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真心文庫
初めてのポケモン
巫女と月光は村を出て、少し歩いたところにある森の中を歩いていた。
さきほどから何のポケモンとも出会っていない。
そろそろ心配になってきた巫女は前を歩く月光に聞いた。

「何もいないね。」

「ああ。今日はやけに静かだな。」

「いつもなら賑やかなの?」

「賑やかと言うよりももう少しどこかでコソコソ動きまわってるはずなんだ。」

「そう・・・」

2人は歩き続けた。
歩き続けていると森の中で広いところに出た。
そこには小さなポケモンたちが楽しそうに遊んでいた。

「かわいい・・・」

「ここに集まってたのか。」

「この子たちは集まって何してるの?」

「さあな。」

たくさんの小さなポケモンたちが遊びまわっている。
だが、1匹だけ木陰のところで座って眠るポケモンがいた。
あれは・・・・

「あの木陰に座って寝てるのはバシャーモ?」

「ん?ああ、本当だ。」

「疲れてるのかな?」

「結構不機嫌そうだな。」

「ちょっと見てくるわ。」

「お、おい・・・」

月光が止める前に巫女はバシャーモの元に歩み寄った。
そして、バシャーモの眠りの邪魔にならないように隣にしゃがんだ。
バシャーモは不機嫌そうに眠ってる。
巫女はそんなバシャーモを見て微笑んでいる。
月光も巫女の元へ歩み寄る。

「バシャーモは結構危険だぞ?」

月光は小声で警告する。
だが巫女はそれに構わず、自分の着ていたジャケットをバシャーモにかけてやった。

「何やってんだ?」

「寒そうだったから。」

「いや、羽毛が何とかするだろ;」

「それでもかけてあげたいの。」

巫女も木に寄りかかり、うずくまった。
月光もその隣に座った。

「少し休みましょう。眠くなってきた・・・わ・・・。」

巫女はそう言って眠ってしまった。
きっとあまりゆっくりすることもなく歩き回ったり、話を聞いたりして疲れたのだろう。
月光はそんな巫女を見て休ませてやろうと思った。
そして、自分も巫女と同じように眠ってしまった。

他の小さなポケモンたちは不思議そうに巫女と月光を見ていた。
ポケモンたちはヒソヒソと話し始める。

「人だよ。」

「人だね。」

「いい人たちだね。」

「うん。」

「バシャーモのこと怖くないんだね。」

「バシャーモよかったね。」

「よかったね。」

そのヒソヒソ声もやがてなくなり、小さなポケモンたちは寝ている巫女たちを起こさないように少し遠くのほうで遊び始めた。

やがて、バシャーモは目を覚ました。
そして、自分の上にかかっているジャケットを見て少し険しい顔になった。
だが、すぐにその顔も驚いたものに変わった。
自分の近くで寝ている人間2人を見つけたからだ。
1人は少年、もう1人は美しい少女だった。
バシャーモは立ち上がり、ジャケットを少女のほうにかけた。
匂いでどちらのものか分かったのだ。
バシャーモは小声で巫女に向かって言った。

「礼を言う・・・・・」

バシャーモは少し不思議な気持ちになった。
今まで自分を見た人間は警戒しながら何があってもいいように気構えしていた。
そんな人間たちしかいないと思ったのだ。
だが、この2人は違う。
特にこの少女は警戒するどころか自分のものを上にかけてくれた。
いったい、何者なのだ?

そんなことを思っていると巫女は目を覚まし、自分の目の前に立つ、月光と同じくらいの大きさのバシャーモがいることに気がついた。
巫女はバシャーモに微笑んだ。
バシャーモはその微笑を見て、何か特別な温かい気持ちを感じた。

「こんにちわ。」

はじめて聞く大人っぽい声にバシャーモは驚きを感じる。

「お前は?」

「私は巫女。」

そう言うと次に月光が起きだした。
月光は少し座ったまま背伸びをすると起きているバシャーモを見つけて何かを感じた。
バシャーモも月光から何かを感じた。
ピリピリした空気が漂う。

