる。ポイントが高いポケモンの勝ちってことになる。」

「ポケモンは1人で何匹でも出していいの?」

「いや、原則としてトレーナ1人が出せるポケモンは1匹だ。コンテストに出れる人数も限られている。」

「おもしろそうね。見てみたいわ。」

「行くか。」

2人はコンテスト会場となる大きいホールに向かった。
観客はすでにたくさん入っていた。

「人いっぱいね。」

「コンテストで賭け事をする人間もいるからな。」

「ひどい話ね・・・」

「そうだな。」

数分ほどして開始のアナウンスが流れた。

「ただ今より、強さコンテストを始めたいと思います!出場者の方々はこちら!」

ステージには5人の人間が立っていた。
1人は帽子をかぶったまだ小さな少年。
その隣にはトカゲのような恐竜の子供のような尻尾に結構大きい火をつけたポケモンがいた。

2人目は活発的な印象のある女の子で隣にはピンク色の丸いが猫のようなポケモンがいた。

3人目は一目見て力持ちと分かるような筋肉男でとなりには同じように筋肉の発達した腕が4つあるポケモンがいた。

4人目は至って普通の青年で隣にはワニがかなり大きくなって怪獣のよう凶暴そうなに青いポケモンがいた。

5人目はいかにも面倒くさそうなおじさんで隣には同じように面倒くさそうにするゴリラのようなポケモンがいた。

「みんなそれぞれ違うポケモンなのね。」

「個性があっていいんじゃないか?」

「そうかもね。」

次に出場者とポケモンの紹介がされた。
帽子の少年は健太。隣にいるのはリザードというポケモンで名前はレッド。

女の子の名前は由美。隣にいるのはプリンというポケモンで名前はクリン。

筋肉男の名前は大。隣にいるのはカイリキーというポケモンで名前はオニ。

青年の名前は快人。隣にいるのはオーダイルというポケモンで名前はそのまま。

最後のおじさんの名前は一郎。隣にいるのはケッキングというポケモンで名前はジロウ。

こうして紹介も終わり、コンテストが始まった。
最初の試験はとても大きな(大人が6人でやっと持ち上げた)岩を1メートルのところまで運ぶというやつだった。

まずはレッド。
何とか持ち上げて1メートルほどさきのゴールに運ぶことが出来た。
次にクリン。
クリンは岩の下にもぐりこみ、自分の体を膨らませる。
岩は持ち上がり、クリンは頑張って岩をゴールまで運ぶ。
次にオニ。
オニは軽々と岩を持ち上げ、ゴールまで難なく運ぶ。
次はオーダイル。
オーダイルは岩を持ち上げ、さらに軽く空中へ投げ、また軽々と持ち上げる。
そしてゴールまで軽い足取りで岩を運んだ。
最後にジロウ。
ジロウは主人と同じく面倒くさそうにその場に寝転がっていたが、一郎がバナナを岩の上に置くとジロウは急に起き出して岩をゴールまで迷いもなく運び、バナナを頬張ってまた寝転がった。

それぞれポイントは10点満点中レッドに8点、クリンに6点、オニに9点、オーダイルに10点、ジロウに9点だった。

次の試験はとても丈夫でとても熱い棒にどれくらい掴まってぶら下がっていられるか。
これは5匹全員でいっせいにやった。

熱すぎて最初に落ちたのはオーダイルだった。
オーダイルには5点。
次に面倒くさくなって自分から手を離したのがジロウ。
ジロウには7点だった。
熱くて耐えられなくなりクリンが落ちた。
クリンには8点。
残ったのはレッドとオニ。
オニには限界がきていた。
レッドは平気そうだ。
そして手を離したのはオニだった。
オニには9点。

最後に残ったレッドには10点与えられた。
今の結果、レッドは18、クリンは14、オニは18、オーダイルは15、ジロウは16点。
レッドとオニが1位、ジロウが2位、オーダイルが3位、クリンが最下位となっている。

