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真心文庫
旅路
夜。

爽はやっと目を覚ました。
慌てて起き上がり、外を見る。
もうすでに日は落ちて夜となっていた。
そして辺りを見渡す。
見知らぬ部屋だ。
だが、その部屋の窓から午前中にいた庭が見えたため、ここは今絆が泊まっている家なのだと分かった。
部屋は爽が眠っていたベット以外、全て埃や塵まみれになっている。
さらにはかすかにだが、ポケモンの影と動く音が見えたり、聞こえたりした。
爽はベットから降りると扉に向かい、開けた。
外に出る。
そこも埃や塵だらけだった。
どうやらもう何年も使われていなかった空家らしい。
爽は1階に下りた。

1階では絆がブースターのフレイの火を使って簡単な料理をしていた。
絆は作り終えると一息ついてから爽が下りてきたことに気がついた。

「あ、爽くん!起きたんだね。」

「・・・・・・・俺、結構寝てたんだな・・・・。」

「うん;ぐっすり朝の11時から今、夜の9時まで10時間くらい。」

「10時間・・・・?まだそんなしか寝てねぇのか・・・」

爽は頭をかいてあくびをする。

「いや、それだけ寝れば十分だよ^^;」

絆は困ったような笑顔でそう言った。
爽は近くにあった椅子に腰掛ける。
そして周りを見渡した。

「にしても・・・・ここは何なんだ?もう何年も使われてねぇような感じだし、明かりもそんなついてねぇし
何か、小さいポケモンとか住みついてやがるし、やけにデカイ家だし、ここは廃墟になった誰かの別荘か?」

絆はそれに少し困ったような笑顔で答えた。

「違うよ。ここは廃墟になった場所でも、誰かの別荘でもないよ。
ここは陽月ちゃんが昔住んでた家だよ。この町は陽月ちゃんの故郷なの。」

「あいつの?」

「うん。昨日、陽月ちゃんのご両親の命日だったの。だから、ここに帰ってきたの。」

「へー・・・なあ、絆。お前らの旅の話、聞かせてくれよ。町離れてからお前らはどこに行ってきて、何があって、どんなもの見て、んで、今ここにいるのか。
聞いてみたいんだ。」

爽はそう言うと絆に笑いかけた。
絆もそれに微笑み返す。
そして、出来たてのスープを爽に渡す。
フレイにも木の実を食べさせる。
フレイに木の実を食べさせた後、ボールの中に戻した。
いつの間にかいたキリキザンも絆の話に興味を持ち、そこに立っていた。

「うん、いいよ。あ、その前に・・・爽くん。このポケモンはキリキザン。陽月ちゃんのお父さんのポケモンだったんだって。
陽月ちゃんがいなくなった後もずっと中庭のお世話してるポケモンなの。」

爽はキリキザンを見た。
そして思わず会釈する。
キリキザンもそれに同じように返した。

「で、キリキザン。この男の子は醐大 爽くん。あたしと同じ町に住んでたの。幼馴染って言うのかな。
とっても優しいんだよ。」

キリキザンはそれを聞くと爽を見た。
そして笑う。
爽もなぜか分からないが、自然と笑い返した。

「で、旅のお話だったね。えと・・・あたしたちはあの町を出てから、しばらく歩いて、それで、もう夜で晩かったから休むのにちょうどいい場所見つけて、そこでその日は休んだの。」

絆は爽に町を出てからのことを話した。
それをキリキザンも一緒に聞いている。

絆と陽月は町を出てから森を抜け、数日は森の道を歩いていた。
そして町を出てから1週間後には小さな町に出た。
1日、2日はその町にいたが、陽月が呪われ魔女という理由だけで町を追い出された。
その時、絆は追い出されたり、無実のことで嫌われる陽月の辛さがほんの少しだが分かったようだ。
それがもう何年も、それも小さな頃から、ずっと続いていて、昔からの扱いは絆が一緒にいた時の扱いよりもひどいものだったのだと思うと
絆がどんなに理解したくても他の誰かがどんなに理解したくても
到底分からない辛さや痛み、苦しみ、悲しみなのだと感じた。
そんなことを繰り返しながら、町を出て1ヶ月。
2人は聖獣学園というとても楽しい場所に出会った。
出会い方は不法侵入とあまりいい方法ではなかったけれど、
それでも経験したことのないことがたくさんあり、楽しくて楽しくて仕方のない場所だった。

