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真心文庫
処分
警察署に着き、絆は近くにいたジュンサーさんに駆け寄り、陽月のことを訊いた。

「ジュンサーさん!」

「どうしたの?お嬢さん。」

「あの、さっき、掲示板見て、それで、えっと、その・・・ま、魔女さんはそんなことしてません!!」

絆は陽月の名前を出すのをあえて控えた。

「魔女さん?ああ、さっき連れて行かれた・・・」

「あの、その子、あたしの友達なんです!とっても大事な友達なんです!
魔女さんはとっても優しいんです!10年前のことも魔女さんは何もしてません!
あれは雷に打たれた事故です!もちろん呪いなんかじゃありません!
今日のことだって、向こうから乱暴してきたんです!
無理に魔女さんの腕を引っ張るから、振り払っただけです!
それなのにこんなの・・・ひどすぎます!!」

絆は息を切らしながらもそう言った。
キリキザンはそれを聞いて目を瞑る。
ジュンサーさんは少し目を見開き、驚いたようにしていたがすぐに真面目な顔になった。
そして周りを警戒するようにしてから絆の手を取った。

「ちょっと、こっちへ」

絆は手を引かれ、建物の裏側に連れて行かれた。
キリキザンもそれについていく。

ジュンサーさんはもう1度、周りを警戒するように見ると、絆に微笑んだ。

「大丈夫よ。実は言うとわたしもあなたと同じ気持ちだから。」

「へっ?」

「10年前のことはわたしもよく知らないけれど、呪っただけで人を殺すなんて出来ないわ。
それに当時、その子はたったの5つ。
今日のことは何があったか、まだ取調べ中なのだけど、何も言わないのよ。
何を言っても何を訊いても話さないし、答えない。
それでやけになった上の人たちがあんなこと書いたの。
全く・・・捕まえてから30分しか経ってないのにあんなことして・・・せっかちなおじさんたちよ。」

「捕まえてから30分?」

「ええ、そうよ。」

「じゃあ・・・あそこからここまでは大体、5分。
あたしが慌てて走って家に着くまでが50分。
その間にしてたのなら・・・ん?あれ?たった20分で書いてあそこに貼ったの?
あれ?でも・・・え?ええ??はやすぎないかな?かな??」

絆は混乱し始めた。
ジュンサーさんはそんな絆にさらに説明する。

「あれなら、取調べしながら書いてたみたいよ。
どうやら、答えても答えなくてもどちらにしろどんな理由でも
処分は与えるつもりだったみたいね。例え何もしてなくても。
それほど、あの子の存在は上の人たちには怖いみたい。」

「それって・・・・陽月ちゃんは捕まえられた時から何か与えられるのは決まってたってことですか?」

絆は思わず名前を言ってしまい、しまった と思い、口を押さえた。

「陽月・・・?それがあの子の名前なのね。」

「え・・・?あ、はい・・・。白夜陽月ちゃん。あたしの・・・最初の友達で、親友です。」

絆は真剣な顔で答える。
ジュンサーさんはそれを見て、同じく真剣な顔になった。

「そう。今まで呪われ魔女って呼び方しか聞いてないから、名前を知らなかった。
でも、素敵な名前ね。それに・・・あなたも素敵な友達ね。
わたしもまた何か分かったら、あなたに伝えるわ。
明日、またここに来なさい。わたしはここの近くにいるはずだから。
あなたの名前、訊いてもいい?」

絆は太陽のように明るい笑顔で答える。

「あたし、結心 絆です!よろしくお願いします!」

「今日はもう帰りなさい。もう、日が暮れてきたわ。」

「はい。あの、ジュンサーさん」

「なに?」

「ありがとうございます。」

絆は微笑み、そう言うとキリキザンと去って行った。
ジュンサーさんはその後姿を笑顔で見送った。

絆はキリキザンと共に家に帰ると食事もそこそこに早めに休んだ。

次の日。
絆は目を覚まし、食事をして朝のことを済ましてから
町へ出た。
今日はキリキザンを連れずに。
絆はジュンサーさんの元へ向かおうとしていたのだ。
だが、その前に絆は立ち止まった。
また、掲示板の前に人の集まりが出来ていた。
今回は昨日よりもかなり人が多い。
絆は昨日と同じように人とポケモンの間を掻き分けて前のほうへ向かう。
そして掲示板に貼ってあるものを見る。
今度は声にならないほどの驚きを表した。
これは嘘だ と思いたいために周りの声に耳を澄ましてみる。
だが、やはり これは嘘ではない ということが分かる。
掲示板に貼られていた紙には陽月の処分について書かれていた。


【お知らせ】

<魔女の処分が決まりました。
次期町長への暴行に加え、10年前の殺人罪
数々の町へ不幸をもたらし、さらには町同士の分離を図り崩壊へと繋げるという
何とも極悪非道なことをしてきたという罪から
それ相応の処分を決定いたしました。

魔女の処分


       『処刑』


実行は3日後といたします。


                    以上>



これもまたとても単純な理由だ。
全て無実の罪。
そんな罪を被り、陽月は3日後、殺される。
絆は目に涙を浮かべながら、また人とポケモンの中を掻き分け、ジュンサーさんの元へ向かった。
必死に走った。
そしてようやく、ジュンサーさんの元についた。