次の試験はとても堅い岩をどんな技を使ってでも壊すことだった。

最初はレッド。
レッドはアイアンテール(尻尾を使う比較的強い技)を使って岩を砕いた。
だが、岩は砕けたが少しだけだった。
7点。
次にクリン。
クリンは往復ビンタ(普通の技だがクリンが使うとかなり強い)を使って岩を砕いた。
だが岩を少し砕くことが出来たがクリンの手は少し腫れて痛そうだ。
7点。
オニは気合パンチ(結構強い技)で岩を砕いた。
岩は半分ほど砕けた。
9点。
オーダイルはギガインパクト(強い技)で岩を砕いた。
岩は簡単に半分砕けた。
10点。
最後にジロウが面倒そうに捨て身タックルで岩を砕いた。
岩は結構砕けた。
8点。

レッド25点。
クリン21点。
オニ27点。
オーダイル25点。
ジロウ24点。
1位はオニ。
最後の試験は観客の投票で決まる。
観客が自分の気に入ったポケモンに票に入れるのだ。

今回は月光と巫女は投票に参加しない。
数分後、結果が出た。
投票の数がそのまま点となる。
参加した観客は100人。

レッドに25票。
クリンに10票。
オニに15票。
オーダイルに30票。
ジロウに20票。

ということで優勝は55ポイントのオーダイルとなった。
観客からたくさんの拍手が快人とオーダイルに贈られる。
そして審査委員長からトロフィーと賞金10万円が贈られた。

「優勝おめでとうございます。」

審査委員長から言葉でコンテストは閉じられた。
そしてアナウンスでは明日はかっこよさのコンテストをするので是非参加してください、というのが流れた。

月光と巫女はホールを出て広場を歩いていた。
そして巫女は月光にある提案をした。

「明日のコンテスト、私も出るわ。」

「は?」

「私もバシャーモでコンテストに出るの。」

「あのな・・・」

「優勝すれば賞金がもらえるからここに長く留まることもないからいいと思うのだけど?」

「それはそうかもしれないが・・・そう簡単に優勝なんて無理に決まってるだろ?」

「そうかもしれない・・・でも、それで諦めたくないの。ここに留まるわけにもいかないの・・・。」

「んー・・・・なら、俺も出る。」

「え?」

「2人で出ればどちらかが勝っても賞金が手に入る。真剣勝負をすればルール違反にもならない。」

「いいの?」

「ああ。お前1人じゃ安心出来ない。」

「・・・ありがとう。」

巫女は月光に微笑みかける。
月光は照れてそっぽを向いている。

「決まりね。じゃあ、バシャーモに伝えないとね。」

巫女はモンスターボールを取り出し、空中へ投げる。

「バシャーモ」

ボールが開き、中から赤い光が出てバシャーモが現れた。
バシャーモは若干不機嫌そうに腕を組んで立っていた。

「何だ?」

「明日、ポケモンコンテストがあるのだけど、一緒に出てくれない?」

「何で俺が・・・」

「私にはあなたしかいないの。お願い。これで優勝できればこの街から出られるから。ね?バシャーモ。」

巫女はバシャーモを見上げて微笑む。
バシャーモはその微笑を見て断る言葉が見つからない。
何よりも巫女の微笑む顔がかわいくて直視出来ない。
バシャーモは断れなくなり、仕方なさそうにつぶやいた。

