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trip
2話

 

「親方様!」

 

2人に連れられ屋敷の外にでると、茶髪の男性が黒ずくめの男たちを率いて立っていた。男はこちらに気付くと、

ゆっくりとこちらに歩を進めながら、おお、と返事をする。

 

「ラルにオレガノ、ご苦労。……その子は?」

男は怪訝な顔をしている。

 

「さあな。奥の部屋のクローゼットに隠れていた。」

 

「妙なんです。この子、リストに載っていません。」

 

「…穴があったわけでも無いだろうしなぁ」

 

男はやれやれ、とため息を吐きながら、名前を見る。まだ幼い顔つきに、遠い日本にいる愛する息子の姿を思い出

させた。息子もこのくらいの年だったかな?と推定する。

笑みを含ませた顔で、男はしゃがんで名前と同じ目線になる。

 

「お嬢ちゃん、お名前は?」

 

「…苗字名前

 

「そうかぁ、名前ちゃんかぁ!おいちゃんにもなぁ、名前ちゃんくらいになるせがれが日本にいるんだ。

 …名前ちゃんは、どこから来たのかな?お母さんは?」

 

「…ここ、どこですか?」

 

「………ここはナポリ。南イタリアだよ」

 

イタリア。誰でも知っている地名に、名前は眉を寄せる。数刻前までは日本にいたはずなのに。名前は目の

前の男の言う言葉に混乱した。

 

「見たところ名前ちゃんはここの子じゃないみたいだけど、旅行で来たのかい?」

 

男の質問に首を振る。

「…あの、さっきまで家の近くの神社にいて、起きたら、ここのお屋敷の廊下にいたんです。」

 

「………。」

 

名前の言葉に、周囲の人々はみな当惑した様子になり、名前は俯く。

…やっぱり、信じられないよね。

そんな中、目の前の男は白い歯を見せ、こう言った。

 

「そうかそうかぁ!名前ちゃんは、日本から来たのかぁ!」

 

名前を含めた周りは、男の言葉に唖然とした。

 

「…おい、家光。信じるのか。こんな訳の分からない、下らない話に」

 

「本人はこう言ってることだしな。…それに、訳の分からないことは、この世界にはよくある話だ。」

 

「……。」

 

言っている意味はよく分からないが、ともかく信じてもらえたようだ。名前は安堵する。

 

「…さて、お嬢ちゃん。行く先が無いようだけれど、どうする?」

 

「え…?」

 

「!親方様!このような幼い子を、まさか引き込むおつもりですか!?」

 

名前をここに連れてきたもう1人の女性、オレガノが慌てて言う。

 

「ああ。見られてしまった以上、仕方がない。

…この子を別のところに預けるのなら、口止めをしなくてはならないからな。」

 

そういい、家光はおもむろに懐から拳銃を取り出し、名前の眼前に突き出した。チャキッ…と、金属独特の鈍い音が

静かな空間に響く。名前は何が起こったのか分からず、呆然としている。

 

「お嬢ちゃん、おいちゃんのところで働くかい?」

 

話し方は先ほどと全く同じはずだが、口調が冷たい。視線も鋭く、先ほどまでの空気が嘘のようである。悪い意味で。

しかし名前は、ゆっくりと、だが、確実にその首を縦に振った。

 

「…行きます。行って、おじさんのところで頑張って働きます。」

 

「……辛いことばかりだよ?それでも来る?」

 

「はい。」

 

小さな少女の瞳に瞬く炎を、家光は見逃さなかった。

 

「…そうか。良いだろう。ようこそ、苗字名前ちゃん。

 俺はボンゴレファミリー門外顧問『CEDEF』の沢田家光。

 

 今日から君も、ファミリーの一員だ。」

 

 



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あきゅろす。
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