「不法侵入って、お前ら何してんだよ;」

爽は絆につっこんだ。
絆は少し困ったように笑っている。

「あはは。だって、夜中だったし、建物大きすぎだし、学園だなんて思わなかったし、
その奥に広がる森なんて全部所有地だったし、柵に途切れがなかったし、
でもそこ通り抜けないと進めなかったしで仕方なくちょっとね、へへっ」

絆は少し軽いノリでそう言っているがもしもあの場所が本当に誰かの城や屋敷だった場合、まず生きて出してはもらえなかっただろう。

「そんな軽いノリでいいのかよ;まあ、とりあえず、その先は?」

爽はつっこんでるわりには先が気になるらしい。
絆は笑顔で頷く。

学園に侵入したとき当たり前だが警報が鳴り、バレてしまった。
そのため、建物を走り抜けて森へ入り、そのままそこを出るという強行手段を取ることになった。
陽月と絆は走り、なぜか少し扉の開いていた建物の中に突入して、階段を駆け上がり、回廊を真っ直ぐ走った。
そこで2人の人物とすれ違った。
だが、その2人のうち1人に陽月と絆は捕まった。
それが聖獣学園生徒会会長と生徒会メンバーの1人との出会いだった。
穢れも何もない純粋な会長の笑顔は若干絆には恐怖も感じさせた。
最初の頃、陽月はこの笑顔の会長さえも睨んで警戒を解こうとはしなかった。
そして行く当てのない陽月と絆はしばらく学園にいるように言われ、炎精組という心から信頼できる5人の生徒たちが集まっている
楽しいクラスへ仮入園することになった。

「お前ら、結構大きい場所行ったわりには俺たちの行ってた学校より人数少ない場所に入れられたな。」

爽は素直に感想を言った。

「でもでも、みんないい人たちだよ!心から信頼できるの。多分、爽くんも行ってみたら分かるよ。
あたしたちの行ってた学校よりずっといいって。高石くんみたいな人も炎精組にはいないし。
あ、でも、炎精組以外のクラスは分からないかな。何か、生徒会の人たちとかごく一部の人たち以外は炎精組をあんまりよく思ってないみたいだから。
最初に学校とか寮とか教室を案内してくれたとってもかわいくて優しい子がいるんだけど、
その子が言うには学園にいるほとんどのお金持ちの人はあんまりいい人たちじゃないんだって。
でも、楽しいよ。絶対、爽くんも一緒に行こうね。」

絆はそう言うと爽に笑顔を向ける。
爽も本当にイキイキと楽しそうに学園のことを話す絆を見て同じように笑った。

「ああ、そうだな。」

絆はそれを聞くと嬉しそうに頷いた。
そして話を続ける。

仮入園するなり、初日から陽月は色々言われる、教室ではある少年とバトルする、
絆が森を案内してもらっている最中に変な集団に襲われる、間一髪で陽月と会長が助けに来ると言った
とてもびっくりでアクティブなことや数日後には体育祭といった行事、その体育祭の数日後には陽月と喧嘩、
さらにその数日後にはなぜか陽月が素直になるなど色々あった。

「え、何、あいつが素直?ありえねぇー・・・」

爽は目を見開いて驚いていた。

「えへへ、素直だよ。陽月ちゃんは素直なんだよ。素直で世間のこと意外と全然知らなくて、かわいくてかわいくてかわいくてかわいくて・・・はう〜・・・陽月ちゃんかわいいよぉ〜」

絆は顔を綻ばせてそういった。
爽は絆がこんなに幸せそうに顔を綻ばせているのを見るのは初めてなのか、少し苦笑いしていた。
キリキザンは昔の陽月を知っているからか、素直だということには驚かないようだ。
そして木の実を宙に投げては自分の刃で木の実を切らないようにキャッチしていた。

「んで、なぜか素直になったあいつがいて、何があったんだ?」

そんな素直になった陽月を色々な手を使って着せ替えさせたりして遊んだりもした。
だが、またその数日、ある男が学園を訪れた。
そして陽月は男を見ると異常な恐怖を見せ、意識を失った。
陽月を寮のベットに寝かせ、目が覚めるまで待った。
だが、その日の夜、窓にヤミカラスが手紙を置いていった。
その手紙には「過去を知りたければ来い」というような内容が書かれていた。
絆は最初に学校を案内してくれた子と共に森の奥へ向かった。
そこで誰かに襲われ、眠らされた。

