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真心文庫
星空
陽月、絆、爽はのんびりと中庭で過ごしていた。

「はあ〜・・・海風がいいな〜・・・」

爽は芝生の上で寝転がりながら風を感じてそう言った。
絆も同じように隣で寝転がっている。

「そうだね〜・・・・お日様もあったかいし〜・・・」

陽月もその隣で横になり、空を黙って見上げていた。

「・・・・・・」

キリキザンはそんな3人の様子を見て、微笑んでいる。

「夜はここで星見るとおもしろそうだね。」

絆は突然起き上がると笑顔でそう言った。
爽も起き上がり、笑う。

「お、いいなそれ。んじゃあ、今日の夜、星見上げようぜ。流れ星、見れっかもしれねぇぞ。」

絆はそれを聞くと嬉しそうに頷く。
そしてまだ仰向けになって空を見上げる陽月を振り返る。

「ねえ、陽月ちゃん。今日の夜、星見ようよ。みんなで。」

陽月は絆を見た後、起き上がり、微笑んだ。

「・・・そうだな。」

3人は立ち上がる。

「じゃあ、ちょっと町に出かけて来よ!」

陽月と爽は頷く。
3人は家に入り、そこからまた外に出た。

町ではいつもと変わらず、活気のある町だった。
だが、いつもと少し違うのは町の人間たちが陽月や絆、爽を見かけるとほんの少しだが、笑いかけようとしていることだ。
絆はそんな人たちに微笑む。
すると向こうもホッとしたように微笑み返した。

「おはようございます。」

「お、おはよう・・・」

そう声をかけると躊躇いながらだが、ちゃんと返してくれる。
爽はそんな様子に穏やかな笑顔を向けた。
陽月も無表情だが、穏やかだ。

しばらく3人は町の中を歩く。
そこで小さな店を見つけた。

「ねえ、陽月ちゃん、爽くん。あのお店、何かな?」

絆が指差す店を見てみる。

「何だ?あの店。」

「知らないな。」

爽も陽月も首を傾げる。

「行ってみようよ!」

絆にそう言われ、2人は素直に頷く。

絆を先頭に店の中に入る。
少し店の壁は黒ずんでいて、棚の上には何本もの棒が入った袋や
ポケモンの形をしたものに導火線のようなものがついた小さなものが置いてあったりした。

「すみませーん・・・」

絆は周りを見渡しながら恐る恐る声をかけた。
するとすぐに人が出てきた。
おじさんだ。

「はいはい、何をお探しで・・・おや・・・?」

おじさんは3人を見ると少し罪悪感のある表情を見せる。

「ああ、君たち・・・」

「あの、ここって何を売っているんですか?」

絆は訊いた。

「ここにはポケモン花火を売っているんだ。この線香花火に火をつけるとポケモンの形を描く花火がつく。
どのポケモンが描かれるかはつけてみないと分からないようになっているよ。」