「月光も寝てたの?」

「ああ。俺も少し休んでいた。」

「お前、名前は?」

「俺は月光。こいつと旅をし始めたばかりだ。」

「旅だと?」

「ああ。」

少しにらみ合う。
だが、すぐにバシャーモが踵を返し、歩いていく。

「あまり機嫌は良さそうにないわね。」

「何か知らないがあのバシャーモには慣れない。」

後姿を見送り、2人はそんなことを話していた。
その時、他の木の陰で怪しい男2人組みがバシャーモを観察していた。

「けっ。何であいつなんだよ?」

「あいつは能力、力、すばやさ、どれを取っても優れているポケモンだ。あいつの力は我々影音団に必要になる。」

「だがよ、あいつかなり凶暴らしじゃねぇか?俺たちのポケモンじゃあ、話しにならない。」

「心配するな。ポケモンがダメなら他を使えばいい。トラップでも何でもな。」

片方の男はもうすでに策は練っていると言わんばかりに笑っている。
その隣の男も笑っていた。

「んじゃ、行くぞ。」

男2人は何やら行動を開始した。
バシャーモは歩きながら先ほどの2人のことを考えていた。

「(何なんだあの男は・・・何か気に食わない。俺と同じ空気を漂わせた・・・。
だが、一番分からないのはあの巫女という少女・・・同じ人間なのにあいつだけは何かが違う・・・それにこの温かいものはなんだ?)」

バシャーモは自分の胸に手を当てた。
何かとても安らいだような温かさがあった。
そんなことを思っているとふいに足を何かに捕らわれ、引っ張られ、逆さに吊り下がる形になった。
木の後ろから紺色の服を着た男2人組みが出て来た。

「お、捕まった捕まった。」

「あっけないな。」

「いったい何のつもりだ?」

バシャーモは冷静に男2人に問う。

「冷静だな。」

「悪いがお前には俺たちと来てもらう。」

「誰が行くか。」

バシャーモは火炎放射で足を捕らえたロープを燃やした。
だが、ロープは焼けない。

「それは炎タイプの技が効かないように作られてる。抵抗はやめな。」

「炎の技か・・・ならこれで十分だ。」

バシャーモは爪を使ってロープを切った。
ロープは簡単に切れてしまい、自由を得たバシャーモはすばやい動きで出来るだけ遠くへ向かった。

「これ炎の技しか効果ねぇのかよ;」

「すっかり忘れてたんだ、しかたねぇだろ。」

「どうすんだよ?」

「強行手段と行くか。他の雑魚ポケモンでも使っていやでもこっちに来るように仕向ければいい。」

「それもそうだな。」

2人は大きな網を持って、次々と小さなポケモンたちを捕まえる。
その網の中には何十匹というポケモンが入った。

その頃を巫女と月光はまた歩き始めた。
だが歩き始めて数分、2人はまた何か違うような気がした。

「さっきまでの小さなポケモンたちはどうしたの?」

「分からない。だが何かがおかしい。」

「何だか胸騒ぎがするわ・・・。」

巫女はなぜかバシャーモが心配になった。
何かあったのではないか?

バシャーモはその頃、なるべく遠いところへ行こうとしていた。
そして、出たところは湖だった。
その時、ヘリが飛んでいるような音を聞き、バシャーモは立ち止まり、上を見上げた。
そこにはさっきの2人組みの乗ったヘリとそのヘリの下にぶら下げられている小さなポケモンたちがいた。

「俺たちに大人しく捕まればこいつらは逃がしてやってもいいぞ?」

「どうする?このまま逃げるか?」

バシャーモは恨むような威嚇を向けた。
バシャーモは火炎放射をしようとしたが男の1人が1匹の小さなポケモンを盾に使った。
バシャーモはそのまますることが出来なかった。

「どうした?やれよ?」

勝ち誇ったような卑怯な笑いを浮かべている。
バシャーモの気が一瞬緩んだのを狙って、電気を通した網をバシャーモに素早くかぶせた。
電気でバシャーモが動けなくなり、倒れている。

