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真心文庫
命日
朝。

陽月は目を覚ますと起き上がり、絆の眠っている部屋の扉を静かに開けた。
扉を少し開けてその間から覗いて見る。
どうやら絆も起きたばかりのようだ。
両腕を上に伸ばし、ベットに座ったまま背伸びをしている。

陽月は絆が起きていると知ると扉を開けて、部屋に入った。
絆は陽月に気づき、微笑む。

「おはよう。」

「・・・おはよう。」

陽月も小さく微笑む。

2人で1階に降りる。
そこにはキリキザンがいた。
キリキザンは昨日と同じように木の実を持って帰ってきていた。
だが、昨日よりも量は多い。
ポケモンたちの分も取ってきてくれたのだろう。

「キリキザン、ありがとう!」

「感謝する。」

絆はキリキザンに太陽のような笑顔を向けた。
陽月も微笑む。
キリキザンも2人に笑い返し、庭に出て行った。

陽月と絆はボールからポケモンたちを出す。
そして1つずつ、木の実を渡す。
全員で食事を終えたところで2人はポケモンをボールに戻し、朝することをしてから外に出た。

朝の町は店準備やポケモンの散歩などその日の始まりを知らせるようなことをしている。
とても、のどかなどこにでもある風景だ。

「穏やかな朝だね。」

「ああ・・・・」

陽月は微笑んでいた。
だが、その微笑みはやはりどこか寂しそうで
少し悲しそうだった。
絆はそんな陽月の手を取り、繋いだ。
陽月は絆を目を見開いて、振り向いた。
絆は笑顔を向ける。

「行こ。キリキザンにも綺麗なお花、もらったし。
きっと、陽月ちゃんの両親も、陽月ちゃんに会いたがってる。
あたしも陽月ちゃんのお父さんとお母さん、会ってみたいし」

そう言うと太陽のような笑顔を向けた。
陽月はそれに微笑む。

「ああ。行こう。」

2人は手を繋ぎ、陽月の両親の元へ向かった。
その様子を1人の人間が見ていたことに気づかず。

陽月と絆は墓場に着いた。
陽月は真っ直ぐと墓の間を歩く。
絆はその後についていく。
そして着いた場所は海がよく見える丘の上だった。
そこには小さな墓が1つあるだけで周りには他の墓はない。
陽月はゆっくりとそれに近づく。
そしてしゃがんだ。
絆も隣にしゃがむ。

「これが・・・?」

陽月は頷いた。
そして墓の前に刻まれている文字に触れる。


BYAKUYA


そう書いてある。
そしてその下には2つの名前。


YAKUMO SORAMI


「八雲・・・さんと・・・空海・・・・さん?」

「父は白夜 八雲。母は白夜 空海だ。」

そう言うと、陽月は絆が持っていた花を受け取り、その名前の上に花をそっとおいた。
そして目を瞑り、手を合わせる。
絆も同じように目を瞑り、手を合わせた。
それぞれ空海と八雲へ挨拶する。
絆は初めて会う2人に自分のことや陽月に救われたことを伝えた。

「(初めまして。結心 絆です。陽月ちゃんの・・・親友です。
陽月ちゃんには本当に救われました。
あたしにとって、陽月ちゃんは初めての友達で
すっごく大事で大切な存在です。
まだ、陽月ちゃんのこと全部分かったわけではないですが、それでも
少しずつ、分かるようになれたらいいなって思ってます。
これからも陽月ちゃんと仲良くさせていただきます。
ありがとうございました。)」

絆はそう挨拶を終わると目を開け、手を下ろした。
そして隣の陽月を見る。
陽月はまだ手を合わせている。
それに絆は微笑んだ。

「(父様、母様、帰ってきました。この10年、顔も出さずに申し訳ありませんでした。
この10年、私はたくさんのことを経験しました。
あまりいいことはなかったけれど、それでも、小さくとも嬉しいことならあります。
最初に絆に出会いました。絆は私の初めての友達です。
私を初めて友と呼んでくれました。大切な存在です。
他にも聖獣学園という場所にも出会いました。
あの日から何も楽しめなくなっていた私もあの場所を楽しいと感じることが出来ました。
仲間と呼べる者たちにも出会いました。
きっと忘れることはないでしょう。
そして・・・・私には・・・・・初めて、心から愛していると言える
そんな愛しい人がいます。
今は離れて少し寂しいけれどまた全て終わらせたらみんなに
逢いに行こうと思います。
父様、母様、私はもう 呪われ魔女 ではありません。
呪われ魔女の運命をここで終わらせます。
そして、今度は 白夜陽月 として生きます。
今度はみんなと笑っていられるように。
姉様に言われたように少しずつ、変えようと思います。
今度はいつ帰ってくるか分かりませんが私は絆と、仲間たちと、大切な人たちと、ポケモンたちと
一緒に笑って過ごして、帰ってきます。
父様、母様。・・・・行って来ます。)」