「お前大丈夫だったのか?!」

爽は本当に驚いたように絆に訊く。

「うん、大丈夫だよ。眠らされただけだから。それに、あたし、今こうしてここにいるよ?」

絆は笑顔でそう言うと話しを続けた。

次に目を覚ました時には目の前にとても美しい女性が立っていた。
白銀の長髪に様々な色に変わる瞳、綺麗な黒いドレスを着た、西洋の肖像画からそのまま出てきたような美しい女性が。
その女性は陽月の中に眠る魔女だった。

「んじゃ、あいつ・・・・本当に魔女だったんだな。」

「うん・・・。でも、呪われてなんか全然ないよ。それにその魔女さんは魔女さんで陽月ちゃんとは別なの。
魔女さんもいい人なんだよ。
陽月ちゃんは陽月ちゃんで魔女さんは魔女さんだよ。」

その女性はその時、陽月の過去を教えてくれた。
陽月の過去は聞いていて辛いものだった。
過去の内容までは話さないが爽はそれだけで感じ取ったようだ。
少ししんみりしたような表情を見せる。

「でもね・・・陽月ちゃんね・・・本当にすごいと思うよ・・・・ひどいこと・・・され続けてたのに・・・
悲しい思い・・・・いっぱいしてきたのに・・・・・痛いこといっぱいされてきたのに・・・・・全部・・・
全部受け入れて・・・・受け止めて・・・・理解して・・・・理解してるのに・・・・全部赦して・・・・
自分がどんな目に合ってきたのか・・・それがどうしてなのか・・・・全部分かってて、全部理解してるのに・・・・
全部受け入れて、赦し続けてきたの・・・・・
陽月ちゃんは・・・・優しすぎるんだよ・・・・・優しくて優しくて・・・・悲しいぐらい・・・・
泣きたいくらい・・・・・温かくて優しすぎるんだよ・・・・
少しくらいわがまま言っていいのに・・・・・思いっきり泣いていいのに・・・・怒っていいのに・・・・
なのに・・・・・・・・そんな小さなことも我慢して・・・・・自分のこと全部諦めて・・・・・・
陽月ちゃんが悪いわけじゃないのに全部全部何もかも自分のせいにして・・・・・
全てに償おうとしてたの・・・・。」

絆はそこまで言うと目を瞑った。

「なのに・・・こんなのひどいよ・・・・。こんなの・・・・ひどすぎるよ・・・。
陽月ちゃんはこれ以上何すればいいの?これ以上、何を諦めたらいいの?何償えばいいの?
陽月ちゃんはどうすればいいのって・・・思っちゃうよ・・・。」

そして目を開ける。
爽はそんな絆に笑顔を向けた。

「あいつはお前に出会って、少しずつ、変わってんじゃねぇか?だって、そうだろ?あいつが素直になるなんて
俺は全然想像つかねぇよ。なのに現にお前はあいつは素直だって、言ってる。色々言うようになったって、変わったって言ってんじゃん。
だから、お前がんな弱気になってんじゃねぇよ。あいつが出たら、また色んなこと、すんだろ?」

絆はそれを聞くと微笑み、頷いた。

「で、その続きは?」

爽は本題に戻した。

そしてその女性の力でなぜか陽月が5つの頃に戻ったことを話した。

「っておい、ちょっと待て」

爽は話を止める。
なかなかつっこみが激しい男である。
少しは黙って聞くということが出来ないのか、この男は。

「うっせぇよ、語り野郎!黙ってろ!んで、あいつが5つに戻ったって、どういう理由だよ。」

「えっと、その魔女さんがね、陽月ちゃんは楽しいの忘れるのは早すぎたから1日でもいいから楽しませてあげてほしいって。」

絆はそう説明したあとまた話を続けた。

結局、小さい陽月は外に連れ出した後、一時行方不明になったので炎精組で1番年上の綺麗なお姉さんと一緒に捜すことになった。
だが、どこへ行っても見つからず、結局夜になったので寮へ帰った。
しばらくすると15に戻った陽月が帰ってきた。
そしてそのまた数日後、陽月は普通の女の子の時間を過ごした後、またいつも通り炎精で楽しく過ごし、その後にはここへ来るために学園と別れた。

「それであたしたちはここに来たの。」

「へー。結構いいこともあったんだな。」

「うん!特に学園生活ではね、陽月ちゃんがその女の子の時間を過ごしたあと、普通にみんなに笑うようになったの!
あとね、ちゃんと素直に『ありがとう』って言うんだよ!それがもうかわいいの!!」

