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真心文庫
到着
次の日。

絆は悲しい気持ちのままでずっと過ごしていた。
そして何も出来ない自分が嫌になる。

時間は午前10時。
絆は中庭に出て空を見上げていた。
ただ何も出来ずにいる自分を責めながら、空を見上げていた。

「・・・・陽月ちゃん・・・・・・」

絆の頬を涙が伝う。
キリキザンはそんな絆を心配そうに見ていた。

その時

空に大きな影が横切った。
絆は目を凝らす。
だがそこには何もなかった。
気のせいかと思ったがまた、今度ははっきりと何かが太陽を横切った。
絆は目を見開き、それをよく見てみる。
大きな鳥ポケモンのようだ。

「・・・・・ドンカラス?」

そう呟いた瞬間、声が聞こえた。

「・・なっ!・ずなっ!きずなっ!絆っ!」

ドンカラスが絆のいる場所へ向かってくるにつれ、声ははっきりと聞こえる。
声は絆の名前を呼んでいた。
そしてその声は懐かしい、絆の大切な人を思い出させた。

「・・・・爽くん?」

ドンカラスは中庭に着地した。
キリキザンは警戒心を表しながら絆の隣に来る。
ドンカラスが完全に着地したところでその後ろから人が降りてきた。
絆と同じくらいの少年。
忘れるはずのない少年だった。

「・・・・爽・・・・くん・・・・」

「久しぶりだな、絆。」

醐大 爽だ。
爽はドンカラスを振り返り、その頭を撫でる。

「ここまでありがとな。父さんにも感謝する。もう帰っても俺は大丈夫だ。
必ず、一人前になってそっちに帰ってやる。」

そう言うとドンカラスも片翼で爽の背中をバシバシと嬉しそうに叩き、飛び去った。
爽は少し痛そうにしていたがすぐに笑ってドンカラスを見送った。
そしてまた絆を振り返り、近くまで歩み寄る。

「どう・・・・して・・・・・ここに・・・・?」

絆はまだ驚いていて途切れ途切れに訊いた。
キリキザンも絆の知り合いだと分かると構えるのをやめた。

「ポケモン新聞にあいつが捕まったこと書いてあったから、まさかと思ってな。」

絆は爽を見て、安心したのと嬉しさと自分には何も出来なかったことで泣いた。

「それっ・・・・・それでっ・・・・・・来てっ・・・・くれたっ・・・・・のっ・・・・?」

爽はそんな絆を見てため息をついたがすぐに優しく笑って絆の頭をポンポンと軽く叩き、撫でた。

「ああ。言っただろ?お前がどこへ行こうとどこにいようと俺は絶対に迎えに行くってよ」

爽はそう言うととても清々しい、爽やかな笑顔を向けた。
絆はその笑顔を見て思わず爽に抱きついて泣いた。
爽は少し驚いたがすぐに絆を抱きしめ、頭を撫でた。
キリキザンはそんな2人を見て、頭に疑問附を浮かべている。

しばらくして泣き止むと顔を上げた。
爽は笑っている。
絆もそれに太陽のような笑顔を返した。

「ありがとう、爽くん。」

「約束だろ。ところで、あいつはどうなったんだ?」

爽は真面目になって陽月のことを訊いた。
絆はそれを聞くとまた悲しそうな表情になった。

「陽月ちゃん・・・・明後日には・・・・殺されちゃうの・・・・・」

「何?それってその処分のことか?」

絆は頷いた。
そしてまた涙を流す。

「陽月ちゃんっ・・・・・処刑って決まったのっ・・・・・ひどいよこんなのっ・・・・・・
陽月ちゃんはっ・・・・・・・一方的な恨みにっ・・・・
巻き込まれちゃっただけなのにっ・・・・・・」

爽は少し険しい表情になったが、すぐに笑って絆の額を弾いた。
絆はいきなりのことで顔を上げ、爽を見た。
爽は笑っている。

「バーカ。いつまで泣いてんだ。諦めてんじゃねぇよ。あいつを助けだしゃいい話だろ?
だったら簡単じゃん。
あいつが外に出されるのは明後日だとすりゃあ、その時に助け出せばいい。
あいつには負けただけで終わってんだ、そう簡単に勝ち逃げされてたまるかよ。
だから絆。お前はもう泣くな。あいつが出てきたときお前が笑ってないでどうする。
お前のバカみたいに明るい笑顔であいつのこと迎えに行ってやれよ。」

爽は最後の部分を少し照れたように言う。
絆は涙を拭い、満面の笑顔で頷いた。

「うん!」

爽はそれに笑い返す。
だが、突然倒れた。

「爽くんっ?!」

絆はしゃがみ、爽を呼ぶ。
爽は薄っすらと目を開ける。

「爽くん?!どうしたの?!」

「ん・・・・ああ・・・・ちょっと・・・・眠いだけ・・・・だ・・・・」

「え?眠い?」

「父さんが・・・・・すぐ着くって・・・・・言ったのに・・・・・1日かかったから・・・・・
ずっと・・・・・寝てねぇんだ・・・・・」

「ああ・・・・そういえば、爽くん、人よりたくさん寝ないと元気出ない体質だったね。
授業中とかほぼ寝てるし、というより、学校に来ても大半は寝て過ごしてるよね。
学校来て寝て、終わったら帰るっていう・・・なのに頭いいし・・・
寝る子は育つって言うけど爽くんは寝すぎだったね。」

「うるせぇよ・・・・いいから・・・・しばらく・・・・寝かせてく・・・・れ・・・・。」

そこで爽は目を瞑り、眠った。
絆はそんな爽を見て小さく微笑んだ。
そして爽を担いで中に入ろうとする。
だが、爽は男だから当たり前に身体は絆より大きい。
頑張って爽を運ぼうとする絆にキリキザンは手を貸し、一緒に中に運んだ。
そして2階に上がり、陽月の部屋に入る。
今は絆が寝るために使っている部屋だ。
爽をベットの上に寝かせる。
そして布団をかけた。
絆は少し疲れたように眠る爽に微笑み言った。

「お休み。ゆっくり休んでいいからね。」

そう言うと音を立てないように部屋を出て、扉を閉めた。


思わぬ結ばれ人の嬉しい到着だった。

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