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真心文庫
恋心
洋太が去ったところで、キリキザンは早速、少し荒れた芝生を綺麗にしている。

「折角だ。ここでポケモンたちを遊ばせるのも悪くない。」

「そうだね!あたしも遊ばせたい!」

絆は目を輝かせて言った。

「キリキザン、そうしてもいいか?」

陽月はキリキザンに訊く。
キリキザンは快く頷いた。

「よーし!早速・・・みんな!出ておいで!」

絆はそう言うと残り5つのボールを取り出し、宙に投げる。
中からシャワーズのアクア、サンダースのボルト、ブースターのフレイ
リーフィアのハーブ、グレイシアのアイリが出てきた。

「みんな、遊んでおいで!」

絆のその言葉で6匹は楽しそうに走り始めた。
陽月はその様子を見ると少し微笑んで、自分もボールからポケモンを出した。
ストレーガとダークライのスコトス、クレセリアのルナ
エーフィのアウラとブラッキーのアウル、メロエッタのルーチェだ。
陽月のポケモンたちはとても懐かしそうに辺りを見渡す。
そしてストレーガ、アウラ、アウル、ルーチェは好きなように遊び始めた。
スコトスとルナはキリキザンに気づくと最初は驚いた様子だったがすぐにお辞儀した。
キリキザンはそれに小さく頷く。
そして、また仕事に戻った。
スコトスとルナものんびりと過ごし始めた。

絆は小さなポケモンたちと戯れている。
とても楽しそうだ。

陽月は昔から好きだった丘の上にある大きな木の根元に寄りかかって、ポケモンたちや絆が遊んでいる姿を見て、微笑んでいた。
そして、午後の綺麗な青空を見上げた。
心地のいい風が吹く。
懐かしいのとほんの少し寂しいのが混ざった気持ちで立ち上がる。
そして、木の後ろ側に広がる青空と海原の景色を見渡した。
優しい海風が頬を撫でる。

「・・・・・・帰ってきたのか・・・・・。」

陽月は呟いた。
今までのことを思い返してみる。
本当に色々なことがあった。
この10年、呪われ魔女として生きてきた。
だが、それももうすぐ終わる。
いや、終わらせる。
呪われ魔女の歴史を終わらせ
再び、白夜陽月として始めるのだ。
新たに道を始める。
今度はみんなと笑っていられるように。

数時間後、日が落ちてきた。
そろそろどこかに入らなくてはならない。

「絆、しばらくここに泊まらないか?」

陽月はボールにポケモンたちを戻しながら、同じくボールに自分のポケモンを戻している絆に訊いた。

「うん、いいけど・・・大丈夫かな?不法侵入とか何か言われないかな?」

「誰も何も言わないだろうな。ここは元々私の住んでいた場所だ。
それに怖がって誰も近づかないだろう。」

「それなら・・・いいんだけど・・・」

絆はやはりまだ少し心配のようだ。
陽月はそんな絆に微笑む。

「心配するな。不法侵入だったとしても学園に侵入したときと大差ない。」

絆はそれを聞くとその時のことを思い出し、笑った。

「そうだね。」

今度は陽月は仕事を終えたキリキザンを振り向く。

「ということなのだが・・・しばらく、ここに泊まっていても良いか?」

キリキザンは当たり前だというように笑顔で頷いた。
陽月も微笑み、頷く。
2人とキリキザンは家の中に入る。
そして2人は2階に上がる。
上がった先にはいくつか部屋があった。
その中の1つの扉に陽月は手をかけ、扉を開け、中に入る。

部屋に入ると窓際にベットが置いてあり、ベットの下には大きな箱
近くの壁際には勉強机のような机と座るための椅子、その机の横には本が詰まった本棚
反対側の壁際にはクローゼットと姿見が置かれている。
どれも子供用だ。

「昔の私の部屋だ。」

「陽月ちゃんの?」

陽月は頷いた。
放っておかれていたためか結構埃を被っている。

「後で埃を掃えば使えそうだな。」

そう言うと2人は部屋を出た。

「ねえ、陽月ちゃん。こっちの部屋は?」

絆は陽月の隣の部屋を指差す。

「姉様の部屋だ。」

陽月はそう言うと姉・羽月の部屋の扉に手をかけ、扉を開け、中に入る。
羽月の部屋には同じように窓際にベットが置いてあり、机と椅子が置いてあるだけの殺風景な部屋だ。

「姉様は私の生まれた日にどこかへ去ってしまった。
きっとそのままにしていたのだろうな。」

「へー・・・」

絆は部屋を見渡す。

「私はこの部屋を使おう。絆、君は私の部屋を使うといい。」

絆はそれに微笑み、頷いた。

「ありがと、陽月ちゃん。」

部屋を出て扉を閉める。
そして2人は1階に降りた。

1階の降りるとキリキザンが木の実を持って待っていた。
どうやらわざわざ取ってきてくれたらしい。

「すまないな、キリキザン。感謝する。」

陽月はキリキザンに微笑んだ。
キリキザンは3つある木の実のうち2つを1つずつ陽月と絆に渡す。
そして自分も木の実を食べた。
2人も木の実を食べる。
その日の食事はそれだけで済ました。

夜。
陽月と絆はとりあえず寝るためのベットの埃を綺麗に掃うとそれぞれ休むことになった部屋に入った。

「お休み、陽月ちゃん。」

絆が笑顔でそう言うと陽月も微笑み返す。

「お休みなさい。」

2人はそれぞれの部屋に入った。

陽月は羽月の部屋に入るとゆっくりとベットの上に座った。
そして靴を脱ぎ、足をベットに乗せる。

外は月の光で明るかった。
その光は部屋の窓にも差し込む。
陽月はしばらく外の月を見上げていた。
そしてふと思い出したように首に触れる。
だが、そこに取ろうとしたものはなかった。

「クリスタル・・・」

そしてまた思い出したように今度は月の輝いている空を見上げる。

「テルミ・・・・・・・・・」

陽月は呟くと軽く自分の唇に触れた。
羽月からもらった陽月が絶対に誰であろうと渡さないと決めていた
あの唯一無二、大切なクリスタルは陽月のこの世でたった1人の大切な愛する人に渡したのだ。
陽月はそれを想うと知らず優しい笑みがこぼれた。
そして目を瞑り、少し恋しがるようにその愛しい人の顔を思い浮かべる。
再び目を開けると月を見上げた。
しばらく、その月を飽きることなく見上げた後、陽月はベットに横になった。


ほんの少しの恋心だった。

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あきゅろす。
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