「出ればいいのだろ・・・」

「ありがとう。」

月光は不思議そうにバシャーモを見た。
バシャーモはその視線に気がつき、そっぽを向く。

「月光は誰を出すの?」

巫女の言葉で月光は思い出したようにモンスターボールを取り出し、空中へ投げ、ボールが開き、赤い光とともにグラエナが出て来た。

「グラエナを出そうと思ってる。」

いきなり出されて何を言われているのかよく分からないでいるグラエナに月光が頼んだ。

「明日、ポケモンコンテストに出る。やってくれるか?」

「構わない。」

グラエナはあっさりと承諾した。
そしてグラエナがバシャーモに気づくとバシャーモに近づいた。

「俺はグラエナ。」

「バシャーモだ。」

「お前、なぜここにいる?」

「バシャーモが私たちと旅をすることになったの。」

巫女が代わりに答える。
グラエナは巫女を見つけると巫女に近づいた。
近くで見るとグラエナは立てばバシャーモや月光と同じくらいの大きさになるほど大きかった。

「この前は大事な食料をすまないな。」

「構わないわ。私はあまり食べないほうだから。」

「俺たちポケモンはちゃんとしたポケモン用の食料がある。だが、お前の数少ない大切なものをもらってしまった。心から礼を言う。」

「あの時は命を助けてもらったから、大したことはないわ。だから、気にしないで。」

巫女はグラエナに笑顔を向ける。
グラエナは心の中で温かいものを感じた。
だがそれはバシャーモや月光が感じた温かいものとは少し違うものだった。
それはきっと、月光以外に信じられる人間がいると感じた温かさだ。
巫女にはポケモンの心やポケモンの傷を癒す不思議な力があるのかもしれない。

そんな彼らの様子を影から観察するものたちがいた。
あの男2人組みだ。
男たちは巫女を観察している。

「のんきなもんだなあ」

「まあ、そのほうが俺たちにとっては色々やりやすいこともあるだろ。」

「そうだな・・・ボスもあの映像と俺たちの説明で捕まえて来いって言うぐらいだからきっとあのお嬢ちゃんにはスゲェー力があるんだろうな。」

「ボスはあの少女には特別な力があると思っていらっしゃる。それにあいつも『気をつけたほうがいい』って、言うしな。」

「まあ、それがどんな意味かは分からんがな。」

「明日、俺たちもコンテストに出るか。あの嬢ちゃん
捕まえるには舞台の上がいいだろうしな。」

男たちは巫女たちの会話を盗み聞きしてコンテストに出る計画を練った。

巫女たちはそれを知らずに明日のためにコンテスト出場の受付をした。
幸い、コンテストにはまだ3人入れて、巫女と月光、あと1人が入れる。
こうして2人は明日のコンテスト楽しみにしながら街で1日を過ごした。


翌日。

受付で参加者であることを伝え、巫女と月光は控え室へ入った。
今、控え室にいるのは昨日と同じ少年、健太とリザードのレッド。
爽やかだがどこか気に食わないお坊ちゃまと大きなツバメのようなポケモン、オオスバメ。
巫女とバシャーモ。
月光とグラエナだった。
受付では5人と聞いている。
あと1人来ていない。

巫女と月光は空いている席を探した。
だが、ほとんど坊ちゃまとオオスバメが席を占領している。
困っていたところへ健太が声をかけた。

「ねえ、お姉ちゃんたち、席、こっち空いてるから座りなよ。」

健太は笑顔で自分の隣の席を指差した。
そこには2つ席があった。

「ありがとう。」

巫女と月光は健太と並んで座った。
健太の隣にはレッドも一緒に座っている。

「えっと、健太くんよね。」

「おれの名前知ってんの?」

「昨日、コンテストで見たわ。そこのレッドと一緒に。かっこよかったわよ。」

「えへへ、照れるな。でも、あと少しで勝てたのになぁ。」

「どうしてコンテストに?」

「おれ、こいつと一緒に色々と自分の力試したいんだ。だから、コンテストに出てる。」

健太は恥ずかしそうにだが誇らしげに言う。

「お姉ちゃんたちはコンテスト初めて?」

「ええ。」

「そうだな。」

「へー。」
健太は興味を持ったように巫女と月光を見つめる。

「あ、そうだ。コンテストで勝ちたいなら技選びも気をつけたほうがいいよ。技によっていい評価になるときと悪い評価になるときがあるから。」

「そうなの?」

巫女は月光に尋ねる。
月光は小さくうなずく。

「分野で使う技によって評価が変わることがある。例えば昨日の強さではそこのレッドが使ったアイアンテールは比較的強い技に入る。
だから岩を少ししか砕けなくても5点以上はもらえたんだ。」

