闇にこそ輝く一等星
「で、なんでお前がここにいるんだ?」
目の前の席に座る幼なじみを少し鬱陶しそうに見るユーリ。頬杖をついて正面でニコニコと笑顔を浮かべるフレンに目を細める。一方のフレンはそんな事、気にする様子もなく座っている。
「空良に夕飯を招待されたんだ」
内緒にしておいたのが悪かったのか、その言葉に眉をピクリと動かすユーリ。そして視線がこちらに向いた。あ、ヤバい…と慌てて背を向け作業の続きをする。背中に突き刺さる視線がもの凄く痛い。言うと怒るし機嫌悪くなるんだもん。
「……へぇ」
微妙な棒読み返事が怖い。昼間は下町のみんなに囲まれてたからやっと二人きりになれると思ったんだろうな。それでもさっきまでは二人きりだった訳だし……まあ何かあったわけじゃないけど。もしかして期待されてたとか?過去の自分を思い返すとユーリの考えていたことがあたしの思うとおりなら想像も付かない。あたしが、てのが一番で。
「ふ、フレンにはお世話になってるしね」
間違ってない。何一つ間違ってない。このアパートを借りるための資金を立て替えてくれたのはフレン。職も紹介してくれたのもフレン。ザーフィアスで生活が出来るのはフレンおかげ、間違ってない。てか、ユーリに何かしてもらったことがないような?
「へいへい、どうせ俺は何もしてませんよ」
「まだ何も言ってないよ」
「ユーリは普段からだらしなさすぎなんだよ」
ユーリっていじけたり都合が悪くなると口調が棒読みになるよね。今は完全にいじけてる。本当のことだからいじけるんだろうけど。
「つーかお前、少しは気を利かせろよ」
「いいじゃないか、一緒にご飯を食べたって」
うーん、タイミングが悪かったかな。昼間あんなことになるなんて思ってなかったし。昨日の帰りに誘ったから尚更で。
「たまには三人でご飯もいいでしょ?」
あたしが戻ってきた当初しか一緒にいるってことはなかったし。ユーリとフレンは確かに毎日のように顔を合わせてるけど、どちらか片方だし。
「あたしが一緒に食べたいの。ダメ?」
出来た料理をテーブルに置く。誘ったのはあたし。文句があるならあたしに言って、とユーリを見つめればそっぽを向いて……文句は、なくもない。とまあ、ひねくれた回答。
「冷めちゃう前に食べちゃってね。味の保証はないけど」
部活ばっかやってた人間だから料理なんてほとんどしたことはない。見様見真似の作業だからホントに保証がない。じ、自分では食べれるからいいんだけど。そう言えば人に食べさせたことってない、かな?前は外で食べてたし。あれ?こんなんであたし招待したの?
「そう?美味しそうだよ。いただきます」
「食えりゃあいんだよ」
あんま気にしなかったけど周りの女子の気持ちが今わかったわ。一生懸命作ったものを食えりゃあいいって言われると腹立つかも。フレンみたいに気の利いたセリフは言えんものかな。そりゃ自信はないけど、喜ばそうって思わないものかね。
「美味しいよ、空良」
「……まあ、食えるからいいんじゃね」
「素直に喜べないけど、ありがとう」
どっちが彼氏だかわかんないよ。フレンが紳士というか天然というか。味音痴じゃないのにあの破壊的な味になる理由がわかんない。あたしを傷つけないようにそう言ってくれてるだけなのかな。ユーリもはっきりしないし、まあ食べる手を止めずに口に運んでくれてるからいいか。
「あ、そうだ。フレン、これ今月分ね」
白い封筒を差し出す。忘れないうちに渡しておかなきゃ。
「気にしなくていいのに」
「ダーメ。そういうことはちゃんとしないと」
ここで暮らすため借りたお金。どんな理由を付けても貰う理由にはならない。自分で稼げる以上、返さないとあたしの気が済まない。
「いいってんだから貰っとけばいいのに」
「ユーリは甘えすぎ」
やれやれと肩を竦めるユーリにビシッと指さす。お菓子買うお金ならともかくこんな大金受け取れないっての。
「これからもここで暮らしてくんだからちゃんとしなきゃね」
ここで暮らす。この言葉に互いの顔を合わせるユーリとフレン。そして答えるように笑顔を見せてくれた。
((ここが私の『生きる』場所))
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