[携帯モード] [URL送信]

真心文庫
少年
そんなキリキザンとの再会をほんの少し懐かしいと感じていた陽月は思い出したように絆を呼んだ。

「絆。」

丘の上で駆け回り、イーブイと遊んでいた絆は陽月に呼ばれて陽月の元へイーブイと一緒に駆け寄った。

「どうしたの?あれ?」

絆はキリキザンの存在に気づくと少し首を傾げた。

「父様のポケモンだったキリキザンだ。
今もここが変わらない姿を保っているのはキリキザンが静かながらもここを守ってくれていたからなのだ。」

キリキザンは絆にお辞儀する。
絆も思わずつられてお辞儀した。
絆の足元で座っていたイーブイも同じようにつられてお辞儀した。

「こんにちわ。あたしは結心 絆。陽月ちゃんの親友だよ!」

絆は太陽のような明るい笑顔をキリキザンに向ける。
キリキザンもそれに笑う。
陽月も穏やかな微笑みを浮かべていた。

その時

屋根の上から少年の声が聞こえた。

「ケッ。どっかで見たようなものだと思って来てみりゃあ・・・・町追放された化け物じゃん。」

陽月はその言葉に険しい表情をし、屋根の上を見る。
やはりそこには少年が立っていた。
見た目からして、しつこい、鬱陶しい、自己中で金にものを言わせてきたようなお坊ちゃんだ。

「・・・・・。」

陽月は少年を睨みつける。
歳は同じくらいだ。
絆はこの2人を交互に見ながら心配そうにしている。
イーブイは怖がって絆の後ろに隠れる。
キリキザンはいつでも攻撃できる態勢をしている。

「おー怖いねぇ。お前みたいな魔女にはお似合いな目つきだよね。」

少年はそう言って笑う。
陽月は顔色表情1つ変えず、明らかな敵意を込めた目で少年を睨み続ける。

「なに?ぼくのことが懐かしすぎて声が出ないってか?」

陽月はそれを聞くと睨むことを続けながらさらに険しい顔をする。
そして一言。

「誰だ、お前は」

逆に少年が驚いたようだ。
足を踏み外して屋根から転がり落ちそうになっていた。

「知らない・・・?」

少年は目を見開きながら訊く。

「陽月ちゃん、知ってる人なの?」

絆は不思議そうに首を傾げながら陽月を見て訊く。

「知らない。記憶にない。」

少年は今度こそ屋根から滑り、キリキザンのいた場所に落ちてきた。
キリキザンは少年を避ける。
少年は地面に腰を打ちつけ、「いってぇ!!」と大声で叫んだ後、痛がりながらも立ち上がった。

「ぼくを知らないとよく言えたな!」

「知らないものは知らないのだ。誰だお前は」

どうやら陽月は本当に知らないようだ。
少年はプライドか何かを傷つけられたような顔をしたがすぐに成金特有の偉そうな表情をする。

「ぼくはこの町の町長の孫、弱冠15歳という年齢で次期町長の座を約束された将来有望
ポケモンバトルも成績優秀、手に入らないものはない
というより、ぼくにないものはないと言っていいほどの権力者
桂木 洋太(かつらぎ ようた)!」

