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真心文庫
再会
丘の上につくと2人はその立派な、でも人気を感じない家の前で立ち止まった。
陽月はその家を懐かしいものを見るような、でも悲しそうな表情を見せる。

「ここが私の住んでいた家だ。」

「ここが陽月ちゃんの?」

陽月は頷いた。
そしてゆっくりと扉の前に歩み寄る。
絆もその後ろにつく。
陽月はドアノブに手をかけた。
そして少し躊躇いながらもその扉を開ける。
鍵は閉まっていないようだ。
ゆっくりと扉を押して、中に入った。

2人は中に入る。
陽月は周りを見渡した。
何1つそこは変わっていなかった。
そこにあったものは埃や塵をたくさん被っているだけで
何も変わっていなかった。
家の所々が古くなり、朽ちていたり、イトマルやコラッタが住みついているがそこは陽月が捕まった時のままになっていた。

「随分、古くなっちゃったみたいだね。」

絆は辺りを見渡しながら言った。

「もう10年、このままになっていたようだ。
だが、ここを出たときと何1つ変わっていない。」

陽月も辺りを見渡す。
その時、本棚が目に入った。
陽月はその本棚に近づき、1番上の棚を見上げる。
本も全てそのままになっているようだ。
今では5つの頃には届かなかった棚に簡単に届くようになっていた。
だが、やはり1番上から3つには届かない。
そこで陽月はルナを出した。
ルナはまた昔のように陽月を乗せ、浮かぶ。
陽月はそれで1番上の棚に乗っていたある本に手が届き、それを取るとルナは陽月を地上に降ろした。
陽月はルナの頭を撫でながら微笑んだ。

「ありがとう。」

ルナはそれに微笑み返し、ボールの中に戻って行った。

陽月は手に取った本を見た。
それはあの黒い、国語辞典ほどの大きさの本だ。
凝ったデザインの表紙には名前がない。
陽月はその本を開いた。


白夜ノ一族 永遠(とわ)ニ眠リシソノ力(ちから)
解キ放タレタ時 人ナラザルモノ 蘇ラン


最初のページに書いてあることだ。
そしてページをめくっていく。
陽月は最後のページ、自分の中に眠るミレニアム宛だと思われる手紙のような内容を読んだ。


無よ。

あなたの怒りは

決して憎むためのものではありません。

あなたの怒りは

人を救うための怒り。

それを忘れないように。

そしてあなたは

人を愛しなさい。

そして赦されるのであれば

愛されなさい。

幾千の願いを叶え

全ての人に祝福を

あなたの命は

人の幸せを

愛を

感じたときに

初めて生み出される。

無よ。

あなたには

信じる力と

人を想う心が

ちゃんとありますよ。

誰よりも何よりも

強く持っています。

あなたに

祝福あれ―


陽月は本を閉じた。
そしてそれを自分の鞄の中に入れる。

その時、辺りをウロウロしていた絆が陽月を呼んだ。

「陽月ちゃん」

「どうした?」

「あの扉の向こうって何なの?」

陽月は絆が指差す方向を見てみた。
扉がある。

「あの向こうは中庭だ。丘の上に続いている。見てみるか?」

「うん!」

絆は嬉しそうに頷いた。
陽月は扉を開け、中庭に出る。

さっきまで暗い家の中に居たためか、昼の太陽が昇っている外に出たとき、少し目を細めた。
そして目を開ける。
そこは10年前も変わらない姿を保っていた。
陽月はそれに目を見開いた。

「すっごーい!綺麗!」

絆ははしゃいで中庭に出た。
陽月は驚きで少し立ち止まっている。
そこは何も変わっていなかった。
10年経っているというのに何1つ変わっていなかったのだ。
雑草も余計な草も生えていない。
5つの頃に遊んでいた時と全く変わっていなかった。

