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いっそ殺して
※イザシズ気味です。










白い君と黒い俺の間の灰色は、





『ねえねえ』
『なあに?』



こんな風な会話はごく日常的なことだ。
何ら特別なこともないし、意識して生み出されるものでもない。

呼べば応えてくれる、それだけなのだから。



ならば、ここでも一つ、目の前の相手に応答を求めてみよう。
今にも泣き出しそうな顔を覗き込んで。


「……シズちゃーん」

「………」

「………あの、」
「………」
「…聞いてる、かな?」
「………」
「さっきから、呼んでるんだけど、…」


無意識的に返ってくるはずの言葉が、返ってこない。


人形に話しかけているようなその光景は実に寂しく、まるで独り言をひたすら喋っているかのようだった。

彼は、人間の感情をコントロールすることを得意としたが、彼にもそれが通用しない相手がいるのだ。


それが、たまたま平和島静雄という存在だっただけで。



「…そろそろこたえてくんないと…泣いちゃうよ、俺」
「………」
「……あのさあ、」
「……泣きたいのはこっちのほうだ」

…………。

必然的に言葉が詰まって、沈黙が続く。

――何やってんだか…。
臨也は近くの壁にもたれかかって、胸に残るもやもやを吐き出すように、一つ大きな溜め息をついた。
そもそも、何故このような息苦しい空気になってしまったのか。
事の発端は彼、折原臨也自身だった。




自分の唇を一生懸命ごしごしと服の袖で拭く静雄の様子が窺えるように、
臨也は先ほど、嫌がる静雄に無理やり口付けをした。

それはそれは品の無い、強引で唐突なものだったのだが。

もはや日常茶飯事ともいえる喧嘩を始めて、いつしか路地裏にたどり着き、追い詰められた臨也のとった行動がソレだったのである。
ほんの出来心が、そこまで相手を傷つけるとは。

(…ま、あっちは俺のことなんてゴミクズとしか思ってないんだろうから、当たり前っちゃ当たり前か)

―でもそこまであからさまにヘコまれると流石に傷つくよ。決して口には出さないが、小さなショックを受けていたのは確かだった。



臨也は、ぐ、と勢いをつけて壁から背中を離す。
横を向くと、いまだに俯いたままの静雄が焦点の合っていない目でひたすら地面を見つめていた。

「ねえシズちゃん」

正面に立って話しかければ、彼はすぐにそっぽを向いてしまう。

「さっきは悪かったよ、ごめん。でもね、これだけは聞いて欲しいんだ」
そう言うと、一瞬だけちら、と視線が交わう。
臨也は一呼吸ついてから、短気な静雄にもわかるよう、自分の思いを単純且つストレートに告げた。


「俺はね、シズちゃんが大っ嫌いなんだよ。」

「…………」

「バカだし、すぐキレるし、言葉遣い悪いし、物投げるわやかましいわでもう最悪」
「…手前、」
「そんなシズちゃんが俺はさ」



キスしたくなるほどに、嫌いで嫌いでたまらないんだよね。




そう言った瞬間、静雄は目を丸くして一体どうしたらいいのかわからない顔をした。
そんな彼の肩に手を置いて無理やりに屈ませると、臨也は一方的に自分の唇を相手の唇へ押し付ける。

まるで、"嫌い"の証をつけるかのように。





いがみ合っている者同士が繋がる感触は、実に不可解なものだった。












――いっそしてやろうか。






(ほんと、鈍いなぁ)









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あきゅろす。
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