洋太と名乗った少年は誇らしげに自慢も入れながら自己紹介をする。

陽月、絆、キリキザン、イーブイは揃ってこのナルシストに少し哀れなものを見るような視線を向けていた。
その視線に気づいた洋太は不機嫌にしている。

「分かったか!」

「・・・とりあえずは分かったけど」

絆は少し間を置いてから言った。

「そんな人間が私に何のようだ。」

陽月は再び洋太を睨みつけながら訊く。

「ここは化けもんが帰ってきていい町じゃないんでね。さっさと出て行ってくれないかな」

洋太は陽月に嘲笑うような笑みと殺気を放つ目でそう言う。
陽月はさらに洋太へ敵意を表すような目で睨む。
さっき感じた殺気の視線はどうやら洋太の物だったらしい。

「拒否する」

陽月ははっきりと言った。

「誰に向かってそんなこと言ってると思ってんの?」

「お前だが何だ?」

洋太は陽月の言い草にカッと来た。
そしてポケットからモンスターボールを取り出す。

「人がせっかくお前みたいな化け物にも優しく出るよう言ってんのに・・・力ずくじゃないとわっかんないかな」

そしてボールのスイッチを押す。

「ぼくが勝ったら大人しく出るか、残りたきゃぼくの下につくんだね。」

「戯けたこと」

陽月のその言葉で洋太はポケモンを出した。
洋太の出したポケモンは

エレブー

それに対して陽月のポケットのボールから勝手に出てきたのは

ムウマージのストレーガ

絆はイーブイを抱きかかえ、キリキザンと共に邪魔にならないような場所に移動した。

「ぼくはこの1匹で戦ってやるよ。まっ、せいぜい6匹で頑張るんだな」

洋太は挑発的なことを言って笑う。
陽月は洋太を無表情に睨みつける。

ストレーガとエレブーが向き合う。

「いけエレブー!電気ショック!」

「かわせ」

エレブーがストレーガへ電気ショックをしたがストレーガはそれを素早くかわす。

「催眠術」

そしてエレブーの真ん前まで移動し、催眠術をかける。
エレブーはすぐに眠りに入った。

「あっ!エレブー!起きろ!さっさと起きろ!」

洋太がどんなに叫ぼうとエレブーは目を覚まさない。

「マジカルリーフ」

ストレーガは眠っているエレブーにマジカルリーフを撃つ。
エレブーはもろ喰らう。
表情は辛そうだが催眠術で目を覚まさない。

「起きろ!お・き・ろ!エレブー!役立たず!起きろ!」

エレブーは洋太から怒鳴られても目を覚まさない。

「どくどく」

そんなエレブーにさらにどくどくが襲う。
勿論避けることは出来ないため毒がエレブーを蝕む。

「おいエレブー!何寝てんだよ!さっさと起きろ!起きるんだ!」

そしてやっとエレブーは目を覚ました。
だが、目を覚ましたところで猛毒のせいで上手く動けない。
毒は確実にエレブーを蝕む。

「やっと起きたか!電光石火だ!」

エレブーは頑張って電光石火をしようとしたが毒で動きが鈍い。
ストレーガはそのままそれをかわす。

「エナジーボール」

ストレーガのエナジーボール。
電光石火のすぐだったため、エレブーはかなり至近距離からそれを受けた。
急所に当たる。
さらにどくどくの効果による猛毒。
エレブー、戦闘不能。

「おいエレブー!起きろよ!この野郎!
さっさと立ち上がって反撃しろよ!お前それでもポケモンかよ!」

洋太は戦闘不能でおまけにまだ毒に蝕まれ、倒れているエレブーに叫ぶ。
エレブーは戦闘不能になりながらも主人の期待に応えようと身体に鞭打ってまで動こうとしいている。
だが、毒の回ったその身体で戦うことは無理だ。

絆がとても心配そうにイーブイと一緒にエレブーを見ている。
キリキザンはエレブーの姿に少し目を瞑っていた。
洋太はまだ「戦え!」と叫んでいる。
余程、認めたくないのだろう。
この町では負け知らずだった自分がこんなにも容易く、しかも女に負けたということを。

陽月は毒に蝕まれているというのに立ち上がろうとするエレブーを見て、ため息をつく。
そして絆に歩み寄った。

「陽月ちゃん?」

「毒が強すぎたようだ。毒消しを持っているか?」

「うん、いっぱい持ってるよ。ちょっと待ってね。」

絆はイーブイを地上に降ろすと背負っていた鞄を自分の前に持ってきて中を探り始めた。
そしてポケモン専用と思われる薬箱を取り出し、中から毒消しを出した。
それを陽月に渡す。

「はい、毒消し。」

「ありがとう、絆。」

陽月は絆に微笑んだ。
絆もそれに笑い返す。

陽月はエレブーの近くでエレブーを少しだけ心配そうに見るストレーガに毒消しを渡した。

「飲ませてやるといい。」

ストレーガは一応自分が使った技でエレブーが苦しんでいることを悪いと思っていたらしく
素直に毒消しを受け取り、エレブーの口の中に放り込む。
エレブーは毒消しを飲み込むとだんだん苦しみも減ってきたらしく、安らかに眠り始めた。
洋太はそれを険しい顔で見た後、陽月とストレーガを睨んだ。

「ぼくに恩を売る気?」

陽月はそれに小さく冷たく笑う。

「フッ・・・。誰が好きでお前に恩を売るか。
ポケモンが苦しがっているのはあまりいい気がしないものでな。」

陽月はそう答えるとボールにストレーガを戻した。
そして絆とキリキザンがいる方へ歩み寄る。

絆は再びイーブイを抱えて陽月に微笑んでいた。
キリキザンはこの10年、色々あったのにも関わらず
未だに優しさが衰えない、むしろもっと優しくなっている陽月を微笑ましく思っていた。

洋太はエレブーをボールに戻すと偉そうに言う。

「今回は見逃してやる。ぼくも忙しいんでね。
魔女とそのお友達にいちいち構ってられないんだ。
分かったら早めにこの町出て行くんだな。」

洋太はそう言うとブツブツ文句を言いながらその場を去った。

「一体、何しに来たんだろうね?」

「知らない。関係ない。どうでもいい。」

絆の言葉に陽月は本当にどうでも良さそうに答える。
そんな陽月に絆は困ったような笑顔を向けた。


これが桂木 洋太という、後に厄介な存在となる少年との出会いだった。

[back][next]

4/30ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!