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真心文庫
分離
処分が決まった日の夜。

陽月はまた暗い牢獄の中で座っていた。
今度は恐怖など感じず、ただ無表情、無感情で過ごしている。
青空も見えない、光もない。
それは陽月に昔を思い出させた。
倉島にされていたことを思い出させた。
だが、すぐに頭を振って、何も考えないようにする。

「(牢獄・・・か・・・。9年ぶりか・・・。
5つの頃に1年・・・6つの頃に1年・・・
牢獄で始まり、また牢獄で終わるのか・・・。)」

陽月はそんなことを思った。
そして目を瞑った。
諦めたように寂しそうな表情で目を瞑った。
その時、アイリアのときと似たような、だが別の光を見た。
黄金色に輝く、綺麗な光だ。

『陽月、久しぶりであるな。妾だ。』

その光の中にいたのは陽月の中で眠る魔女・ミレニアムだった。

「ミレニアム・・・か?」

『ああ、そうだ。陽月、このままで良いのか?』

「・・・良いとは思わない。」

『ならばなぜ諦める?』

「私には・・・何も出来ない。ポケモンたちも今はどこかに連れて行かれてしまった。
抵抗する術がないのだ・・・。」

『抵抗する術な・・・そなたには妾がおるではないか。』

「その力は強すぎる。私は君でいる間、記憶はないが
それでもその力が強すぎることは分かる。」

『そうだ、妾の力は強力すぎる。だが、何も抵抗だけではないであろう?
そなたが望むのであればここから出そう。』

陽月はそれを聞くと少し険しい表情になった。
だが、すぐに目を瞑り、言った。

「断る。」

ミレニアムは少し驚いた表情で陽月を見る。
だが、すぐに笑った。

『昔よりも随分はっきりものを言えるようになったな。
妾は嬉しいぞ?フフフッ。
嬉しいことは嬉しいが・・・とりあえず、理由を訊こう。』

陽月は目を開き、答えた。

「それでは意味がないのだ。私がここを抜け出したところで何も変わらない。
また捕まれば同じことの繰り返しだ。私はここに呪われ魔女を捨てにきたのだ。
だから、無理に出たいとは思わない。」

『ほう・・・そうか。ならば少女よ、そなたは何を望む?
そなたも妾も3日後、このまま事が進めばいなくなる。
ならば、いなくなる前にそなたの願い、叶えよう。
何が望みだ?』

ミレニアムは優しい微笑みを浮かべた。
ミレニアムは嘘を言っているのか本当を言っているのか分からないような存在で
悪ふざけやお遊びがすぎる時もあるが
陽月が大のお気に入りで大好きなのは嘘偽りない、絶対の真実なのだ。
だから、せめて陽月の願いだけでも叶えてやりたいのだろう。
陽月はそんな優しい微笑みを浮かべるミレニアムを見つめる。

「・・・・・出来ることなら、私は絆に会いたい。
そして聖獣学園の仲間たちや愛しい人にも・・・・」

陽月はそう言うと少し黙りこんだ。

『そうか・・・ならばその願い、叶え・・・』

「だが」

ミレニアムの言葉を途中で陽月は遮った。
そして少し驚き、ミレニアムは陽月を見る。

「だが・・・確かに会いたいが・・・・君はどうなるのだ?
私の願いが叶えられたとしても、君はどうなるのだ?」

ミレニアムは何も答えない。

「君には今まで何度も助けられてきた。
私の力ではどうにもならなかった時にも君は助けてくれた。
君は今まで私という存在に鎖を繋がれてきた。
私は絆やテルミに負の鎖を解いてもらった。
だが、ミレニアム、君は未だ私という存在に繋がれている。
君は・・・それでいいのか?」

ミレニアムは少し黙ったあと、答えた。

『・・・妾はそなたと共に、そなたの中にいるのが役目。
それが妾に残された役目なのだ。お父様が妾に与えた役目なのだ。
だから、これでいい。妾はそなたと共に生み落とされ、そなたと共に散っていく。
それが妾に与えられた役目なのだ。』

ミレニアムは珍しく、ほんの少しだが寂しそうな表情を浮かべた。
陽月はそんなミレニアムに言った。

「・・・君の役目は私といることではない。」

ミレニアムは陽月を見た。

「君の役目は私といることではないのだよ、ミレニアム。
君の役目は人々へ祝福を、愛を与えること。
私に繋がれることではない。
・・・・今までずっと思っていた。このまま、本当に縛り付けたままでいいのかと・・・。
幼い頃から、君の存在を知ったときから、そう思っていた・・・。
君に与えられたのは怒りと想いと心と生と、そして・・・自由だ。」

ミレニアムはそれを訊くと少し目を見開いた。

「君には自由が与えられているのだ。ミレニアム。
私に縛られていることが自由のわけがない。
君には自由がある。そして君の父は君にこう言った。
『あなたに祝福あれ』と。
ミレニアム、君に与えられたのは自由。
ならば、これで最期になるというのなら、私が望むのはたった1つ。」

陽月はミレニアムを見つめた。
ミレニアムは驚いて目を見開いたままだ。

「ミレニアム、君の自由だ。」

その言葉と共にミレニアムは黄金色の光に包まれた。
そして陽月の視界から消える。

陽月はゆっくりと目を開けた。
目の前には黄金色の光が浮遊している。
陽月はその光に微笑んだ。

「君は自由だ・・・もう縛られることはない。
私ももう魔女ではない。
私は『呪われ』を背負っている、白夜陽月だ。
君は君、私は私だ。ミレニアム。」

そう言うと光から声が聞こえた。
声は言った。

『ありがとう。』

と。
そして光はどこかへ消えてしまった。

陽月はそれを見送ると穏やかな表情でまた目を瞑る。
そして浅い眠りについた。


陽月とミレニアムは別々の者となり、分離し、自由となった。

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あきゅろす。
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