ジュンサーさんは慌ててきた絆に気づくと不安そうな表情を浮かべた。

「ジュンサーさん!!」

「絆ちゃん・・・」

絆は息を切らしながらジュンサーさんの前まで来ると慌てて訊いた。

「な・・・・な・・・・何なんですか・・・・・あれ・・・・ハアハアハア・・・・」

やっと息が整う。
ジュンサーさんは答えた。

「わたしもよく分からないの。今日急に決まったことで・・・。
また上の人の仕業みたい・・・証拠も何もないのに・・・・
殺人罪とか、町を壊滅させてきたとか、意味不明な罪を被せるし
桂木洋太様への乱暴は洋太様に怪我はないから傷害罪にも入らない・・・
全て、噂から来ている罪で決めている。
それで処刑だなんて・・・・頭がおかしいわ。」

「何で・・・そこまでして・・・・陽月ちゃんを怖がるんですか・・・・・・
その上の人たちは・・・・・」

「過去に白夜の家で問題があったみたいなの。
ほら、家を見て分かるでしょ?
他の家よりは大きいこと。」

「はい・・・・」

「白夜家はもう・・・そうね・・・1000年も2000年も前からある魔術師の家系なの。
どんなポケモンも従えることが出来て、会ったことのないポケモンはいないんじゃないか
って言われるほど長く続いてるの。
知らないことはないんじゃないかって言われるほど頭がいいとも言われてる。
白夜家は由緒正しい家系で文化も昔と変わらず守ってきた。
だから、大富豪の家に近いの。
そんな代々から伝わる家系にたった500年、600年しか続いていない町長の家系はいつか
白夜家にのっとられると考えたのね。
陽月ちゃんはやっと絶えたはずの白夜のたった1人の生き残り。
だから、またいつかそうなるんじゃないかって恐れて
陽月ちゃんを野放しには出来ないのよ。
この偶然訪れた機会に白夜を完全に潰すつもりなのよ。」

絆は説明を聞いて、目を見開く。
知らず拳を握り、震わせていた。

「陽月ちゃんは・・・・・・陽月ちゃんはたったそれだけのために・・・・・
3日後・・・・・いなくなっちゃうの・・・・・?」

「そうね・・・家同士の一方的ないざこざに陽月ちゃんは巻き込まれただけ。
それだけのことでまだ15歳なのに・・・・」

ジュンサーさんも悔しそうな表情を浮かべる。
絆はまた走り出した。

「あ、待ちなさい!どこに行くの?!」

ジュンサーさんの言葉に答えず、絆は建物の中に入ろうとする。
だが、2人の警備員が絆を取り押さえる。

「何だね君は!ここからは関係者以外立ち入り禁止だ!」

「離して!陽月ちゃんを助けるの!!陽月ちゃんは何もしてない!!
変なことに巻き込まれちゃっただけなの!!!
離してよ!!陽月ちゃんは何もしてないの!!
あの子は・・・・あの子はただ世界を・・・・光を・・・青空を見たかっただけなの!!
たったそれだけなの!!!陽月ちゃんは・・・・白夜陽月ちゃんは・・・・
誰も疑えない!!誰も憎めない!!誰も恨めない!!
誰も呪えない!!
誰も・・・・誰も嫌うことなんて・・・・出来ないの・・・・
あの子は・・・・全部受け入れてきた・・・・
全部理解してきた・・・・全部我慢してきた・・・・
全部諦めて・・・・・全部に償って・・・・
全部・・・・何もかも・・・・・されてきたことも・・・・・
人の罪も・・・・・ポケモンたちのことも・・・・・
全部全部・・・・・受け入れて・・・・・溜め込んで・・・・・
どんなことも・・・・・赦してきたの・・・・
陽月ちゃんは悪くない・・・・悪くないよ・・・・
なのに・・・・・・・・・なのに・・・・・・!!
こんなのひどいよっ!!!!」

絆はそう叫び、その場に座り込み、泣いた。
そんな絆を無理矢理立たせてそこから動かそうとする警備員達。

「やめなさい!」

そこへジュンサーさんが入ってきた。
警備員達は2人揃って敬礼する。
どうやらジュンサーさんは立場上、上の人らしい。
ジュンサーさんは絆の背中をさすりながら、立ち上がらせる。
そして少し落ち着ける場所へ移動した。

移動した場所にはベンチがあり、2人はそこに腰掛ける。
絆は下を向いて泣いている。
そんな絆の背中をジュンサーさんが優しくさすった。

「ひどいよっ・・・・・・こんなのっ・・・・・・おかしすぎるっ・・・・・
こんなのっ・・・・・・ただの勝手だよっ・・・・・」

絆はしゃくりあげながらもそう呟いた。

「そうね・・・・ひどいわよね・・・・権力のある人たちの勝手よね・・・・」

ジュンサーさんも寂しそうに目を瞑る。


その日の空は綺麗な青色の空だった。


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