おじさんは棚の上にあった棒が入った袋を指差して説明した。
どうやらこれは線香花火だったようだ。

「へー・・・花火か・・・・」

爽は呟いた。
おじさんは少し弱々しく微笑む。

「よかったら、もらってくかい?今、あまってどうしようか、悩んでいるのが結構あるから。
好きなだけ、もらっていくといいぞ。」

「え?タダでいいんですか?」

「ああ、いいよ。ちょっと待ってなさい。」

おじさんは店の奥に入っていく。

「何だか、いい人だね。」

「花火がタダか・・・今日やるか?」

「うん!」

絆は嬉しそうに頷いた。
爽はそんな絆の頭をポンポンと軽く撫でた。
陽月はその様子を見て、微笑む。
だが、少し何かを思い出して寂しそうだ。

少ししておじさんが箱を丸々1つ抱えて出てきた。

「これ全部タダでもらっていいぞ。」

「こんなに?いいんですか?」

おじさんは微笑みながら頷く。

「「ありがとうございます!」」

絆と爽は声を揃えてそう言った。

「侘びみたいなもんだ・・・こんなので償おうとは思わないが、他に出来ることがないんでね。
・・・・白夜さん。」

陽月は呼ばれておじさんを見た。

「本当に・・・・申し訳、ありませんでした・・・・」

おじさんは頭を下げる。
陽月はそんなおじさんに言った。

「私は誰も責める気はない。もう終わったことだから・・・」

おじさんは顔を上げる。
陽月は無表情だったが、穏やかだった。
おじさんは微笑み言った。

「ありがとうございます・・・。」

絆と爽は微笑みながらその様子を見ていた。

「じゃあ、もらっていきますね。」

「どうぞ・・・。また来てね。」

おじさんはそう言うと笑った。
絆と爽はそれに笑い返す。
陽月は小さく頷いた。
爽が箱を抱え、3人は去って行った。

また町の中を歩く。

「よかったね。いっぱいもらえて。」

「だな。全部使い切れねぇよ。」

「使い切れなかった分はまた、今度にすればいいよ。」

「それもそうだな。」

絆は陽月を振り向く。

「今度は学園のみんなと出来るようにしたいね。」

「・・・ああ。」

陽月は微笑んだ。
絆は陽月と手を繋ぐ。

「みんな、一緒だよ。」

絆はそう言うと笑顔を向けた。
陽月は微笑みながら頷いた。

日が暮れてきた。

「そろそろ帰ろっか。」

しばらく町の中を回っていた3人。
絆のその言葉に陽月と爽は頷いた。
そして帰り道を歩く。

「おい!」

3人が帰ろうとしたところで後ろから聞き覚えのある少年の声を聞いた。
3人は後ろを振り返る。
洋太だ。

「話がある。」

洋太がそう言うと3人は少し嫌そうな顔する。
それに洋太は少し不機嫌になる。

「そんな嫌そうにしなくたっていいじゃん。こっちはただ白夜に話があってきたんだよ。」

陽月は疑うような目を洋太に向ける。

「・・・・何だ?」

洋太はニヤッと笑うと偉そうに言う。

「白夜陽月!お前は将来、桂木の人間になれ!」

絆と爽は目を見開き、驚いている。
それもそうだろう。
今、遠まわしに 結婚しろ と言っているのだから。
だが、当の陽月は首を傾げている。

「分からないが、断る。」

洋太はこけそうになった。
絆と爽は陽月を振り向き、なぜか気まずそうな表情を浮かべる。
陽月はずっと頭の中に疑問附を浮かべながら無表情に首を傾げている。

「ひ、陽月ちゃん・・・今ね、あの人はね、陽月ちゃんに白夜から桂木になれって言ったんだよ?」

「・・・・・?なら、なお更お断りだ。」

陽月はまだ意味が分かっていないらしい。
どうやら 白夜を捨てろ と強要されていると思っているようだ。
爽はため息をつき、絆に小声で言った。

「絆、こいつ何も分かってねぇ。」

「うん・・・・」

「分かんないなら分かんないままでいいんじゃねぇか?どうせ意味が分かったところで断れるだろうし。」

「そうだね。ここは下手に何も言わないほうがいいね・・・」

小さな会議が終わり、絆は陽月に笑顔で言った。

「あの人の話は気にしなくてもいいと思うよ。」

洋太はそれを聞くと少し不機嫌になる。

「ぼくの話を聞かなくてもいいだって?そんなの許されると思ってんの?」

「よく分からないがそれでいいならもう帰る。」

陽月はそう言うと歩き出した。
絆と爽も後に続く。

「あ!ちょっと待てって!」

再び3人は足を止め、洋太を振り返った。

「断ることなんて出来ないよ。だって、じいちゃんに言ったらいいって言ったんだ。というわけで白夜陽月!お前はぼくの許婚になった・・・って、待ってって!」

陽月は先に歩いて行った。
絆と爽は洋太のその言葉を聞き届けると歩き出す。
洋太は後ろで騒いでいるが今度は止まったりはしない。
しばらく歩いて洋太の声も遠くなると絆は爽に言った。