陽月は目を開け、手を下ろす。
そして絆に振り向いた。
絆は陽月を見て、微笑んだ。
陽月もそれに微笑み返した。

2人は立ち上がり、海を少しの間見てから、元来た道を歩き出した。

その様子を少し遠くのほうで見ていた人間がいた。
さっき町で2人の様子を見ていた人間だ。

「あれって・・・墓参り?そういやあれの親・・・・10年前に雷で・・・・
あれの呪いだと思ってたが・・・・
わざわざまた追放されるかもしれないところにこの日のためだけに・・・・・・
しかも、ぼくがいる町に・・・・いや、ぼくのこと忘れてたみたいだけど・・・・
本当に覚えてないのか?ぼくがしたこと・・・・」

その人物、桂木洋太は独り言を言っている。
そして思い返してみた。
昔、小さな頃、陽月にしたことを。

洋太は5つの頃から成金のお坊ちゃんだった。
いつもポケモンや自分の持っているものを自慢するなどして
仲間を作っていた。
そんな洋太はある日、丘の上にある家の家族の話を聞いた。
その家族は代々から魔術師の血が入っているらしく
どんなポケモンとも仲良くなれたことから、いつか暴走したポケモンたちを使って
町を破壊するのではないかと恐れられていた。
幼い洋太はそれを聞いてその家族を襲撃しようと考えたのだ。
そして仲間たちを連れて丘の上まで行き、家の呼び鈴を鳴らした。
中から声が聞こえた。だが、その声は自分たちと同じくらいの少女の声だった。
そして扉が開く。
中から出てきたのはやはり自分たちと同じくらいの少女だった。
少女は不思議そうに洋太たちを見ていた。

「誰?」

洋太たちは出てきたその可愛らしい少女に少し見惚れていたが
すぐに敵意のある目で少女を睨んだ。

「おまえ、まじょだな!」

「魔女・・・?・・・うん、多分。」

少女はまだ不思議そうにしている。
それを聞いた洋太たちはまだ進化もしていないポケモンたちを出した。

「おまえら、かかれー!」

洋太の言葉とともに仲間たちはポケモンに指示を出す。
だが、やはりまだ小さなポケモンということだけあって
出せる技が少ない。
砂かけ、水遊び、鳴き声・・・それらが限界だった。
だが、砂かけでは少女の顔に砂がかかり、水遊びで少女は水を被る羽目になった。
少女は目をこする。

「どうだ!まじょめが!ぼくたちのちからをおもいしったか!」

洋太は自慢げにそう言った。
少女は顔を上げた。
涙が浮かんでいる。
洋太と仲間たちはそれを見て少し「やばい」と言うような顔をした。
泣くと思ったのだ。
実際は目にゴミが入って涙が浮かんだだけなのだが・・・
そんな洋太たちの目の前に自分たちのポケモンとは比べ物にならないほど強そうなダークライがいた。
ダークライは洋太たちを追い返した。

「うぅ・・・目に何か入った・・・・何しにきたの・・・・ひどいよ・・・・・」

少女はそう呟くとダークライと共に家の中に入って行った。

洋太はそれを思い返すと少し考えた。
なぜあんなことをする必要があったのか、と。
今思えばただ女の子を泣かせただけだ。
特に何もしていない。
そう思うと少し苦虫でも噛んだような表情を作った。
そして陽月の後姿を見ながら、今度は不機嫌そうな顔をした。

「・・・ケッ。何だよ。ぼくが悪いことしてたみたいじゃんか・・・。」

洋太はそういうと歩き出した。


空海も八雲も羽月もきっとどこかで見守っている。
だが、この後、少し事件が起こることになる。

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