バシャーモが諦めようとしたとき1人の人間がバシャーモを庇うように立っていた。
巫女だ。

そんなに遠くないところから不自然なヘリを見つけ、そのヘリの下に吊り下げられている網の中に、
さきほどの小さなポケモンたちを見つけ、急いで駆けつけてきたのだ。

巫女は両腕を広げてバシャーモを庇う。

「大丈夫?」

「なぜここに・・・・・」

「あの子たちが吊り下げられてるのが見えて、急いで来たらあなたが倒れていた。見捨てることは出来ない。」

「俺に・・・構うな・・・」

「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ。あなたは休んでなさい。」

「俺は・・・・・」

「あなたが何と言おうと私はここから離れない。それにあなたは優しいから。」

巫女は振り向いてバシャーモに微笑む。

「月光からあなたは強いポケモンと聞いたわ。でも、自分だけ助かるなら技を使って今こんな状態にはなっていないはず。
技を使わなかったのでしょう?あの子たちがいるから。そんなポケモンを見捨てることは絶対に出来ない。」

バシャーモはそう言って微笑む巫女にただ驚くことしか出来なかった。
バシャーモの中で何かが芽生え始めた。

「おいお嬢ちゃん。そこどきな。」

「いやだと言ったら?」

「無理やりにでもどかすしかねぇな。」

男の1人がモンスターボールを取り出し、空中に投げる。

「いけ、ザングースっ!」

赤色の光が地上に落ちて、そこから大きなポケモンが出て来た。

「ったく、面倒くせぇやつらだぜ。」

ザングースと呼ばれたポケモンは巫女を襲おうと飛び掛ってきた。
巫女は目を瞑り、それでもなおバシャーモを守ろうとする。
だが、次の瞬間狼の遠吠えのようなものが聞こえ、ザングースは倒れた。
そこにいたのは大きな黒い犬のポケモンだった。

「よくやったグラエナっ!」

そう言って駆けつけてきたのは月光だった。

「月光っ!」

「大丈夫か?」

月光は巫女の元へ駆け寄る。

「大丈夫よ。それより、バシャーモの網をとってあげないと・・・」

巫女はバシャーモの網を取ろうとして網に触れたとき、電気がバチバチと音をたてた。
巫女はその電気に触れ、反射的に手をひこっめた。

「この網電気が通ってる。」

「俺に構うな。さっさと逃げろ。」

バシャーモは助けようとしてくれる巫女をこれ以上関わらせないよう厳しい口調で言い、睨み付ける。
だが巫女はそれに構わず、意を決したように電気の流れる網を掴んだ。
巫女の手は電気で拒まれながらも絶対に網を離さない。

「おい、もうやめろっ!俺に構うなっ!」

「言ったでしょう・・・ここで見捨てるわけにはいかないの」

「おい、無茶だっ!」

月光が巫女を止めようとする。

「いいから・・・大丈夫よ。」

巫女は本気だった。
本気で助けようとしているのだ。
月光は巫女を止めることは出来ないと知った。
網は錘もあり、すぐに持ち上げることは出来ない。
月光はいても立ってもいられず、巫女とともに網を引っ張った。

「くっ・・・・!」

月光の手も電気を受けながらも網を離そうとしない。

バシャーモはただ驚くしか出来ない。
自分のためにここまでする人間はいなかった。
バシャーモはよく分からない衝動に駆られた。

「あと少し・・・」

巫女と月光は痛みに耐えながら引っ張る。
バシャーモは動けるようになって、素早く網から抜け出した。

巫女と月光はバシャーモが出たことを確認して、網から手を離した。
月光は巫女よりも網を持っている時間が短かったためあまり怪我と言うようなものはなかったが、巫女は長い間持ちすぎたため、気絶した。

「おいっ!」

月光が巫女の肩を揺すって起こす。
巫女は気がつき、ゆっくりと目を開けた。

「大丈夫か?」

「う・・・・ん・・・・まだ、痺れ・・・る・・・。」

「長い間電気触ってたらそうなる。立てるか?」

「なんとか・・・」

巫女は立ち上がって、周りを見渡してバシャーモを探す。
バシャーモは片膝をついて、座っていた。
まだ体力が回復していないのだろう。
そして先ほどのザングースが気がついたらしく、起き出した。