「そうそう。」

健太はうれしそうにうなずく。
隣にいたレッドも同じように「うんうん」と言っている。

その時、あの、席を占領していたお坊ちゃまが文句を言ってきた。

「けっ。ライバルにわざわざ教えるなんてバカだな。だから昨日のコンテストで負けるんだよ。」

お坊ちゃまとオオスバメは笑った。
健太は少し落ち込んでいる。
そんな健太をレッドが肩を叩いて笑顔で大丈夫、と言っている。
巫女と月光も健太を励ます。

「気にしなくていいわ。昨日の健太くん、本当に頑張っていたのだから。」

「ああ言うやつほど表に出たときに何も出来ないんだ。気にするな。」

だが、温室育ちのお坊ちゃまは止める場所を知らない。
調子に乗ったらそのままの勢いで今度は巫女に向かった文句を言う。

「フッ。お節介なやつだな。ぼくは君のような女が大嫌いだよ。ウザすぎてかなわないね。」

その言葉に月光、壁に背中を預けて立っていたバシャーモ、その隣で姿勢よくお座りをしていたグラエナは怒りを覚えた。
巫女は俯いている。

3人(?)がお坊ちゃまに向かおうとしたときくすっ、と笑い声がした。
3人は動きを止める。
巫女が座りながらもお坊ちゃまを見下ろすような視線で言った。

「いいわ、遊んであげる・・・このコンテストであなたが勝ったら私がさっき言ったことは間違えだったことを詫びてあげる。
でも、もし私が勝ったらこの子に謝りなさい。この子の頑張りを認めなさい。」

お坊ちゃまは呆然としている。
オオスバメも呆気にとらわれている。
月光、バシャーモ、グラエナはそのまま話を聞いている。
そしてやっとのことお坊ちゃまは口を開いた。

「い、い、い、いいだろう。う、受けてやる」

巫女は立ち上がり、控え室を出た。
月光とバシャーモは巫女を追いかけようとしたがやめておいた。
その代わりにグラエナが巫女のあとを追った。

巫女は控え室を出て少し歩いたところの壁に背中を預けて丸くなって座っていた。
グラエナは巫女の隣に姿勢よくお座りをした。
巫女は少しして口を開いた。

「私、あの人の言うとおり、お節介なのかもね。」

グラエナは静かに話を聞いている。

「向こうの世界でも私はお節介だったわ。誰かのためにって思ってたことも役に立たなかった。
いつも私は誰かのためにって思ってたけど、もしかしたら自分のためだったのかもしれないわね。」

巫女はグラエナに弱々しく微笑んだ。
グラエナはそんな巫女の手に自分の手(?)を置いた。

「俺はお前がお節介だとは思わないが?それはお前の優しさなのだと思う。
誰かの役に立ちたいと思うのは悪いことではない。俺も月光の役に立ちたいと思うことはある。だから月光についていくのだ。」

グラエナは無表情だった。
だが、巫女はそれが励ましだと思った。
そしてさっきの弱々しい微笑みからいつものような優しい微笑みでグラエナの頭を撫でた。

「ありがとう。」

グラエナはしばらく抵抗するようにそのままの姿勢を保っていたが巫女に微笑みながら優しく撫でられ続け、頭を下にして力を抜いて巫女の肩に頭をおいた。
巫女は微笑みながらグラエナの頭を撫でる。