「・・・あいつが・・・?笑う・・・?ありがとう・・・?
え、冷たく笑ったり、嫌味に感謝したりじゃなくて?」

「ちゃんとかっわいい笑顔でお礼に『ありがとう』って言うんだよ!
やっぱり会長さん効果だね!」

爽はそれを聞くと少し疑問附を浮かべた。

「えっと、その会長さん?だっけ?何で、その人の効果なんだ?」

絆は少し不思議そうに首を傾げる。

「あれ?言ってない?」

「え?何を?あともう1つ、『女の子の時間』ってなんだよ?しかもさっきの話聞く限りじゃ『女の子の時間』の中にお前がいないぞ?どういうことだ?」

絆は少し困ったように笑った。

「あーやっぱり言ってなかったみたいだね。えっとね、簡単に言うとね、まあ学園に行けば分かっちゃうことだから言ってもいいんだろうけど・・・
あのね、陽月ちゃんね、会長さんと・・・これなの♪」

絆はそういうと小指を立てた。
爽はそれに驚きのあまり、飲んでいたスープの皿を落とした。
キリキザンも宙に投げて自分の刃で切らないようにキャッチしていた木の実を驚きのあまり、勢いで真っ二つにしてしまった。

「・・・・へっ・・・・?・・・・・・あっ・・・・?・・・・・・えっ・・・・・・?
はあああああああああああ?!?!?!?!」

爽はやっとのことで驚きの声を上げた。
声を上げるまでの時間約30秒。
少し理解するまで時間がかかったようだ。
キリキザンも目を見開き驚いている。

「まあ、いいんじゃないかな?それって陽月ちゃんが変わったってことだし。
それに、ほら、笑えるようになったんだよ?
あと『女の子の時間』っていうのは会長さんと2人きりで過ごした時間って言う意味だよ。」

笑って答える絆。
驚きで言葉が発せられない爽。
陽月と会長の関係以外理解できないでいるキリキザン。

「え?あ?は??つまり何??あいつは俺とお前と似たような関係ってか????」

爽は普通なら恥ずかしいことをこの混乱した中言ってしまった。
絆はそれを聞くと少し顔を赤くさせる。

「う、うん・・・そういうことになるのかな・・・へへっ。
気持ち伝えた後すぐに町出ちゃったからあんまり自覚なかったけど・・・そうだよね。
つまりあたしと爽くんみたいだったんだね。あははっ。あ、でも、ちょっと違うかも。」

「違う?何が?」

「えっとね、うーんと・・・陽月ちゃんはあたしたちより大人っていうのかな?かな??」

爽はさらに疑問附を浮かべる。

「・・・まだあんのか?」

「あははっ。えっとね、あのね、えーっと・・・その・・・別れ際にちゅっみたいなー、あははははっ♪」

爽はさらに目を見開き驚く。
キリキザンは最早「立ち直れないのでは?」と思うほど落ち込み、なぜか両手両膝を床についていた。
ポケモンでも人と同じような行動をするようだ。
さすが人型ポケモンと言ったところか。

「マジで・・・か・・・・?」

「うん、あたし、近くにいたし、見ちゃったし。学園とお別れするときに・・・ね!」

爽は思わずため息をついた。
そして笑う。

「あいつも意外と女なんだな。」

「意外じゃないよ。陽月ちゃんは最初から女の子だよ!」

「いや、意外だな。あんな無愛想、無表情、無感情の『無』三拍子がそろってるやつが素直になったり、普通に笑ったり、礼を言ったり
おまけに誰かを好きになるなんてよ・・・変わりすぎにもほどがあるってもんだぜ、絆。」

絆も最初、陽月に会ったときのことを思い出してみる。
無愛想、無表情、無感情・・・
爽の言う通り三拍子が揃っていた。
確かに変わりすぎの気がしないでもない。

「でも・・・それでも・・・陽月ちゃんはちゃんと陽月ちゃんとして生きようとしてる・・・。
今までの自分を変えようとしてる。
それだけでも、いいと思うな、あたしは。
だってそれが、白夜陽月ちゃんなんだもん。」

絆はそう言うと太陽のような笑顔を見せた。
爽はその笑顔を見ると同じように笑った。


爽やキリキザンには驚きの多い陽月と絆の旅路の話であった。

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