「この野郎・・・・・ケンカ売ったこと後悔してもらうぜ・・・・。」

ザングースは大人しく静かにだが、戦う気を発しているグラエナに向かって突進して来た。
だがヘリから発せられた命令でザングースは止まった。

「ザングースっ!そいつはどうでもいいっ!そこの嬢ちゃん連れて来いっ!」

何と巫女を連れて来いという命令をしたのだ。
ザングースは逆らえる立場ではないので舌打ちをして巫女へ突進する。

巫女はまだ電気のせいで上手く動けない。
月光が立ち塞がり、グラエナに攻撃するように命じる。

「グラエナっ!」

グラエナはザングースに飛び掛った。
だがザングースは面倒くさそうにグラエナをよけた。
グラエナはスピードのつけすぎで10メートルほどのところで止まった。
そして再度ザングースに飛び掛ろうとする。

だが上から小さなポケモンが1匹逆方向に落ちて来たので、グラエナはポケモンを助けるために巫女たちとは逆方向に走った。

月光は違うポケモンを出そうとしたがザングースに飛ばされ、動けなくなった。

「月光っ!」

「んじゃ悪いが来てもらうぜ。」

ザングースは巫女を捕まえようとする。
だが、次の瞬間ザングースは吹き飛ばされ、戦闘不能となり、モンスターボールに戻ってしまった。

バシャーモがザングースを蹴りで吹き飛ばしたのだ。

「バシャーモ・・・・・」

月光は起き上がり、急いで違うポケモンを出した。
月光が出したのは大きなドラゴンのようなポケモンだった。

「ボーマンダっ!」

「あーあ、面倒くせぇ・・・」

ボーマンダと呼ばれたポケモンはいかにも迷惑だと言わんばかりの顔をしていた。
月光はボーマンダに乗ってヘリへ向かって飛ぶ。

「ちっ。ザングースの野郎、使えねぇ。」

「にしても、あの少女・・・かなりの者だな。」

「そうか?」

「あのバシャーモに自分の身を守らせた・・・しかも何も指示してないのにな。
あいつは我が影音団には使えるかもしれん。」

「ふーん・・・まあ、確かにやるな。基地に戻ってボスに報告でもすっか。」

「そうだな。」

男2人はヘリで一時退散しようとした。
だが、ボーマンダと月光が追って来た。

「やべ、きやがった!」

「さっさとしろ」

だがボーマンダが近づく。
そして、ポケモンたちを吊るしている縄を切っては月光が助ける。
ポケモン全員無事だった。

影音団の2人はその場を何とかしのぎ、どこかへ消えてしまった。

「ちっ・・・逃がしたか。」

ボーマンダは舌打ちしてこれから暴れるところだったのによ、と言った。
月光たちは巫女たちの元へ戻った。

巫女はバシャーモと向き合っている。

「ありがとう。」

「礼を言うのはこっちだ。すまなかった。」

「怪我はない?」

「ない。」

「よかった。」

巫女はバシャーモに微笑む。
バシャーモはそのまま眠るように倒れた。

「バ、バシャーモ?!」

「おい、大丈夫かっ!」

月光が駆けつけてきた。
ボーマンダとグラエナは小さなポケモンたちに囲まれて動けずにいる。

「月光っ!バシャーモが倒れたわ」

「何?」

月光はバシャーモに近づく。
だがただ疲れて眠っているだけだった。

「大丈夫だ。眠ってる・・・。」

「そう・・・よかった。月光は?」

「ん?」

「怪我ない?」

「俺は大丈夫だ。お前は?」

「私も大丈夫よ。月光が無事でよかった。」

巫女は月光に本当にうれしそうに笑った。
月光はそんな巫女を直視出来ない。

そこで小さなポケモンたちを振り切ったのかボーマンダとグラエナが近づいて来た。

「おい、月光、腹減った。」

「怪我はないか?」

ボーマンダと対照的でグラエナは落ち着いていて忠実そうだ。

「ああ大丈夫だ。お前らもよくやった。」

「それより、飯っ!くれ。」

ボーマンダは偉そうにしている。
グラエナはそんなボーマンダを軽く睨み付ける。

「口を慎めボーマンダ」

「うれせぇよ。俺だって頑張ったんだぜ?」

「分かったからお前ら2匹とも黙ってくれ;」

月光は楓からもらったおにぎりを1つあげた。

「お、サンキュー」

ボーマンダはおにぎりを1口で食べてしまった。
グラエナの分がない。

「おい、自分だけで食べるなよ;」

「どうせグラエナは食べねぇだろ。」

そして巫女が思いついたように自分のもらったおにぎりを1つグラエナに渡した。