それを影から黒いローブを着た怪しい男が眺めていたとは知らずに。
そして男は無線機のようなものでどこかへ連絡を入れた。

「もうすぐ始まる。準備しておけ。」

男は無線を切った。
係りの人に控え室まで準備するように言われ、巫女とグラエナは部屋へ戻った。

いよいよ始まる。
司会者の言葉で巫女たちはステージへ出た。
照明が明るすぎて巫女は一瞬目を細めた。

「参加者の紹介です!まずはこの少年!昨日は惜しくも優勝を逃してしまいました、健太!そして相棒はリザードのレッドです!」

スポットライトを当てられた健太は大勢の観客から声援と拍手が贈られる。
どうやら紹介される度に一人一人ライトが当てられるらしい。

「そしてあの有名デパートの社長ご子息である太郎丸!相棒はオオスバメのリチャード!」

太郎丸は優雅に観客へ手を振る。
そしてさらにはウィンクまで・・・。
観客の中の女性はキャーキャー叫んだりしている。

「お次は謎の男!性別以外はとてもミステリアスな人です!相棒はハッサム!」

黒いローブを着た男にライトが当てられる。
隣には赤い体をしたカマキリのような、ロブスターのようなものが混ざった感じのポケモンがいた。

「さて、お次はこの方!なんとクールでかっこいい色男、月光!相棒はグラエナです!」

観客席から特に女性の声が聞こえた。
それは太郎丸よりもかなり多かった。
そして最後に巫女・・・・。

「次にこの方!な、なんとかなり美しい少女です!まさに美少女と呼ぶに相応しい!巫女!相棒はこれまた近年まれに見るほどかっこいいバシャーモです!」

今度は男性の声が聞こえた。
そしてその美貌に嫉妬した女性たちからはヒソヒソ声が聞こえる。

巫女は人一倍に耳と視力がいい。
そのヒソヒソ声の内容は嫌でも聞き取れてしまう。
嫉妬ゆえに出てくる言葉。
だが、巫女にそんなことが分かるはずがない。
巫女は自分の世界でも同じことを言われた。
その思い出が脳裏を横切り、巫女は何も聞きたくないという思いから耳を塞いだ。
それに気がついたバシャーモと隣にいた月光、グラエナが巫女を見ている。

「おい・・・」

「大丈夫か?」

月光とバシャーモが声をかける。
巫女は我に返り、耳から手を離し、笑顔を作った。

「大丈夫よ・・・」

「それでは始めます!」

司会の言葉でコンテストは始まった。

まず最初に健太のレッド。
ドラゴンクローでかっこよく決める。
ポイントは8点。
次に太郎丸のリチャード。
つばめがえしでかっこつける。
ポイントは9点。
次は謎の男のハッサム。
メタルクローで派手にホールの天井を壊した。
損害があったので5点。
次に月光のグラエナ。
悪の波動で決める。
かっこよかったのでポイントは10点。
いよいよ巫女のバシャーモ。
巫女は今まで見てきて自分が攻撃を指示すれば自分のポケモンを動かせることを知った。
大地の家で読んだ図鑑から技を繰り出すことにした。
ブレイズキック。
きれいに決まり、かっこよかったのでポイントは10点。

第二試験。
これもさきほどと同じ順番で行われる。
今度は10発かなりの勢いと強さで打たれる球から自分のトレーナーを守り通すというものだった。

最初にレッド。
レッドは健太を最初の球5発から簡単に守っていたが途中からバランスを崩し、何とか健太を守りきったものの健太には2発ほど球が当たった。
8点。
リチャード。
リチャードは太郎丸を難なく守り通したが若干太郎丸に球をかすらせてしまった。
9点。
ハッサム。
ハッサムは謎の男を守るのが面倒だったのかアイアンヘッド(アイアンテールの頭版)で球を発射する機械を壊した。
損害が出たので5点。
グラエナ。
グラエナは月光を守り通した。
月光に傷はない。
10点。
バシャーモ。
バシャーモは巫女に傷一つ作らないように発射される球を全て破壊した。
守り通したので10点。

ここまでで結果はレッドが16点、リチャードが18点、グラエナとバシャーモが20点。

第三試験。
それはトラップを制限時間内にクリアするもの。
トラップには3つあり、1つは床から炎が巻き上がるもの、2つ目は階段がランダムに何もない滑りやすい坂道になったりするもの、
3つ目は100メートルほどある岩の上へジャンプだけで着地するものだった。

まずレッド。
炎タイプのレッドは炎の巻き上がる床を難なくクリアした。
階段。
レッドが階段を上ろうとしたらランダムに坂道に変わり、滑って落ちそうになる。
だが何とか上りきった。
最後に100メートルある岩をジャンプで登り、着地する。
レッドは助走をつけてジャンプして落ちそうになったが何とか着地した。
制限時間ギリギリだったので9点。