「・・・・今・・・・許婚って言ってた?」

「・・・ああ・・・。言ってたな・・・」

絆は少しため息をつく。
そして前を歩く陽月に訊いた。

「陽月ちゃん、あの人の話、聞いた?」

「む?何か言っていたのか?」

どうやら陽月は洋太の話を全く聞かずに先に歩いていたようだ。
それを聞くと絆も爽もため息をつく。

「・・・言わなくてもいいよね。」

「ああ、言わなくていい。」

3人は帰るための道を歩き続けた。

帰ると食事を済ませた後、3人は花火を持って中庭に出た。
キリキザンも一緒にいる。

「よし。んじゃ、始めるか。」

爽の言葉に陽月と絆は頷く。
そしてボールを取り出し、ポケモンたちを出した。
爽もポケモンを出す。
そして箱から何個か花火を取り出し、線香花火をポケモンたちにも1本ずつ持たせる。

「フレイ、火の粉!」

絆がフレイにそう指示を出した。
フレイは弱々しい火の粉を全員の線香花火につける。
花火はバチバチと音を立て、やがてポケモンの形を描いた。

「うわー!綺麗!」

「スッゲーや!」

「・・・・・。」

陽月は何も言わないが、微笑みながらその花火を見つめている。
ポケモンたちは花火を口に銜えたり、手で持ちながら楽しそうに中庭を駆け回る。
キリキザンも楽しそうにしている。
そこら中を駆け回るポケモンたち。
それを見ながら、花火を楽しみながら笑う陽月、絆、爽。

「お!うわあっ!」

爽はポケモンの形をしたものに導火線がついていたものに火の粉で火をつけてもらうと
それは突然凄い速さで回ったり、瞬いたりし始めた。
どうやらこれは鼠花火だったようだ。

「すっげー!びくった!」

「あははっ!きれー!」

「綺麗・・・・」

3人とも笑っている。
そんな楽しい時間を2時間ほど過ごすと絆と爽がアクアとゼルに指示して火を全て水で消してもらった。

「残ったやつは学園にでも持って行こっ!あとは星を見上げて過ごそっか。」

絆は微笑みながらそういう。
陽月も微笑んで返した。
爽は笑っている。

3人とポケモンたちは座って星空を見上げた。
満天の星が瞬いたりしている。

「綺麗だね。」

「そうだな。星・・・こんな風に見たの、何年もなかった。」

「・・・・・この幾億の星がある中、私たちはここで出会えたのだな・・・・。」

陽月が星空を見上げながら、そう呟いた。
絆と爽は陽月を見る。

「数え切れないほどの存在がある中で、私たちは出会えた。それは奇跡に近いのかもしれない。それは偶然で、必然でもあるのかもしれない。
夢にも見ていなかった仲間達と出会い、その存在の大切さに気づかされた。望んでもいなかった。誰かに認められることなどないと思っていたから・・・。
だが、今は違う。この大空の下、限りない存在がいる中で出会えた。そのことに私は感謝しよう。
ポケモンたちに出会えたこと
炎精組の人間達に出会えたこと
生徒会の人間達に出会えたこと
愛しい人に出会えたこと
醐大 爽という 人恋し少年 と出会えたこと
そして・・・・
結心 絆という ひだまりの少女 と・・・初めての友と・・・・出会えたことを。
ありがとう。」

陽月はそう言うと目を瞑り、笑った。
絆と爽は少し目を見開き、驚いていたが、2人も同じように笑った。
ポケモンたちも穏やかでいる。
そこでアイリとアクアが立ち上がり、3人の前に来た。
そして星空に向かってアクアが威力の弱い水鉄砲を撃ち、水しぶきを作った。
そこでアイリが凍える風を使い、その散った水を凍らせる。
するとそれは見事にキラキラと光る粒を作り出した。

「きれー・・・」

絆が呟く。
すると今度は他のポケモンたちも出てきた。
ルナが空に向かってオーロラビームを威力を弱めて放つ。
するとオーロラの光がしばらく空に残っていた。
そんなちょっとしたことをして満天の星空の美しさをさらに引き出す。
それに3人や他のポケモンたちは心穏やかになった。
少しすると星が瞬き、流れた。

「おっ!流れ星!」

爽が声を上げる。
絆はそれにつられて周りを見渡す。
するとまた流れた。

「本当だ!」

そしてだんだん流れる星の数が増えていく。
それに絆と爽は喜びの声を上げる。
陽月はその流れ星たちをしばらく見た後、笑って呟いた。

「・・・・・・ありがとう・・・・・・。」


3人とポケモンたちはしばらく、そんな星空を飽きることなく見上げていた。

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