「これ」

グラエナはそう言っておにぎりを差し出す巫女を見て、不思議そうにしていた。

「私は巫女。さっきは助けてくれてありがとう。」

巫女はグラエナに微笑む。
グラエナは渋々おにぎりを受け取り、お辞儀をした。

「へー、いいお嬢ちゃんじゃねぇか。」

ボーマンダが楽しそうに笑う。

「誰かとは大違いだな。」

グラエナがそう言っておにぎりを食べる。
ボーマンダは少しキレた。

「おい、誰かって俺のことか?」

「他に誰がいる?」

グラエナは最後の一口を食べ終わり、見下すように言う。

「ケンカ売ってんのか?」

「勝手に言ってろ、バカドラゴン。」

「んだとこの負け犬がっ!」

2匹のケンカが始まった。
月光はため息をついてまたかと思っていた。

巫女はおもしろくてつい笑ってしまった。
2匹はそんな巫女を見て、ピリピリした空気が和らぎ、自然と表情がほころんだ。

「ところでお嬢ちゃん、あいつはどうする?」

ボーマンダは眠っているバシャーモを見て言った。

「とりあえず近くに休める場所とかない?」

「確かポケモンセンターの看板が森の中にあった。」

月光が提案する。

「ポケモンセンター?」

「病院だ。」

「それなら早く行きましょう。」

「よし。お嬢ちゃんに免じて俺に乗せてやる。」

「お前にしてはまともだな。」

「うるせぇっ!」

グラエナはそれ以上は何も言わず、モンスターボールの中へ戻った。

ボーマンダの背中にバシャーモを乗せてから巫女と月光も背中に乗った。

「しっかりつかまってろよ。」

ボーマンダは勢いよく飛び立った。
巫女と月光は落ちないようにボーマンダにしがみついた。
5分ほどであっという間にポケモンセンターの前に着いた。

「着いたぞ。」

「ありがとう。」

「戻すぞ、ボーマンダ。」

「ちっ・・・・・分かったよ。」

ボーマンダは若干不満気に大人しくモンスターボールの中へ戻った。

2人はバシャーモを中へ運び、カウンターにいたピンク色の髪の女性に声をかけられた。

「ようこそポケモンセンターへ。どうなさいました?」

「野生のバシャーモが倒れたのでお願いできますか?」

「それは大変。すぐに準備しますね。」

月光が交渉してナースのようなポケモンがバシャーモをタンカーで奥へ運んだ。
結果がでるまで2人は外の長椅子に腰掛けて待っていた。
30分ほどしてさきほどの女性が出て来た。

「今日1日休んでいれば大丈夫です。多少傷はありましたがすぐに治ります。」

「ありがとうございました。」

巫女は女性にお礼を言った。
女性はまた奥のほうへ入っていった。

「よかったわね。」

「ああ。」

「今日はありがとう。」

「いや。大したことはしていない。」

「それでも、ありがとう。」

巫女は月光に笑顔を向ける。
月光は照れてそっぽを向く。

外はもう暗くなったので2人もセンターに泊まることにした。
月光は残ったもう1つのおにぎりを食べ始めた。
だが、巫女は残ったおにぎりを食べずにそのまま手に持っていた。

「食べないのか?」

「うん。バシャーモにあげたいから。」

月光は仕方なく自分のおにぎりを半分千切って巫女に渡した。

「食べろ。母さんがつくったから上手いぞ。」

巫女はそれを受け取り、微笑んだ。

「ありがとう。」

巫女はもらったものをゆっくりと頬張る。
しばらくして巫女はバシャーモの様子を見てもいいか頼み、奥へ入った。

バシャーモはベットのような台の上に寝かされ、体力や傷を治すのに使うと思われる機械をつけられ、静かに眠っていた。
とても安らいだように見えた。

巫女は安心して月光のいる長椅子へ戻った。
月光は疲れたのか眠りについていた。
巫女は眠っている月光の隣に座り、これからどうするかを考えていた。

向こうでの記憶を思い出すこと。

夢の中の記憶を思い出すこと。

そんなことを考えているといつしか巫女も眠りについた。

翌日の朝。

バシャーモは日の出とともに目を覚ました。
自分の体につけられている機械とまわりにある薬や包帯でここがポケモンセンターだということが分かった。

バシャーモは機械を取り外し、外へ出る。
そこで長椅子に座って寝ている巫女と月光を見かけた。
バシャーモは2人に近づいた。
だが、声をかけずにそのままセンターを後にした。