次にリチャード。
リチャードは空を飛んで全て乗り切った。
だが空を飛んでいただけなので5点。

次にハッサム。
ハッサムは素早く炎をかわし、ランダムに坂道になる階段を走りぬけ、100メートルある岩の壁を2段ジャンプで着地した。
制限時間ギリギリだったので9点。

その次はグラエナ。
グラエナは炎を素早くよけて、階段を軽くジャンプして上りきり、100メートルある壁を今までの勢いのままジャンプで着地した。
時間もまだあったので10点。

最後にバシャーモ。
バシャーモは炎の上を飛び越え、階段が坂道になるところも軽く超え、100メートルある壁は1回ジャンプで跳び、着地した。
言うことなしの10点。

最後は観客の投票。
参加したのは100人の観客。
数分後、投票も終わり、結果発表。
レッドに15票。
リチャードに25票。
ハッサムに10票。
グラエナに24票。
バシャーモに26票。
よって勝者はバシャーモとなった。

太郎丸は罰が悪そうな顔をしている。
健太は残念そうだったがうれしそうに拍手を贈る。
謎の男とハッサムは何もしない。
月光とグラエナは安心したようにため息をついた。
巫女とバシャーモは顔を見合わせた。
巫女は微笑んだ。

「おめでとうございます。賞金と賞状です。」

審査委員長は巫女に賞金と賞状を渡した。
観客からは拍手と歓声が贈られた。
緊張の糸も解けて巫女はお辞儀をする。
そこへ太郎丸がやってきた。

「約束だ。あいつには謝ってやるよ。」

太郎丸は健太のところへ行った。

「さっきは、その・・・悪かったな。」

健太は驚いたような顔をしたがやがて明るい笑顔を太郎丸に向けた。

「別に気にしてないぜ。また今度、コンテストでバトルしような。」

太郎丸は何となく照れくさくなった。
巫女と月光はそんな姿を見て、安心した。

その時。

ホールの上でヘリの音が聞こえ、全員さきほどハッサムが壊したホールの天井を見てみた。
そこにはあの時の男がいた。

「待ちくたびれたぜっ!さっさとしろ!」

謎の男はローブを脱ぎ捨て、ハッサムが開けた穴から垂らされたロープに掴まり、ヘリに乗り込む。
謎の男はなんとあの時の男の1人だった。
男はハッサムに命令する。

「そこの少女を捕まえろ!」

ハッサムは素早く巫女を捕らえ、ヘリに乗る。

バシャーモとグラエナは急いで後を追う。
月光もボーマンダを出し、急いで追いかける。
ヘリに乗せられた巫女はハッサムにロープで手足を縛られ、後部座席へ乗せられた。
男はハッサムをモンスターボールに戻した。

「あなたたちは何?」

巫女は不思議に冷静だった。

「おやおや、お嬢ちゃんは暴れないんだな。」

「暴れれば出してくれるのかしら?」

「フッ。確かに暴れたところで出さねぇな。」

巫女は警戒するように2人の男を睨みつけた。
それをバックミラーで見ていたあのローブを着ていた謎の男のほうが言った。

「そう睨むな。何もしない。俺は霧生(きりゅう)。こいつが大力(だいりき)。」

「よろしくなー」

操縦している、大男はのんきにそう言った。
確かこいつは小さなポケモンを盾にしてバシャーモの動きを止めた男。

「俺たちはきみをボスのところへ連れて行くだけだ。何かされる心配はない。」

霧生はため息混じりにそう言った。

「何が目的?私に何のようなの?」

「俺たちの目的は1つ。この世界を選ばれた人間とポケモンだけの世界にする。そしてきみにはその手伝いをしてもらう。」

「選ばれた人間とポケモン?」

「ああ。この世界はくだらない人間とポケモンで溢れかえっちまった。だから消す必要があんだよ。」

「なぜ私なの?」

「きみには不思議な力がある。どんなポケモンも思うがままに操る。その力を我々は必要なのだ。」

巫女にはよく分からない。
いったい自分にどんな力があるのだろうか?
思うがままとは?

