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真心文庫
連行
墓参りの後の午後の町。
町には昨日訪れてきた時と同じようにポケモンのストリートパフォーマンスなどが行われて、賑やかだった。

そんな町の中を歩く陽月と絆。

「今日も賑やかだね。いつもこんなに賑やかなのかな?」

「そうかもしれない。私も町に頻繁に出ていたわけではないからな。」

「そうなんだ。」

そんな穏やかな会話を交わす。

洋太はそんな2人の後を何となくつける。
たまに洋太におばさんやおじさんが声をかけるが洋太は適当に挨拶をしてすぐに後をつける。
なぜ後をつけるか分からないが、何となく気になるようだ。
陽月の後姿を追う。
なぜか、陽月の後姿ばかりに目が行く。
洋太は不機嫌になりながらも後をつける。
後をつけてるうちに広い、ほとんど人がいない場所に出た。

広い場所に出て突然、陽月は立ち止まった。
絆も足を止める。

「え、あ、どうしたの?」

絆は突然足を止めた陽月を振り向いた。
陽月は少し険しい表情を浮かべながら後ろを振り返る。
絆も後ろを振り返ってみる。
そこには少年、洋太がいた。
洋太はいきなり振り返られ、バレたことに戸惑い、慌てている。
陽月は洋太を睨む。

「・・・・何のようだ」

「あ、や、いや、よ、ようなんてない・・・」

洋太は何とか答えた。
陽月は洋太をきつく睨んだままだ。

「ようがないのなら、帰るのだ。」

洋太はその言い方が頭に来たようだ。

「昨日からぼくに対して偉そうだな!ぼくを誰だと思ってるんだ!」

「ただの人だと思っている。」

「なっ・・・ぼくはこの町の次期町長だぞ!」

「それがどうしたというのだ。人には変わりない。」

陽月の正論に洋太は言い返せない。
そしてついに言い返せないことで乱暴に出た。
洋太は陽月に近づき、陽月の腕を掴んで引っ張った。

「何だ、離すのだっ」

「来い!ぼくがどれほどすごい人間なのか教えてやるっ!」

「や、やめなよ!嫌がってるよっ!」

絆が止めようと陽月の腕から洋太の手を引き離そうとする。
だが、さすがに男だ。
力はそこそこある。
陽月は洋太の手を思いっきり振り払った。
洋太はその勢いで尻餅をつく。

「いてっ!」

陽月は自分の腕を少しさする。
少し痛んだようだ。

「何なのだ。私に何か恨みでもあるのか」

陽月は尻餅をついている洋太を睨みながら問う。
絆は2人を交互に見て心配している。
洋太は何も答えない。

「ないのなら帰るのだ。お前にようなどない。」

そう言って陽月は歩き出そうとした。

だが

目の前に黒い服を着た男が3人、立ちふさがった。
陽月はさらに険しい表情を見せる。

「今度は何だ」

「呪われ魔女だな」

真ん中に居た男がそう言った。
陽月はその言葉に不機嫌そうな表情を浮かべる。
絆はいきなりのことで動けずにいる。
洋太はかすかに笑っていた。

「洋太坊ちゃまに乱暴を働くとは何事か」

「即刻、連行する。」

「えっ・・・あっ!ちょっと待ってください!陽月ちゃんは何も悪いことしていません!」

我に返った絆は言った。
だが、男たちは聞く耳を持たない。

「さっさと連れて行け。2度とぼくにそんなこと言えないようにね。」

「畏まりました。」

男たちは陽月の両腕を掴む。
陽月は男たちを睨み、洋太を睨む。
絆は必死に止めようとする。

「待って!陽月ちゃんは何もしてない!お願い!待って!」

「行くぞ」

「さっさと歩け」

男たちは絆を押しのけ、陽月のポケモンたちを押収し、ボールを特殊な箱に入れてから歩き始めた。
絆には何も出来ない。
洋太は勝ち誇ったように笑っている。

「どうだ、分かったか!ぼくに逆らうとこうなるんだ!」

そして笑いながら男たちと去って行った。
絆は陽月が見えなくなる前に叫んだ。

「絶対に助けるから!待ってて!」

陽月はほんの少し絆を振り返り、ほんの少し微笑んで小さく頷いた。

絆は陽月の家へと走り出した。
だが、結構距離があったのと絆の足がそんなに速くないことで50分かかった。
慌てて扉を開け、中庭へ向かう。
そこには仕事をしていたキリキザンがいた。
キリキザンは慌てて出てきた絆を不思議そうに見る。
絆は息を整えてからキリキザンに言った。

「陽月ちゃんが、陽月ちゃんが大変なの!何か昨日の人のせいで変な男の人たちに連行されちゃったの!
ボールも取り上げられちゃって、とにかく何も出来ないの!
お願い、一緒に助けに行こう!!」

絆から事情を聞き、キリキザンは頷いた。
そして一緒に町へ出る。

町に出るとなぜか人の集まりが出来ていた。
気になり、絆とキリキザンも集まっているところに行く。
どうやら掲示板を見ているようだ。
絆とキリキザンは人を掻き分けて前に出る。
そして掲示板に張られている紙を見て、目を見開いた。

「え・・・?何でこんなはやく・・・?」

絆は呟く。
その紙にはこう書かれていた。


【お知らせ】

<つい先程、10年前に町を追放されたはずの『呪われ魔女』を連行しました。
町の平和に支障をきたす存在です。
10年前の殺人罪に加え、今回は町の次期町長、現町長のお孫様である桂木洋太様に暴行を働きました。
この行為はこの町の未来に関わる重大なことです。
魔女の処分は後日、報告いたします。>


随分と単純な理由だ。
おまけに事実と違うことも書かれている。
というよりも全てが嘘だ。
絆とキリキザンは顔を見合わせ、頷き、急いで警察署へ向かった。


これが、歯車の動き出す、小さな合図だった。

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