バシャーモは森の中を歩く。
胸に何か引っ掛かるものを抱えて・・・。
しばらく歩いているとあの小さなポケモンたちがバシャーモに近づいた。

「バシャーモ起きた!」

「起きた!」

「よかった!」

「あの人たちが助けた!」

バシャーモは喜んでくれるポケモンたちを優しい眼差しで見ている。

「バシャーモ行かないの?」

「あの人たちと行かないの?」

「なぜ俺が?」

「バシャーモあの人たちのこと好きだから。」

「バシャーモはあの子のこと想ってる。」

「俺が人間になど・・・」

「ぼくらバシャーモに行ってほしい。」

「何?」

「バシャーモがはじめて誰かと一緒にいたいって思った。」

「だから行ってほしい。」

「ぼくら大丈夫。もうすぐ大きくなる。」

「バシャーモの好きにしていい。」

ポケモンたちは笑ってバシャーモを見上げる。
バシャーモはそう言って行ってもいいと言ってくれるポケモンたちをゆっくりと見渡す。

バシャーモがしたいことは今・・・巫女を守りたい。
バシャーモはセンターへの道を少し戻って行った。
小さなポケモンたちは手を振っている。

「いってらっしゃーい!」

その頃センターでは巫女と月光がバシャーモの様子をあの女性に聞いていた。
だがバシャーモはいなくなったらしい。

「大丈夫よ。もう動ける体だからそんなに心配しなくてもいいわ。きっと自分で森に帰ったのね。」

巫女と月光はお礼を言ってセンターを出た。
2人はしばらく森の中の道を歩く。

巫女はバシャーモを気にかけながら歩いていた。
だが巫女と月光は立ち止まった。
道の少し先にバシャーモが道の脇にある木に寄りかかっていた。

「バシャーモ?」

バシャーモも2人に気がつき、2人の前に立ちはだかった。

「もう大丈夫なの?」

「ああ。」

「そう・・・よかったわ。」

「礼を言う。」

「ううん。助けてくれて本当にありがとう。」

「・・・・・・・・・・俺を捕まえろ。」

「?」

巫女と月光は何を言っているのか分からなかった。

「俺もお前らについていく。」

「それって・・・」

「一緒に旅するってことか?」

バシャーモはうなずく。
巫女は微笑んでバシャーモに手を差し伸べた。

「これからよろしく。」

バシャーモは渋々その手をつかんだ。

「ボールで俺を捕まえろ。そしたら俺はお前のポケモンになる。」

「え?ああ、分かったわ。」

巫女は大地からもらったモンスターボールを取り出して、ボタンを押す。
そしてそれを空中に投げる。
ボールが開き、バシャーモを赤い光で包み、ボールの中へ入れた。
ボールは陸に落ちて、しばらく動いていたがその動きも止まり、バシャーモは巫女のポケモンになった。
巫女はボールを拾う。

「よかったな。」

「うん。初めてのポケモン。」

「んじゃ、行くか。」

「ちょっと待って。」

巫女はまたボールを投げ、バシャーモをボールから出した。

「今出すのかよ;」

「渡したいものがあるから。」

「何か用か?」

巫女はウェストポーチからおにぎりを取り出し、バシャーモに渡した。

「昨日から何も食べていないのでしょう?」

バシャーモはおにぎりを受け取った。
月光は呆れていたが笑っていた。

バシャーモは温かいものを胸の中で感じた。
それは巫女を見るといつも感じる。
温かいもの・・・。
巫女、月光、バシャーモは歩き出した。
巫女に初めてのポケモンが仲間に入ったのだった。

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あきゅろす。
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