「一体・・・なぜ・・・?」

その時、屋根の上からガサゴソと何かが動き回るような音が聞こえた。
陽月は上を見上げる。
そこにいたのはポケモンだった。
そのポケモンは陽月を見つけると少しして、驚いたようにそこからすぐに降りてきた。
そして陽月に跪いた。
陽月は目を見開く。
そのポケモンは キリキザン だ。
しかもそれはただのキリキザンではない。
陽月の父・白夜 八雲のポケモン。

「キリキザ・・・ン・・・・か?」

陽月は驚きながらも訊いた。
キリキザンは立ち上がり、頷く。

「君は・・・私や父様がいなくなった後も・・・ずっとここで?」

再び頷いた。
キリキザンは八雲のポケモンであり、この中庭の世話をしているポケモンだった。
八雲や八雲の妻である陽月の母・白夜 空海、娘である陽月にはとても忠実で
言いつけは絶対に守るポケモンだった。
キリキザンは昔、八雲に「しっかり守ってくれ」と言われたことがあり誰も居なくなった今でも
その言いつけを守っているのだ。

「キリキザン・・・ありがとう」

陽月はキリキザンに微笑んだ。
キリキザンは陽月にお辞儀する。
だが、とても辛そうな表情だ。

「どうしたのだ?」

陽月はそう訊くとキリキザンは頭を下げたまま、動かなくなった。
陽月は最初、どうしたのか分からなかったが、何となく、分かった。

「君・・・・・・・あの時、いなかったことを・・・・・後悔しているのか?」

キリキザンはそれを聞くと更に頭を下げた。
「あの時」とは陽月が捕獲された時のことだ。
その日、キリキザンは埋葬の後、主人に別れを告げ、しばらくその場を動けずにいた。
最初、他のトレーナーの元にいたコマタナだったキリキザンは「使えない」と言われ、捨てられた。
そんなコマタナを偶然見つけ、笑顔で家族として迎え入れたのが八雲だった。
コマタナは見事にキリキザンへ成長し、陽月が生まれる前からずっと庭の世話をしてきた。
本当ならコマタナの時点でまだこの世にいたかどうかも分からなかったキリキザンは
八雲に救われて、恩返しとして一生をここに費やすと決めたのだ。
その決意を再び墓前で誓った後、八雲から教えられた
庭仕事で鍛えられた業で目立たないが、綺麗に墓に花を供えた。
そして八雲の娘である陽月のいるはずの家に帰った。
だが、そこには誰もいなかった。
あったのは乱暴に開けられた痕跡のある扉と何かが暴れたような跡だった。
キリキザンは後悔しているのだ。
最初は色々な場所を探し回った。
だが、後から知った。
陽月が両親を殺した罪で牢獄に入れられていることを。
そして出てきたところで町から追放されること。
キリキザンには迎えに行くことが出来なかった。

そんなことを思いながら頭を下げているキリキザンに陽月は手を置いた。

「これも運命だったのかもしれない。
もしも何かしていたら、何か変わっていたのかもしれない。
でも、私は、今ではあれでよかったと思っている。
あまりいいことはなかったが、それでも・・・
それでも私は絆に出会うことが出来た。
絆という存在に、本当の友に、出会うことができた。
そして、聖獣学園という楽しい場所にも出会うことが出来た。
色々な仲間たちに出会うことが出来た。
初めて・・・心から愛おしいと想える
心から愛していると言える
そんな人間に出会うことが出来た。
私の今までは無駄ではなかったと今ならはっきりと思える。
私がここに来た理由は2つ。
1つは明日の命日のためだ。
そしてもう1つは・・・」

陽月は一旦言葉を切った。
キリキザンは頭を上げる。

「呪われ魔女を捨て、白夜陽月として生きるためだ。
もう私は囚われない。
これからは白夜陽月として生きよう。
呪縛から開放されるのだ。
また、はじめからやり直そう。
今度は絆と、仲間たちと、愛しい人と笑って過ごせるように。」

そう言って笑った。
キリキザンはその笑顔を見て涙を流した。
そしてまた頭を下げる。


こうして懐かしいポケモンとの再会を果たしたのだった。

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