真心文庫 執行 ミレニアムがいなくなった後、その場にいた全員が息を吐いた。 「・・・あれが・・・白夜の中にいた・・・魔女・・・」 「うん・・・・ただそこにいるだけで・・・・すっごく綺麗な人なのに・・・・・とてつもない迫力があるの・・・・存在感っていうのかな・・・・もしもたくさんの人の集まりの中にあの人がいたら 絶対に1番最初に目がつくと思う・・・・。」 どうやら2人は微笑んでいたものの、その静かな迫力と存在感に少し、圧倒されていたようだ。 キリキザンは攻撃態勢を解き、ため息をつく。 「確かに・・・・白夜の中にいた魔女だな・・・・目があの時と一緒だったし。」 「高石くんのときのこと?」 「ああ。・・・あと、お前が記憶を失いかけた時に俺に向けた目を一緒だ。口調も同じだった。白夜の中にいたやつに間違いねぇな。」 「そっか・・・・」 絆は若干の冷や汗をかきながらも微笑んだ。 「そろそろ寝よう。明日、全部終わる。」 「そうだな・・・」 2人はキリキザンに「おやすみ」を言うと2階に上がり、それぞれの部屋に入った。 爽はベットに横になると目を閉じる。 「(白夜・・・・お前にはまだ借りがある。俺は負けただけで勝ってねぇんだよ。このまま終わりやがったらただじゃ済まさない。絆をこれ以上・・・悲しませんな。)」 心の中でそう呟くと爽は眠りについた。 翌朝。 絆はすぐに目を覚ます。 そして準備を済ませると爽の部屋の扉を勢いよく開けた。 「爽くんっ!!」 残念ながら爽はまだ寝ている。 絆はため息をつくと爽に近づく。 そして耳元で思いっきり大声を出した。 「起きろー!!」 爽はそれで目を覚まし、飛び起きた。 「なっなっ、何?!何だ?!何があった?!」 かなりびっくりしたようだ。 「ほら起きて!早く行くよ!」 爽はそれを聞くとあくびをする。 そしてまた横になった。 「あと10時間・・・」 絆はそれに微笑みながらも怒りを表す。 「そーうーくーんー?」 殺気を感じたのか爽は薄っすらと目を開ける。 見てみると絆が殴る気満々の体勢を取っていた。 今度のは恨み程度では済まされない。 確かな殺気だ。 爽はそれを見てギョッとする。 「まっ、待て!起きる!起きるからその殺気を帯びたまま殴るなっ!!」 絆はそれを聞くとため息をついた。 そして普通に笑う。 「早く行こう。陽月ちゃん、迎えに。」 爽はそれにまだ少し目を見開き、驚いていたが、すぐに笑った。 「ああ。」 爽も準備をし、2人で1階に降りる。 そこではキリキザンがすでに待っていた。 2人とキリキザンは扉を開け、外へ出た。 急ぎ足で町の中を歩く。 そしてジュンサーさんの元へ向かった。 ジュンサーさんはいつもの場所で絆と爽を待っていてくれた。 「ジュンサーさん!」 絆はジュンサーさんに駆け寄った。 それに続いて爽とキリキザンも駆け寄る。 「絆ちゃん、爽くん、こっちよ」 ジュンサーさんはそう言うと2人とキリキザンを案内する。 案内された場所は広場だ。 そこには町のほぼ全員と思われる数の人間達が集まっていた。 「こっちへ」 ジュンサーさんは前へ前へと進む。 それに絆、爽、キリキザンがついていく。 そして1番見やすい、前のほうに出た。 陽月が乗るであろう台の上にはデスカーンが右側と左側にそれぞれ1体ずつ立っている。 「いつ始まるんですか?」 絆はジュンサーさんに訊いた。 「太陽が真上に昇る時間よ。あともうすぐだと思うわ。」 絆は太陽を見上げる。 眩しくて片目を瞑るが何とか確認できた。 真上に昇るまであと数分と言ったところだ。 絆は不安そうにする。 そんな絆の肩を爽は軽く叩いた。 絆は爽を振り返る。 「心配すんな。俺たちにできることは信じることだけだ。あのミレニアムって魔女を今まで中に宿してたようなやつだ、そう簡単に消されるかっての。 お前が信じないでどうすんだよ。笑って迎えるんだろ?白夜を。」 爽は笑顔を向ける。 絆はその笑顔に笑い返した。 「そうだね。」 そこで突然、ざわめきが広がる。 絆と爽は台の上を見上げた。 「出てきたわよ。いつ、助け出すの?」 ジュンサーさんは2人に訊いた。 だが、2人は首を横に振る。 「いえ・・・・あたしたちはただ陽月ちゃんを見守るだけです。陽月ちゃんが手を出すなって、ここで全部、終わらせたいからって。」 「え?でも・・・」 「陽月ちゃんを信じてください。あたしは陽月ちゃんを笑って迎えるから。」 ジュンサーさんはそれを聞くと不安そうに台の上を見上げる。 ゆっくりと手と首を鎖で繋がれた陽月が出てきた。 その後ろにはカイリキーがついていた。 絆は思わず陽月を呼んだ。 「陽月ちゃんっ!!」 だがすぐに爽に口を手で抑えられる。 陽月はかすかに聞こえた声に振り返った。 そこには絆とキリキザン、そしてなぜか爽がいた。 爽は陽月を少し睨むと口だけ動かした。 負けたままで引き下がったりなんざしねぇぜ、白夜 陽月はそれを読み取ると少し険しい顔をしたが、すぐに小さく微笑んで爽に強気な目を向けた。 爽もそれに同じような目で返し、笑う。 陽月はまた前を無表情に向きなおす。 人間達の中から声が聞こえる。 陽月を罵る声や愚弄する声だ。 だが、それに陽月は顔色1つ変えずに真っ直ぐ町の人間達を見渡す。 「これより、魔女の処分を執行する」 陽月の隣に来た男がマイクを手にそう言った。 絆、爽、キリキザン、ジュンサーさんは固唾を呑む。 陽月の運命が決まる。 [back][next] [戻る] |