「きみのポケモン・・・バシャーモは人間を嫌っていた。人間が来たと分かれば追い返すような凶暴なポケモンだ。
なのに彼はトレーナーではなかったきみを命を賭けて守った。何も指示されていないのにね。」

霧生はバックミラーで巫女の様子を見ながら答えた。

「あなたたちは何者なの?」

「俺たちはこの世界の王となるお方に仕える人間。」

「影で音を鳴らし、日の当たらない世界の住人・・・」

2人は巫女を振り向いて、笑い、声を揃えて言った。

「「影音団だ。」」

その時、ヘリが何かにぶつかった。
巫女は外を見てみる。
ボーマンダとその上には月光、バシャーモ、グラエナがいた。

「ちっ、ナイトたちの登場か。」

「急げ。」

ヘリはスピードを上げた。
外では月光たちが構えている。

「おい、ボーマンダ!もっと速く出来ないのか!」

月光はボーマンダをせかす。

「うるせぇよ!お前らが重いんだよ!」

ボーマンダはイライラで答えた。
ボーマンダは何とかヘリに追いついた。
そこでバシャーモとグラエナがヘリに飛び移った。
後部座席の窓が割られ、ドアが壊された。
そこにはバシャーモがヘリに掴まって、巫女を縛っているロープを切り、手を伸ばしていた。

「おっと、そうはいかねぇ」

大力はヘリを乱暴に操縦してバシャーモ振り落とそうとする。
だが今度は操縦席の窓が割られ、グラエナがハンドルを壊した。

「やべっ!」

その間にバシャーモは巫女をヘリから出し、後ろにいたボーマンダに飛び移った。
ヘリは墜落していく。
グラエナは間一髪ボーマンダに飛び移るのを成功させた。

ヘリは森へ墜落していき、爆発はしなかったが煙を立てていた。
出るときには中に誰もいなかったので霧生と大力はまだ生きているだろう。
月光はいったん街に戻るようにボーマンダに指示した。
ボーマンダは面倒そうに街へ戻った。

戻ったのはホールの外だった。
健太と太郎丸がホールから走って出て来た。

「お姉ーちゃーん!大丈夫ー!?」

その後ろからレッドとリチャードも出て来た。
健太は巫女たちの前に立ち止まった。

「大丈夫よ。」

「よかった・・・心配したぜ。」

健太は安心したように胸を撫で下ろした。
その後ろで太郎丸とリチャードも安心したようにため息をついた。
そして歩いて去っていこうとした。

「今度・・・勝負しましょうね。」

巫女はその後姿にそう言った。
太郎丸は片手をキザったらしくあげて、去った。

「じゃあな、お姉ちゃん、お兄ちゃん。今度はバトルしような。」

健太とレッドも笑顔でそう言うと去った。

「本当に大丈夫か?」

月光は巫女に聴いた。

「ええ。それより、ありがとう。あなたたちのお陰で助かったわ。」

巫女は全員に微笑んだ。
月光もバシャーモも照れてそっぽを向いている。
グラエナは姿勢よくして目を瞑り、お座りしている。
ボーマンダは眠そうにあくびをした。

「んじゃ、俺は眠いから戻るぜ。またな。」

ボーマンダは自分からモンスターボールに戻った。
バシャーモとグラエナもモンスターボールの中へ戻った。

「これからどうする?」

「旅を続けましょう。その前に数日分の食料を買わないとね。」

「そうだな。」

2人はデパートへ向かい、これから必要になるであろうものを買った。

影音団・・・きっとこれから先も巫女たちの前に現れるだろう。


ところであの2人は・・・

「あー!もう少しだったのによっ!」

「とんだ邪魔が入ったな。」

「ヘリは壊れるしよ・・・怒られるだろうなぁ。」

「まあ、そう気を落とすな。まだ時間はある。」

「・・・・・そうだな。」

と森の中で迷子になり、さ迷っていたのであった。

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あきゅろす。
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